九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

具材

イリコとニラが最も基本的な具材。キャベツやニンジンを入れたりもするし、奄美ならではの野菜を使うこともある

出汁

具材の一つにもなるイリコで出汁をとることが多いが、キビナゴを使うことも。鶏スープなどを使う店もある

作り方

フライパンに水をはってイリコで出汁をとり、そこに油を入れてそうめんとニラを加え、炒め和えるのが最もシンプルな作り方

語り 郷土料理 かずみ 西和美の「油ぞうめん」

西和美さん

店主の西和美さんは、奄美シマ唄の唄者(シマとは集落のこと)。
「好きな唄を好きな時にいつでも歌うには自分の店をもつことだと思ったんです」と、昭和58年に『郷土料理 かずみ』を開いた。

「田舎のおばあちゃんたちが作る家庭料理の味を出したくて、10年間くらいシマを回って訪ね歩き、勉強しました。縁側に座ってるおばあちゃんを見つけたら、そばに行って話聞いたりしてね(笑)。シマにある素材のさりげない味を大切にするシマ料理は、どれもとても美味しいと思います。『油ぞうめん』は大皿にどんと出す田舎料理。豊年祭りである『八月踊り』の時など、みんなが集まるところで出す、昔から大人数のために作る料理ですね。琉球に治められていた時代にはなかったけど、薩摩藩が島に入ってきてから作るようになったようです。『油ぞうめん』は昔から島の人たちが大切にしているそうめん料理。『急に何か作らないといけなくなった時のために』ということで、乾麺があると安心みたいですね(笑)。北のほうがスープが少なめで、南のほうに行くとにゅうめんっぽくなりますね」。

黒豚三枚肉の塩漬けは5mm幅に切る

カウンターの中にある厨房で『油ぞうめん』を作っていただいた。
取材におじゃました時の具材は、キャベツ、ニンジン、フル、マコモ、自家製の黒豚三枚肉の塩漬け。

野菜類は食べやすい大きさに切る

「フルはニラのようですが、茎ニンニクのことで奄美ではこう呼びます。フルは11月から3月にしかないので、これを見ると『奄美にも冬が来たなあ』という感じですね。フルがない時はニラを入れています。マコモは朝鮮タケノコとも言われ、水田で育ち、歯応えがいいですね。黒豚三枚肉の塩漬けは、奄美の黒豚の三枚肉を塩漬けして一日置いたあとゆでることで、身がしまり、脂がぬけるんです。家で作る時は、身近にあるものでいいので、ベーコンでも美味しいですよ。昔の具材は、茎ニンニクだけだったようですね」。

そうめんはゆでてよく洗う

まず、そうめんをゆでる。
「そうめんは、いろいろな太さのものがありますが、一番細いのを使っています。ゆでた後、水でよく洗うことが大切です。洗濯するみたいにじゃぶじゃぶ洗います(笑)。塩分と表面に残っている粉を取るためです。洗わないで使うとどろっとなるんですよね。奈良から取り寄せてますが、冬にたくさん注文したら、『今頃、何でですか?』と驚かれました(笑)。そうそう、奄美では、冷やしそうめんはあんまり食べないですね。なんかめんどくさい(笑)」。

黒豚三枚肉の塩漬け、ニンジン、キャベツ、マコモの順に炒める

5mm位の幅に切った黒豚三枚肉の塩漬け、ニンジン、キャベツ、マコモの順に炒める。野菜から水分が出たところで先ほどのそうめんを入れてからめ合わせ、フルを入れて最後に少しの醤油で味を整える。

そうめんを入れて全体をからめる

「黒豚三枚肉の塩漬けは、それだけでも酒の肴になるくらいしっかりと塩味をつけていますから、『油ぞうめん』を作る時は、ほとんど味付けはしなくていいんです。昔ながらの味付けでは、イリコやカツオブシを使いますね。作り方のコツとして、野菜だけを炒めて、そうめんをからめるという感じです。若い人に教えると、一生懸命に炒めてしまい、麺がべちゃべちゃになってしまいますね(笑)」。

フルを入れて、醤油で味を整えてできあがり

三枚肉の塩味が効いたさっぱりで素朴な味わい。奄美のあたたかさを感じる一皿だ。そこには、西さんのこんな想いも込められている。
「昔はテレビも何もなくて、じいちゃんやばあちゃんたちみんなと、唄って踊って食べて楽しんでいた時間があったんです。奄美には、『一重一瓶』という言葉があります。これは、重箱一つに料理を入れて、酒を1本もって来い、食べ物と飲み物をもって集まれみたいなものです(笑)。奄美には、いろんな唄や踊りや料理があるのですが、唄い継がれていない唄も多いのです。だから、唄も踊りも料理なども、いろんなことを伝承していくことも、私の仕事みたいな気持ちでやっています」。

毎夜、唄好きのお客さんの弾く奄美三線と西さんの歌声が響いている。その中でいただく奄美ならではの味は格別だ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

具材

キャベツ、ニンジン、フル(茎ニンニク)、マコモ(朝鮮タケノコ)、自家製の黒豚三枚肉の塩漬け。フルは11〜3月で、その他の時期はニラ

出汁

自家製の黒豚三枚肉の塩漬けの味と、野菜から出る水分がからみあったものが出汁の代わり。味付けもほとんどしない

作り方

黒豚三枚肉の塩漬け、ニンジン、キャベツ、マコモを炒め、ゆでてよく洗ったそうめんを投入してからめ合わせ、フルを入れて一炒め

このページを共有・ブックマークする

郷土料理 かずみ 生の島唄をBGMにいただく素朴な奄美の味

旬の魚や野菜を使った奄美ならではの大皿料理の数々。単品でも食べられるが、基本はおまかせのコース料理だ。『油ぞうめん』は、具材として入る自家製の黒豚三枚肉の塩漬けがいい味を出してくれるので、調味料はほとんど使わない。店主・西和美さんは奄美島唄の唄者でもあり、毎夜、唄好きのお客さんの弾く奄美三線と西さんの歌声が響き合う。

『油ぞうめん』(1人前 1000円)。
※単品もできるが基本はコース料理。コース料理2500円〜
奄美の野菜もたっぷりの『とんこつ』(2人分)1500円は、正月料理としてもよく食べられるとのこと
※単品もできるが基本はコース料理。コース料理2500円〜
奄美出身の歌手もよく訪れる。ここで唄を披露することも

郷土料理 かずみ

住所 奄美市名瀬末広町15-16
電話 0997-52-5414
営業 17:00〜23:00
17席
休み 不定
カード 不可
駐車場 なし
お店情報をプリントする