『こじま』の角煮を作る工場は2010年8月に完成。しかし、工場と言ってもほとんどは手作業。機械化されているのは、大きな塊で仕入れた生肉を鍋に入る大きさに切る作業と、肉の毛を焼く作業だけ。この毛を焼く機械は、キャタピラーのようなものに肉が皮を下にしてのせられ、ベルトコンベアーのように流れていく。その下からガスの炎で炙るというものだ。

「角煮には皮付きの豚の三枚肉が欠かせません。鎖国時代の長崎は皮付きの豚肉が普通だったわけですし、皮のもちもち感や皮と身の間のコラーゲンが角煮には必要だからです。そこで、まず皮についている毛をきれいに処理することが大切なんです。昔はバーナーで焼いてたけど、今は私が考えたこの機械を使ってます。世界に一つしかないですよ（笑）」。
『こじま』のご主人・児島徳二郎さんは長きにわたって和食を作り続けている料理人。毛の処理の後は、昔から変わらない手法で角煮が作られている。
「割烹のやり方でつくる角煮で、すべて手作業です。機械化はなかなかできませんね。一手間二手間かけて作るというよりも、手間を惜しんではいけないのです」。

皮付き三枚肉の塊を30分ほどゆでてアクと余分な脂を取り除く。一般の角煮サイズに切ったあと、水を代えて再び1時間ほどゆでる。「2回目のゆでる工程で、肉をやわらかくして味が染み込みやすいようにするわけです」。その後、タレと一緒に2時間かけて煮て、味付けをするが、その間も丹念にアク取りをする。煮込みが終わったら、粗熱をとって冷蔵庫に一晩寝かせ、味がしっかり染み込めばできあがりだ。

タレの基本的な材料は、醤油、酒、砂糖、みりん、ショウガ。酒はアミノ酸が入ってないものを使っているとのこと。新しく作るタレだけではなく、煮込みが終わった後のタレを長年継ぎ足し継ぎ足しして使い続けているものも加えられる。それは『こじま』の歴史とも言える秘伝のタレだ。

児島さんが目指している料理、それは食べてくれるお客さんから「旨かね～」と言ってもらえる料理なのだという。「『美味しい』よりも『旨かね～』のほうが、人情味があるというか、真心がこもっているというか、あたたかい言葉だと思うんです。特に角煮のような素朴な料理には『旨かね～』という言葉のほうが合うと思うんです。そんな言葉をいただいたら、本当にうれしいですね。」
一片一片の角煮には、そんな想いが込められている。