お店のすぐ横を走るのは平成筑豊鉄道伊田線。『焼肉 幸楽園』は、時折ディーゼルカーのエンジン音がする場所に建つ。「両親が50年ほど前に田川の見立（みたて）という場所にあるセメント工場近くでお店を始めました。この場所になったのは今から14年ほど前ですね」と語ってくださるのは2代目店主・高原正樹さん。お客様から『おいしい』の一言をいただくために、すべてに手を抜かずにまごころを込めるのがモットーとのこと。厳選した黒毛和牛の焼肉やホルモン鍋などを食べられる。

まず見せてくださったのは『ホルモン鍋』に使う中央がくぼんだ独特の鉄鍋。年季が入っているようだが、ピカピカに磨きあげられている。「家で作る時などフライパンでもできるのですが、田川のホルモン鍋はやはりこの専用の鉄鍋がいいですね（笑）。初めはホルモンを網で焼いていたと思うのですが、身近にあったセメント袋を使ってみたらいい感じになり、それに近いものとしてこの鍋ができたようです。この鍋は先代から続いているもので、全部で4枚あります。50年くらい使っているということになります。数が足りないので鉄工所で作ってもらったのですが、ちょっと違う感じもするんですよ。父は『買ってきた』と言ってましたから、当時は売っていたのでしょうね。今は、同じものはどこにも売っていません。使い終わる度に、磨いて油を塗って大事に使っています」。

『ホルモン鍋』を注文すると、鉄鍋とともにホルモン、野菜、特製のタレなどが運ばれてくる。ホルモンの種類は牛小腸、牛大腸（シマチョウ）、ハチノス（牛第2胃）、センマイ（牛第3胃）、ハツ（豚心臓）だ。「味わいも歯ごたえも楽しめるミックスホルモンですね。きれいなものが届きますが、さらに洗っています。ハツやセンマイは独特の歯ごたえがありますし、ハチノスは煮込むといい味が出ます。ハチノスは韓国でも煮込み料理に使われていますね。ホルモンはあらかじめタレを揉み込んでいます。味噌ベースのタレは、お願いして作っていただくオリジナルの味噌に、醤油、ニンニクなどを合わせた特製のものです。焼肉のタレにも使っていますよ」。鉄鍋をよく熱したらホルモンを入れる。

ホルモンに火が通ったら、タマネギ、キャベツ、もやし、ニラの順に野菜をのせる。「煮詰まってきたらお好みでタレをかけて少し煮立てればできあがりです。ホルモンからも野菜からも出る旨味が溶け込んだ煮汁が重要です！（笑）。微妙にできる焦げもいいんですよね」。

口に運ぶと濃厚な味わいの中に、ホルモンの歯ごたえや野菜の甘みが楽しめる。焼酎に最高のつまみであり、ごはんもほしくなる。「田川の味は濃口、しっかりした味が好まれますね」。『ホルモン鍋セット』には〆のうどん玉がついているので、具材を食べてしまったら、うどんを投入。煮汁が染み込んだうどんも他では食べられない味わいだ。「うどんもつまみにもなりますね（笑）。ごはんを入れても美味しいですよ。『ホルモン鍋セット』は2人前ということでお出ししているのですが、初めての方は量に驚かれますが、〆までしっかり食べられます。私たちはまかないで煮汁にごはんとチーズをかけて食べたりもしています。それは『チーズホルモンめし』と呼んでます！お店のメニューにはありませんが、ミックスホルモンのお持ち帰りをやっていますので、家で作られる時はぜひ！」。

昔も今も『ホルモン鍋』をよく食べているという高原さん。田川のみなさんもよく食べているのだろうか？「田川の人は『ホルモン鍋』を何かの集まりごとがあったら食べていると思います（笑）。人口のわりには焼肉店が多いようですし、焼肉を食べた後に『ホルモン鍋』という流れですね。『ホルモン鍋』からはいい音といい香りがしますから、どなたかが食べ始めると、隣の方が頼む、さらにその隣も…『ホルモン鍋』の連鎖が始まることもよくありますね（笑）」。

ずっと田川に根付いている『ホルモン鍋』。その始まりは田川の石炭産業に由来する。「スーパーに行けば材料は売っていますし、決して豪華な料理ではないと思うのですが、歴史があって今も食べられているもの。田川の炭鉱マンたちを支えていたものですね。ホルモンはビタミンやミネラルが豊富ですし、野菜もたくさん食べられます。炭鉱マンたちの栄養源となり、明日への活力になっていたのでしょう。日本の経済を支えた石炭産業に欠かせない存在だったのだと思います。まかないで食べても力が出るんですよ（笑）。『ホルモン鍋』は田川人のソウルフードですね」。