九州の味とともに 春

佐賀 むつごろう

有明海の干潟が育む珍魚を
香ばしくて甘辛い味わいに

大きな干満差と干潟で知られる有明海。そこにはクチゾコ(有明海産のシタビラメ)、メカジャ(ミドリシャミセン貝)、ワラスボ(ハゼの仲間で細長く凶暴な顔立ちを持つ魚)…といった独特な名前と姿の魚介類が数多く棲息している。中でもユニークなのは、飛び出した目を持ち、干潟を胸ビレで這い回り、飛び跳ねる『むつごろう』。有明海の珍味として、特に沿岸地区では昔から食されている。

死んでしまうと途端に味が落ちてしまうため、生きたまま串に刺し、真っ黒になるまでじっくりと素焼きした後、味付けする。タレをかけて焼く蒲焼きもあるが、今では甘辛い煮汁で煮込む煮付けが一般的な料理法。素焼きしたものを冷凍保存し、煮付けにすれば一年中食べることができる。その他、みそ汁に入れたり、新鮮であれば刺身でも食べられる。春先から秋の終わりまで獲ることができるが、産卵前である春と、冬眠前の晩秋が、脂がのって美味しい時期だという。

暗褐色の『むつごろう』は、料理されることで、より真っ黒な塊となるが、姿からは想像できない香ばしく甘辛い独特の風味を持つ。頭から尾ビレまで残さず食べ尽くしたい。

むつごろう

■むつごろう漁について
有明海で長年にわたって漁を続けている『むつごろう亭 丸善』の田中善吾さんに、むつごろうの生態や漁についてお話をうかがった。

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■むつごろうの生態
「むつごろうは、暑さには強いけど寒さには弱い魚。寒い時期は潟の中に潜りこんどって外には出てこんよ。気温が18~20度になる4月後半くらいには巣穴から出てくるので、漁もそれぐらいから始まります。潟の上で跳ねる(オスがメスに対して行なう求愛のポーズ)のは6月くらい。この後ぐらいはメスは卵を持っているのでオスよりでかいし旨くなるよ。11月くらいまでは天気が良くて暖かい時は巣穴から出てくるね。秋のむつごろうは冬眠前だから大きくて脂ものっとるよ。むつごろうが食いよるのは、干潟についている苔みたいなもの(正式にはケイ藻)やね。最近、クロレラを食べるということがわかったみたいで、養殖もできるようになるのかもしれん。ただ、クロレラは値段が高いけん今はまだ難しいみたいやね。むつごろうは、一時期激減したけど、今は少し増えてきたよ。ただ、昔は大きさが30cmくらいはあったんやけど、今は大きいのでも20cmくらいしかないね」。

■むつごろう漁について
「『むつかけ』と『たかっぽ』という獲り方があるよ。釣り竿みたいなのを持って糸の先についた針でひっかけるのが『むつかけ』。
これは、腹のところにひっかけるから、むつごろうに傷がついてしまうんよね。今ではやる人も少なくなってきたよ。俺がやるのは『たかっぽ』。筒状の罠で、これを巣穴の上に仕掛けるんよ。

現在の『たかっぽ』

むつごろうが巣穴から出てきてその中に入ると、外に出られなくなるような仕掛けがしてあるんよ。エサは要らんね。今はプラスチックのパイプで作るけど、昔は竹で作りよった。竹で作るかっぽで『たかっぽ』なわけよ。

針金が入っており、一度入ると出られなくなる仕組み
上の部分が空いているのは、太陽の光を通すためなのだそう

潮が引いた時に潟スキーに乗って1時間で100本くらい仕掛けるかな。巣穴の上に仕掛けるから、次に出てきそうなとこに仕掛けんといかん。巣穴の回りの這い回った跡なんかを見るとわかるんよ。でも、中学の頃初めてやったときは25本しかけて3匹しか獲れんかった(笑)。今は成功率は7割くらいで、悪くても5割やね。1日で300匹獲れる日もあるよ。けどね、昔は河口にいっぱいおってね、網でつかまえるくらいおったんよ。よう食べよった」。

杉の木で作ったお手製の潟スキーを見せてくださった田中善吾さん。潟スキーは強く蹴って進むと時速20kmくらいは出るとのこと
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「むつごろう」、三様。

三人の料理人が語る、それぞれのこだわりとは

この料理の"味のキーワード"
むつごろうの素焼き

獲れたむつごろうは生きたまま頭から尾に向けて串刺しにし、ウロコを取るなどの下処理はせず、まるごと真っ黒になるまで焼く

調味料

酒、みりん、醤油、砂糖といった基本的な調味料だけで味付けする。醤油は地元の甘めの醤油を使うことが多い

作り方

煮付けは、酒や、酒とみりんを合わせたものなどで、素焼きしたむつごろうを煮込んだ後、醤油や砂糖で味付けしてさらに煮込む

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