魚介類は、アジ、サバなどの青魚を使うことが多いが、地域によって異なる。野菜は大根、ニンジンなどの他、キュウリ、ネギなども
味噌、砂糖、酢などで作るが、家庭(作り手)によって酸味が強いもの、甘味が強いものなど様々。すりゴマが加わる場合も多い
魚介類は刺身か酢でしめたもの。野菜は塩をしてしっとりとさせる。食べる直前に和えたり、和えて味をなじませたりと和え方は様々だ
田園や畑が広がる小城市の一角にある『粒家』は、巻寿司などお米を使った加工品を中心に製造・出荷している。店主・中村津多子さんは、そのかたわら、『さが“食と農”絆づくりプロジェクト会議』の一員として、『食と農の絆づくり』『食の伝承塾』の活動も行なっている。
「母に作ってもらって食べたもの、母から教わったものを伝えていくのが食の伝承。いろいろと若い人に伝えていくのが目的ですね」。
『かけ和え』も中村さんが次の世代に伝えていきたい料理の一つなのだ。
作り方を教えていただいた。まずはイワシを3枚におろして皮をはぐ。
「使う魚はイワシが多いですが、場所によってしめサバ、クジラ、イカなどを入れたりすることもありますね。皮をはいだら、魚の臭みをとるのと身をしめるため塩でもみ、酢につけておきます」。
大根とニンジンは短冊切りにして塩をまぶしてねかせておく。
「田舎のほうでは、小さく切らずにざっくり切っていることが多いですね(笑)。うすく塩をしてなじませます。うす塩で長い時間をかけたほうがしんなりしていいですね。祭りの時など大量に作るときは、前の日から仕込んでいましたよ。スライサーなんかもあるけど、やっぱり手切りです。お年寄りに『スライサーはだめ』とよく言われてました(笑)。手切りのほうが美味しいですからね。ニンジンは色が出るので、大根とニンジンは別々のボウルでねかせておきます。酢と砂糖を入れて和えればなますになりますね」。
準備した魚と野菜を“酢味噌”で和えれば『かけ和え』のできあがりだが、ただの酢味噌ではない。
「まずゴマをすり鉢ですってなめらかにします。たくさん作る時は一人が大きなすり鉢をささえ、一人が太いすりこぎですったりしますね(笑)。そこに味噌と砂糖と酢を入れてまぜるんです。普通の酢味噌には、ゴマは入っていませんからね。『かけ和え』はゴマたっぷりのほうが美味しいですよ」。
しめたイワシをななめそぎ切りにして、水気をしぼった大根、ニンジンと一緒に和える。
「魚は表面の色が変わるくらいまでにして、しめすぎないようにしないと美味しくないですね。すべての食材を入れたら手で和えます。箸でやるとうまくまざらないので手で混ぜたほうがいいんです。彩り添えにネギの小口切りを散らせばできあがりです。キュウリを混ぜ込んでいるところもありますよ」。
大根とニンジンのシャキシャキとした歯応えの中にイワシの旨味が広がる。甘酸っぱくて香ばしい、ゴマ入り酢味噌も全体によくからんでいる。
「手早くできますし、なんてことない家庭料理ですよね(笑)。私が作っているのも母の味なんです。教わったわけではないけど、母に作ってもらった味は覚えているんですよね。佐賀の行事食として、ブリの煮付け、イワシの焼き魚、なます、かけ和えは定番中の定番です。お正月やお祭りとかで、知らないうちに食べていました。生まれたときからそばにあった料理なんです」。
『かけ和え』は家庭料理であるゆえ、一つの決まった形があるわけではないのだそうだ。
「海に近い所と山の中では、材料も作り方も違ったりします。私もよく食べてましたが、私は小さい頃は多久の山手に住んでいたので、当時は、ほとんどクジラを使っていましたね。貴重でした。ただ、海のものと畑のものをかけ合わせて作るのは、どこも同じようです。かけあわせて作るから『かけ和え』と呼ばれているのかもしれません。シンプルだけど奥が深い料理ですね」。
中村さんは、『食の伝承塾』の活動として、子どもたちに様々な家庭料理の作り方を教えている。もちろん『かけ和え』の作り方も。
「佐賀の若い人たちは『かけ和え』を、食べたことあるけど知らないという人も多いかもしれませんね。だけど食べたことはあるのだから大丈夫。『かけ和え』は安泰です(笑)。どこの祭りに行っても出てきますしね。ずっと伝えていきたいと思っています」。
イワシを3枚におろしたものを塩でもみ、酢でしめておく。大根とニンジンは短冊切りにして塩をまぶしてしばらくねかせておく
まず、ゴマをすり鉢ですってなめらかにする。そこに味噌と砂糖と酢を入れてまぜる。ゴマたっぷりのほうが美味しいのだそうだ
しめたイワシをななめそぎ切りに。水気をしぼった大根、ニンジンと一緒にして酢味噌で和える。手で素早く和えるのがコツとのこと
自家製の米や餅米を使った寿司、赤飯(祝い事用)、山菜おこわ、餅(鏡餅、踏み餅、法事用ほか)を中心に、漬け物や卵焼きなどを製造。近隣の直売所に出荷している。「米粒、麦粒、豆粒と、農家は“粒”が基本、大事にせんといかんです。だから屋号は『粒家』」と、店主・中村津多子さん談。
※通常は『かけ和え』の製造・出荷は行なっていない。