半分に切り、中に入っている不要物を取り除く。塩揉みや水洗い、下ゆですることで,ぬめりや汚れを取り除く
『わけのしんのす』の味を生かすため、味噌煮の味付けはシンプル。使われる調味料は、味噌、ミリン、酒など
長く煮込むとやわらかくなってしまうので、コリコリとした食感を残すため適度に煮込むことがポイント
いただいた名刺の裏には、『貴方は当店でイソギンチャクを食べた事を証明します』という言葉が書かれていた。
「『わけ(わけのしんのす)』を食べてくださった方には、さしあげているんですよ(笑)」。
店主・津村哲夫さんのユニークなサービスだ。開店は昭和55年、津村さんのお話によると、『わけのしんのす』という言葉が知られるようになったのは、開店の10年くらい前からとのこと。
「昔の、有明海はアサリが豊富にいて、潮干狩りが盛んでした。その時、砂地に殻のない丸い貝のような生物もいて、それをみんな貝だと思って獲っていたのです。“丸い”=“輪”、そして、この界隈では、貝のことを“ケ”とか“ギ”などと呼んでいました。それで、この生物を『輪貝(わけ)』と呼んでいたわけです。そこに『しんのす』がくっついて『わけのしんのす』になったようですよ。確かに見た目が『しんのす(=お尻の穴)』に似ていることもありますが(笑)。柳川では、たいてい『わけ』と呼んでいて、イソギンチャクと言う人はいませんね。『わけ』を食べる習慣は、柳川の一部が中心で、他の地域ではあまり食べられていません。有明海に面した熊本の漁師さんと話した時に、『他に食べる魚はいっぱいおるし、俺たちはイソギンチャクは食べんね。けれど、柳川の人たちは有明海で獲れるものは、なんでも食べるね』と言われたことがあります。柳川の人たちは、昔から有明海をとても大切にしているんだと思いますね。それと、おもしろい話があって、山鹿や菊池の方たちが、うちに来て『わけの味噌煮』を食べた時に、とても懐かしがっていらっしゃったんです。山鹿も菊池も海に面していないのになぜだろうと思いました。お話を伺うと、当時、行商の人たちが有明海に注ぐ菊池川をのぼってきて『わけ』も売りに来ていたのだそうです。だから小さい頃に食べていたということでした」。
『わけ』に関する様々なお話をして下さる津村さん。『わけ』の生体に関するお話も聞かせてくださった。
「『わけ』は、触っても大丈夫ですが触手に毒を持っているようです。有明海には2種類の『わけ』がいて、正式名称はイシワケイソギンチャクとハナワケイソギンチャク。ハナワケは、歯応えがなくてプニュプニュしているので、柳川で食べているのは歯応えのあるイシワケイソギンチャクです。一年中獲れますが、春に大きくなるようです。梅雨のときは少し獲れにくいようですね。真水は嫌いみたいですよ。けれど、真水と海水が混ざる場所が好きなんですよね。春の3月〜4月くらいが特に美味しいような気がします」。
厨房で『わけの味噌煮』作りも見せていただいた。
「『わけ』は生で食べることはなく、必ず火を通して食べます。味噌煮が基本ですが、高田町や山門町という場所では醤油煮で食べることも多いようですね。あと、味噌汁に入れたり、唐揚げにすることもあります。
『味噌煮』作りは、まず、『わけ』を半分に切って中の砂などを取り除きます。アサリの稚貝を殻ごと飲み込んでいるので、手で触って確認しながら、その殻もきれいに取り出します。
そして、鍋に油をひいて軽く炒めます。『わけ』は、やわらかいから表面をしめるためなんです。
天然の地下水を、ひたひたになるくらい入れ、地元の味噌を溶いて、さらに、みりんを入れて煮込んでいきますが、煮込みすぎると、やわらかくなってしまうので、歯応えが残るくらいまでですね。
コリコリ感が残るくらいに、適度に煮ることが大切です。
できあがっても一晩おいたほうが、味が染みて美味しくなりますね。うちでも、味が染みたものを温めてお出ししています。『わけ』は砂地にいて、保護色である砂の色をしています。『わけ』だけではなく、有明海の魚介は、地味な色味のものが多いです。料理人としては盛映え(もりばえ)しないですね(笑)」。
煮汁もたっぷりの『わけの味噌煮』。口に運べば、コリコリとした食感と独特の風味にからまる味噌の味。焼酎によく合う味わいだ。
「つまみにもなりますが、ごはんのおかずにもなりますね。ごはんに汁ごとかけて食べても美味しいですよ。私も小さい頃、おやじが食べているのを横からつまんで、ごはんのおかずにしてましたからね(笑)」。
醤油煮、唐揚げも作っていただいた。味噌煮と違い、炒めずにそのまま煮込む醤油煮も、味わいがカキに似ている唐揚げも、食感が味噌煮とは異なる。まさに有明海の珍味だ。
「有明海は私たちの宝物。観光の方々にも、有明海のことを知ってもらいたいと思っています。一度食べていただければ話題にもなりますしね。食べていただいた時に正しい話をお伝えするために、有明海のことをずい分と勉強したんですよ」。
『わけ』を半分に切って中の砂などを取り除く。アサリを殻ごと飲み込んでいるので、手で触って確認しながら、殻もきれいに取り出す
『味噌煮』の煮汁は、天然の地下水に地元の味噌と、みりんを加えたもの。シンプルな味付けで『わけ』の味わいを引き出す
軽く炒めて表面をしめてから煮込む。やわらかくなり過ぎないように、コリコリとした歯応えが残るくらいまで煮込む
ムツゴロウ、クチゾコ…壁に描かれた、有明海で獲れる魚介のイラストが目印。メニューに並ぶのは、有明海の珍しい魚介を使った郷土料理が中心だ。下ごしらえした『わけ(わけのしんのす)』を炒めてから味噌で煮込んだ『わけの味噌煮』は、コリコリとした食感も、潮の風味も珍味。店主・津村哲夫さんのお話をうかがうと、さらに記憶に残る味わいとなる。
住所 | 柳川市本城町51-1 筑紫ビル1階 |
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電話 | 0944-74-0655 |
営業 | 11:00〜21:00(※14:30〜17:00は買い出しなどで不在の時もあり) |
定休日 | 不定 |
席 | 30席 |
カード | 不可 |
駐車場 | あり |
URL | http://foodpia.geocities.jp/sgfdm281/ |