基本的な具材は、イカの身とゲソ、豚肉(三枚肉の場合が多い)、ニガナ。島豆腐やその他の野菜が入ることもある
イカスミが味付けのベースとなり、塩で味を整える。具材を煮る昆布カツオ出汁や、イカから出る旨味も味わいを作る要素だ
具材をほどよく煮込み、仕上げにイカスミを加える。ニガナなどの葉物野菜を最後に入れてできあがり
2008年5月に開店した『汁処 まぁさん堂』。
「これまでレストランや居酒屋などをやっていたのですが、まだやったことのなかった定食屋をやってみようと思ったんです」と店主・狩俣成則さん。『フーチャンプルー』、『ナス味噌』などのメニューが、カウンターの上に貼られている。もちろん、沖縄の定食屋ではどこでも単品ではなく、自動的にごはんや汁物がついてきて“定食”になります。例えば、「イカスミ汁」を注文すると、ごはんと小鉢などが付いてきます。
「沖縄の方は男性も女性も、たくさん食べられる方が多いですからね」。
“汁処”だけに、『イカスミ汁』以外にも、豚肉など具沢山で、白味噌仕立の『イナムドゥチ汁』、豚肉の内臓を使った『中味汁』、『味噌汁』といった汁物メニューも作られている。『味噌汁』といっても、豆腐、豚肉、野菜などが入っていて、『豚汁』のイメージに近いものだ。
狩俣さんに『イカスミ汁』を作っていただいた。
「材料は、イカの身とゲソ、豚肉、島豆腐、タマネギ。沖縄では仕上げにニガナを入れることも多いのですが、うちでは沖縄でシロナと呼んでいる山東菜(さんとうさい)を入れています。
あらかじめ米味噌をカツオ出汁で溶いておいたもの(他の汁物料理にも使う)をカツオ出汁に入れ、さらに具材を入れて煮ていきます。出汁には、イカの旨味や具材の旨味も加わるというわけです」。
材料に火が通ったところで、『イカスミ汁』の“素”が仕上げに加えられる。
「イカをさばいてスミ袋を取り出すのですが、そのスミ袋をミキサーにかけて、お酒でのばしたものです。スミ袋の中に入っているスミだけではなくて、スミ袋ごと使っていますので、より濃厚ですね。多少、塩で調整しますが、『イカスミ汁』の味付けは、カツオ出汁と味噌、それにイカスミで決まります。火を通す時間は、アクをとりながら全体で5分くらい。うちは定食屋だから早く作らないといけませんからね」。
最後にシロナを入れて、ネギを散らしてできあがり。真っ黒な汁の中は具材もたっぷり。上手な食べ方があるのだろうか?
「特に食べ方はないので、お好きなように食べてください! ただ、服を汚さないように注意して食べてくださいね。イカスミは服についたら取れませんよ(笑)」。
イカスミの香りと旨味に具材の風味も加わった汁は、まろやかな味わい。真っ黒な見た目からは想像できない、やわらかな味だ。しかし、口の中は真っ黒に。
「お昼ごはんで食べられる方は、口をゆすいでから帰る方も多いですね(笑)。『イカスミ汁』は皆さん小さい頃から食べていらっしゃいますし、温かい汁物ですが、夏でも変わらずに、よく食べていただいています。『イカスミ汁』の汁がないものといいますか、『イカスミ炒め』がお好きな方もいらっしゃいますよ。『イカスミ』を使った料理は、沖縄では特別なものじゃなく、一般的に親しまれ、食べられているものなんです」。
定食屋さんでお仕事をされている狩俣さん。日々、喜びを感じられているそうです。
「毎日来てくださるお客さんもいて、お客さんとの会話も楽しいですね。お客さん同士のコミュニケーションもあるみたいです」。
そんな雰囲気と同じように、『イカスミ汁』は沖縄の日常に溶け込んだ料理なのだ。
イカの身と、ゲソ、豚肉、島豆腐、タマネギ、沖縄ではシロナと呼ばれている山東菜(さんとうさい)を使う
ベースは、イカのスミ袋ごとミキサーにかけ、酒でのばしたもの(写真)。カツオ出汁と米味噌も、深い味わいのためには欠かせない
米味噌が加わったカツオ出汁で具材を5分ほど煮込み、イカスミと塩少々で味付け。最後にシロナとネギをちらす
『ナス味噌』などの店内に貼られたメニューを注文すると、ごはんや汁物が付いて、自動的に“定食”になるという、沖縄スタイルの定食屋。どのメニューもボリューム満点で、『イカスミ汁』も豚肉や豆腐が入って具沢山。イカスミだけではなくスミ袋ごと使い、イカの旨味も濃厚だ。沖縄ならではの汁物料理『イナムドゥチ汁』、『中味汁』も人気。