固めに炊いたごはんに砂糖、酢などを加えて味付けする。砂糖の量は一般的な寿司のシャリよりも多く、味わいは甘めだ
煮付けたゴボウ・シイタケ・カンピョウ・ハンペン(カマボコ)・錦糸卵が、現在作られている『大村寿司』の基本的な具材
もろぶたの中でシャリ、具材、シャリ、具材と重ねていき、ふたをして押さえる。食べる前に5cm角くらいに切り分ける
『大村寿司』ゆかりの大村藩主は、16代・大村純伊(→ 概要ページ参照)。そして、19代・大村喜前(よしあき)は1599年に玖島城(くしまじょう)を築城した。別名大村城とも呼ばれる玖島城内に位置するのが、明治27年(1894年)に料亭として創業した『梅ヶ枝荘』だ。
「先祖は台所番として大村藩に仕えていたんです。城内にあるお店はうちだけですね」。
おだやかにお話してくださるのは店主・佐藤和也さんだ。
個室もあり、予約をすれば会席料理を味わえる他、気軽に『大村寿司』や菅原道真ゆかりの焼餅を愉しむこともできる。
「大村には、お祭りの時に郷土芸能である黒丸踊(くろまるおどり)などが披露されるのですが、その時に『大村寿司』も必ず登場します。『大村寿司』は、大村でお祭りがある時や、お祝い事がある時には欠かせないものです。大村の大切な文化ですね。作るのは、それほど難しくない押し寿司ですが、大村のお寿司だと、みんな思っていますよ。
ここ玖島城址がある大村公園は桜の名所で、お花見の季節が一番にぎわいます。うちでは、『大村寿司』と焼餅を食べられます」。
見た目にも華やかな『大村寿司』の作り方を見せていただいた。
「シャリは普通のごはんより固めに炊いたものに、少し甘めの合わせ酢を加えて混ぜます。関東あたりではシャリに砂糖は使わないようですが、西日本では使う地域もありますよね。砂糖が手に入りやすかった長崎では、特に“めでたい時には砂糖を使おう”という意識があったのでしょう。ただ、砂糖は使っていますが、酢も入っているので、それほどベタベタした甘さではありません。全体的には、さっぱりしていると思いますよ。
このシャリを、もろぶた(木製の浅い箱)に敷き詰めます。うちのもろぶたは特製で建具屋さんに作ってもらっています。昔は桶屋さんが作っていたようですね」。
一段目のシャリの上に、醤油と砂糖で煮付けたゴボウとニンジンがのせられる。
「味付けは同じですが煮る時間は少し変えています。
ゴボウとニンジンをのせたら、上にシャリをのせて広げ、ゴマをふり、煮付けたカンピョウとシイタケをのせます。
カンピョウとシイタケも味付けは同じですが、煮る時間は変えていますね。
さらに、ハンペンと錦糸卵をちらします。ハンペンは、長崎ではカマボコのことです。みなさんがよく知っている半円型ではなく、板状でピンク色と緑色をしたものがあるんですよ。多分、それを使うのはチャンポン・皿うどんと『大村寿司』ぐらいではないでしょうか(笑)。うちのハンペンは五島(ごとう・長崎県の離島)から取り寄せています。『大村寿司』の特徴の一つは野菜をたくさん使うことですね。黒田五寸人参(くろだごすんにんじん)という大村特産のニンジンも使っていますよ」。
具材がすべてのせられたら、ふたをして上からしっかりと押さえた後、5cm角くらいに切る。
「押さえる時、今は手で押さえていますが、昔は足で踏んで押し固めたりもしていたそうですよ。
侍が脇差しで切って食べたとも言われていまして、木の定規を使い、菜切り包丁で切り分けます。5cm×5cmに切ったものが基本の大きさで1角(いっかく)と呼びます。4角だと4コということですね。うちでは1人前4角でお出ししています。4角でお米1合くらいはあるんですよ。しっかり押してますからね(笑)。多人数で分けて食べやすいように切り分けているだけですから、崩しながら食べていただいてもかまいません。ご自由にどうぞ!」。
彩りもきれいな『大村寿司』はまろやかな味わい。具材の味わいをシャリが包み込んでいる。
「少し甘めですから、子どもさんにも好まれますね。私は小さい頃、作っている途中に、つまみ食いするのが大好きでした。大村では赤飯の代わりみたいなもので、かつては家庭でもよく作っていたのですが、今は家ではあまり作らなくなってきてますね。お寿司屋さんや定食屋さん、スーパーにも置いていますしね。だから、郷土のお寿司ということで、小学校に教えに行ったりもするんですよ。みんなで作って食べたりしています。私は若い人にもっと『大村寿司』を食べてもらいたくて、ニンジンとゴボウの代わりに焼アナゴを挟んだものも作っているんですよ」。
佐藤さんは催事などで全国各地へ『大村寿司』を販売しに行くこともあるとのこと。他の場所に、似たような寿司はあるのだろうか?
「山口の『岩国寿司』、京都の網野にある『ばらずし』は、『大村寿司』に似ていると思いました。寿司と言えば、関東では職人さんが作る“握り”が主流ですが、西日本には押し寿司の文化がありますね。『大村寿司』も特に関西では評判がいいですよ」。
佐藤さんは『大村寿司』を郷土の子どもたちにも、全国の人々にも伝えている。
普通のごはんより固めに炊いたものに、少し甘めの合わせ酢を加えて作る。酢も入っているのでさっぱりとした甘さを持つ
砂糖と醤油でそれぞれ別々に炊いたゴボウ・ニンジン・カンピョウ・シイタケと、ゴマ、ハンペン(カマボコ)、錦糸卵を使う
もろぶたにシャリと具材を入れたら、ふたをして全身の力でしっかりと押さえる。シャリと具材が馴染むことでより美味となる
明治27年、玖島城内に創業。ご先祖は台所番として大村藩に仕えていたとのことだ。予約すれば会席料理も味わえる上、気軽に『大村寿司』や焼餅を愉しむこともできる。『大村寿司』は、少し固めに炊き、甘めの合わせ酢で作りあげた、まろやかなシャリが特徴。昔ながらの具材を使ったものに加え、焼アナゴを使ったオリジナルの『大村寿司』もある。