九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

シャリ

『茶台寿司』本来のシャリは甘めで濃いめの味付けだが、現在は、寿司ネタの味を生かすため、さっぱりした薄味のものも多い

寿司ネタ

シイタケ、タケノコ、大葉など野菜が中心。魚介は、地元でよく獲れる『ゼンゴアジ』を酢で締めたものがよく使われる

作り方

握ったシャリの上下をネタで挟む。シャリとネタが離れないように、ミツバで結ぶことも。皿にモザイク模様のように並べるお店も多い

語り 日本料理 喜楽庵 山本千代の「茶台寿司」

山本千代さん

樹々の茂る門から、玄関までの道も趣深い。そして、その道の先にある重厚な玄関。創業明治11年の『日本料理 喜楽庵』は、旬の魚介類を使った臼杵の味を提供している。『茶台寿司』も古くから臼杵に伝わる郷土料理だ。
「『茶台寿司』は1年中食べることができますが、春に食べることが多いお料理です。春ですと白魚のお吸い物と一緒に楽しんでいただけますね」。

女将・山本千代さんはそう語ってくださった。

職人さんの手さばきを見ながら、山本さんに、さらにお話をうかがう。

野菜、魚介、玉子焼きなど、下ごしらえした寿司ネタ

準備された寿司ネタは、シイタケ、ミョウガ、タケノコ、菜の花、スナップエンドウ、アジ、エビ、アナゴ、タコ、卵焼き、大葉など、野菜や魚介を下ごしらえしたもの。シャリを握って上下を寿司ネタで挟む。
「『茶台寿司』は、茶台をイメージしたお寿司です。元は野菜寿司ですから、上等な素材ではなく、手に入れやすい素材で作っていた家庭料理です。ネタは、それぞれ別々に料理して、味付けしています。うちは料亭ですから、エビやアナゴなども使っていますが、家で作る時は、アナゴやエビは使わないでしょうね。ただ、酢で締めたアジは、昔から使われていたようです。小ぶりの『ゼンゴアジ』が、このあたりでたくさん獲れますから。シャリは甘味の少ないあっさりしたものを、一口で食べられるくらいの大きさに握っています。元々の『茶台寿司』は、主婦が作っていたから、おにぎりみたいなもので大きいんです。通常の握り寿司の3倍くらいの大きさがあって、2個くらい食べるとお腹いっぱいになってしまいます。小さいほうが食べやすいし、いろいろな種類が食べたいですものね。シャリの味付けが、さっぱりとしているのは、それぞれの寿司ネタの美味しさを味わっていただきたいからです」。

酢で締めたアジと大葉の『茶台寿司』

1つのシャリにつけるネタは2つ。組み合わせは無限にありそうだが、決まった組み合わせがあるのだろうか?

エビと玉子焼きの『茶台寿司』

「例えばアジと大葉がよく合うとか、アナゴとシイタケが合うなど、ある程度組み合わせは決まっていたりもしますね。

タケノコとミョウガの『茶台寿司』

それから、色味が合うようにということも考えています。握る時は、すべてを握り終えてから皿に並べるのではなく、握っては皿に置くことを繰り返していきます」。

モザイク模様のように、きれいに並んだ『茶台寿司』

大皿に盛りつけられた『茶台寿司』は4人前。彩りもきれいだ。
「『茶台寿司』は1人〜2人前を作るのではなくて、たくさん作るとその良さがわかるんです。お皿に、華やかなモザイク模様ができてきれいですよね。でも、先ほどお話しましたように、基本のネタは野菜で、一つひとつにお金をかけてはいません。そんな慎ましいものだけれど、ごちそうに見えるんです。これは、臼杵に江戸時代から続く、質素倹約の心が息づいているものですね。お金をかけずに豪華に見せるという主婦の知恵でもあります。お祝いという意味で作られることもありますが、それよりも臼杵では、おもてなしのお料理なんですよ。春はタケノコや絹さや、夏はオクラなどを使い、お皿ではなくてカゴに盛ったりと、季節ごとの色合いも楽しめます。臼杵には、腐葉土から肥料を作る堆肥工場がありまして、有機野菜も盛んに栽培されています。うちで使う野菜も臼杵の野菜です。美味しい野菜がたくさんあるので、うちの『茶台寿司』も新しい寿司ネタを使った現代版が登場することがあるかもしれませんね(笑)」。

下にエビがあるものなど、普通では見られない握り寿司だ

どれを食べるか一瞬迷った後に、菜の花とタケノコを口の中へ。2つの素材とシャリが口の中で調和する。

「食べ方のルールはないので、お好きなようにどうぞ。それぞれに味付けされていますから、醤油をつけなくても美味しいですよ。県外の方は、特に珍しがって食べてくださいますね」。

取材におじゃましたのは2月下旬。廊下の一角に、紙で作られた素朴な『紙雛』が飾られていた。
「天保の改革の頃、臼杵藩では質素倹約のため、庶民は紙雛しか飾ることが許されなかったんです。親たちは子を想い、工夫して作りました。そんな質素倹約の精神は、今も臼杵に根付いています。このあたりの主婦たちは賢くて、魚も切り身では買わずに、1匹ものを買ってさばきますから(笑)。ですが、フグ料理がよく知られるようになるずっと前から、私たちのような料理屋さんも多いのです。普段は、慎ましやかな生活を送りながら、お祝い事や仏事は料理屋さんで行なう。それは、特別な日を大切にする昔の日本の姿ですね。小さな街ですが、街並みも含めて臼杵には、昔の日本が残っています。それは、街のみんなで、“この街を残そう”と知恵を出してきた結果でもあります。『茶台寿司』も、臼杵に昔からある伝統料理として、大事にしていかないといけないですね」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

シャリ

シャリは甘味の少ないあっさりした味付け。それぞれの寿司ネタの美味しさをより味わうことができる

寿司ネタ

春はタケノコ、夏はオクラなど、旬の野菜を中心に使う。魚介は定番のアジに加えて、エビやアナゴも。それぞれ別々の味付けだ

作り方

シャリの上下を寿司ネタで挟み、皿に並べることを繰り返して盛りつける。ネタの組み合わせは味わいと見た目の美しさがポイントだ

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日本料理 喜楽庵 創業明治11年。臼杵の味とふぐ料理を

創業以来、落ち着いた空間の中で、地元の海の幸、山の幸を使った料理を提供している老舗料亭。茶台寿司、黄飯、きらすまめしといった郷土料理、臼杵藩稲葉家の伝統料理など、臼杵ならではの味を堪能できる。ふぐの美味しい秋から春までは、その日に仕入れた、新鮮なとらふぐを使った、ふぐ料理で知られ、特に12月から春までは白子も食べられる。

『茶台寿司』はお吸い物がついて1人3,150円〜。写真は4人前 ※要予約
『ふぐちり』は『ふぐ料理』の中の一品。天然ふぐは時価で13,650円〜21,000円(サ別)
個室は、全室が庭に面しており、ゆっくりと食事が楽しめる

日本料理 喜楽庵

住所 臼杵市城南9組
電話 0972-63-8855
営業 11:30〜/17:00〜
※完全予約制
※ふぐ料理は8月中旬〜4月頃まで
定休日 月曜または火曜
座敷の個室3部屋、椅子席の個室3部屋、中広間、大広間
カード
駐車場 あり
URL http://www.kirakuan.jp/
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