基本的な具材は、イカの身とゲソ、豚肉(三枚肉の場合が多い)、ニガナ。島豆腐やその他の野菜が入ることもある
イカスミが味付けのベースとなり、塩で味を整える。具材を煮る昆布カツオ出汁や、イカから出る旨味も味わいを作る要素だ
具材をほどよく煮込み、仕上げにイカスミを加える。ニガナなどの葉物野菜を最後に入れてできあがり
沖縄本島南部にある奥武島(おうじま)。周囲が約1.7kmという島は、本島と橋で結ばれている。橋を渡ってすぐの場所に、『いまいゆの店 奥武島海産食堂』の看板を見ることができる。“いゆ”とは沖縄の言葉で“魚”のこと。“いまいゆ”とは新鮮な魚という意味で、とてもわかりやすい名前のお店だ。
店主・知念正二さんは二代目。お母様が1978年に始められたお店を引き継いでいらっしゃる。
「奥武島は新鮮な魚がたくさん獲れます。モズクやスクガラス(沖縄でよく食べられている魚の塩辛)の材料となるアイゴの稚魚もよく獲れますよ。イカはアオリイカで、定置網で獲れますね。すぐ近くの海でも獲れるんですよ」。
刺身やバター焼きといった魚介を使ったメニューが並ぶ中、こちらでは『イカスミ汁』ではなく、『イカ汁』と書かれている。
「沖縄では、『イカスミ汁』ではなく、『イカ汁』とか『スミ汁』と呼ぶことも多いですね。うちでは『イカ汁』です」。
厨房で『イカスミ汁』のお話をうかがった。
「材料はイカ、豚肉、ニンジン、ニガナ。これは『イカ汁』の一番基本的な材料ですね。ニガナは苦みの強い葉野菜で、沖縄では、よく使う食材です。小さく切ってサラダに入れたりもします」。
イカは体長50cmほど。丁寧に下ごしらえされる。
「イカの表と言いますか、ミミの方から縦に包丁を入れます。表側の下にはプラスチックのような甲(軟骨)が入っていて、その下に内臓やスミ袋があるんです。腹側から切るとスミが入っているスミ袋を破ってしまいますからね。
そして、スミ袋を取り出し、目玉を取り、ワタを取り、身やゲソを切っていきます。
目玉を取る時に黒いのが出ますが、これはスミではないんです。イカは、さばくというよりも、仕込むという感じですかね」。
イカの身とゲソは幅1cm、長さ10cmくらいで、大きめに切られているように見える。
「イカは煮ると縮みますから、大きめに切っておくんですよ」。
すべての材料の準備ができたところで、煮込み始める。
「カツオ出汁の中にすべての材料を入れます。そして、スミ袋を鍋の上で破るんです。これが一番まわりが汚れませんからね(笑)。生き物ですから、スミ袋の大きさも違いますし、中に入っているスミの量も違います。捕まる時にスミを大量に吐いてしまったイカもいます。ですから、スミが足りない時はスミだけを足したりもしています。沖縄ではイカスミだけでも普通に手に入りますからね。スーパーでも売られているくらいですよ。そうして、1時間ほど煮込みます。イカはじっくり煮ると、やわらかくなるんですよ。一度吹き上がったら、あとは火を、ごく弱火にして煮ていきます。コトコト煮るときの火よりも、もっと小さな火ですよ。そうしないと、イカスミが全部鍋肌に寄ってしまって、鍋にくっついてしまうんです。最後に塩で味を調整します。味付けは、イカスミと塩だけですね」。
できあがった『イカ汁』は、すぐに提供されるわけではない。
「このまま一晩ねかせておきます。それぞれの具材に味が染みて、美味しくなるんですよ」。
昨日作った『イカ汁』を温めたものをいただいた。イカスミの味わいが濃厚で、イカにも豚肉にもニンジンにも、その旨味がしっかりと染み込んでいる。
「うちの『イカ汁』は新鮮なイカを使っているし、イカスミをいっぱい入れてますからね。イカスミが濃いほうが美味しいと思いますよ! 熱い汁ものですが、暑い夏でも、みなさん食べられますね」。
滋味たっぷりの『イカ汁』は、漁師さんたちにも、よく食べられている沖縄料理だ。
具材はアオリイカの身とゲソ、豚肉、ニンジン、ニガナ。イカは煮ると縮むので、大きめに切る
味付けは写真のスミ袋から取り出したイカスミと、塩のみ。スミ袋は個体により大きさが異なるので、イカスミだけを追加することもある
カツオ出汁の中に具材をすべて入れた後、イカスミを入れて1時間ほど煮込む。塩で味を整えた後、一晩ねかせて味を染み込ませる
店名の通り、沖縄本島南部・奥武島(おうじま)にあり、地元の方にも愛されている食堂。刺身定食や魚のバター焼き定食など、島に揚がる新鮮な魚介を使ったボリューム満点の定食類が豊富にそろう。『イカ汁』は、新鮮なイカの身とイカスミを使い、豚肉、ニンジン、ニガナと一緒にじっくり煮込んだ後、一晩置いて味を染み込ませている。