欠かせないのは、鶏肉、壱州豆腐、(あらかじめゆでておく)、そうめん。その他にゴボウ、白菜など季節の野菜が入る
鶏ガラからスープをとり、そこに醤油、砂糖、ミリン、酒などを加えて味付けする。やや甘めの味が壱岐でよく食べられている味だ
味付けされたスープが沸騰したら、具材を入れて煮込みながらいただく。ゆでそうめんは、温める程度でいただく。〆は雑炊で
入口上の外壁には店主・大野太郎さんの似顔絵。その絵そのままの笑顔と奥様の幸子さんが迎えてくれた。『お食事処 太郎』は地元の方に愛されている居酒屋。手頃な価格の肴がそろっている。
まず出していただいたのは、山盛りのイカの塩辛。街で食べる値段よりもはるかに安く提供されている。
「塩辛にするイカは一匹100円もしませんからね。他に使うのも塩だけですから(笑)。この味は誰にも負けません、自信作です(笑)」。
イカの塩辛と同じように精魂こめて作られているのが「他人には絶対にまかせられませんね」という『ひきとおし』だ。
「鶏ガラからスープを作りますが、まず骨を1時間ほどよく炒ります。さらに切ったゴボウを加えて炒ります。それから水を入れてアクをとりながら煮込んでいきます。鶏ガラを炒るのは、生臭くないようにしたり、独特のクセを取るためですね。ゴボウを一緒に炒めるとさらにいいスープが取れます。一度に2羽分くらいの鶏ガラを炒りますが、つきっきりなのでなかなか面倒ですよ(笑)」。
この鶏ガラスープに、醤油、砂糖、酒、ミリンなどを加えて味付けする。
「少し甘めですね。本格的な和食の職人で、『ひきとおし』を知らなければ、ここまで甘くはしないでしょうね」。
スープが煮たってきたら鶏肉、白菜、シイタケ、ゴボウ、コンニャクなどを先に入れ、ぐつぐつしてきたら壱州豆腐やエノキ、春菊、ネギなどを入れる。
「使っている壱岐の地鶏は、畑を走り回っているから元気がいいですよ。首を切り落としても鶏は走るしね(笑)。地元の鶏は、肉はしっかりした歯応えで、出汁はよく出ます。野菜類は変わることもありますが、ゴボウと壱岐ならではの壱州豆腐は欠かせませんね。田舎のほうでは、スープが少なくて炒り焼き風のところもあるようですよ」。
二人前を用意していただいたのだが、具材はお皿に山盛り。
「うちの『ひきとおし』は、3人で2人前を食べるくらいでちょうどいいですよ(笑)」。しかし、すいすいと食べ進み、そうめん、そして、〆の雑炊まで美味しくいただいた。「飽きがこない味ですよね。鶏肉だからかなぁ」。
量が多いのも、やはり“おもてなし”の心意気だ。
「『ひきとおし』は元々一般家庭のもてなし料理ですからね。なんかあって人が集まる時に作る料理だったんです。私が小さい頃は、鶏肉を使う『ひきとおし』は、ほんとにすごいごちそうでしたよ。もてなす、ふるまうのことを、壱岐の方言で“フレメー”と言います。『フレメー料理』という言い方もあって、『ひきとおし』は一番の『フレメー料理』なんですよ。白和えとかキンピラとかナマスとか煮しめなども『フレメー料理』で、特に白和えは必ず出ますね。壱岐では、ワカメを入れる白和えもありますよ」。
お話と一緒に、様々な『フレメー料理』も作っていただいた。お店を始めて40年、大野さん夫妻は壱岐の味を多くの方に伝えている。そして、いつも初心を忘れないようにしているそうだ。
「初めて『ひきとおし』を食べた方が『これはいいね!!』と言ってくださるのはとてもうれしいですね」。
鶏肉、野菜類は白菜、シイタケ、ゴボウ、コンニャク、シイタケ、エノキ、ネギ、春菊など。壱州豆腐とそうめんは不可欠
鶏ガラを1時間ほどよく炒り、さらに切ったゴボウを加えて炒った後、じっくり煮込む。醤油、砂糖、酒、ミリンなどを加え甘めに仕上げる
鶏肉の後、白菜、シイタケ、ゴボウ、コンニャクを先に入れ、ぐつぐつしてきたら壱州豆腐やエノキ、春菊、ネギ、そうめんなどを入れる
目印は、店の外壁に描かれている大将・大野さんの似顔絵。刺身をはじめ、壱岐に揚がる新鮮な魚介類を使った料理を食べられる。「誰にも負けない」という大野さん自慢の肴は、瑞々しい『イカの塩辛』だ。『ひきとおし』のベースは、鶏ガラをじっくりと炒ってから煮込んで作るスープ。甘めの味付けであらゆる世代に愛される味に仕上げている。