獲れたむつごろうは生きたまま頭から尾に向けて串刺しにし、ウロコを取るなどの下処理はせず、まるごと真っ黒になるまで焼く
酒、みりん、醤油、砂糖といった基本的な調味料だけで味付けする。醤油は地元の甘めの醤油を使うことが多い
煮付けは、酒や、酒とみりんを合わせたものなどで、素焼きしたむつごろうを煮込んだ後、醤油や砂糖で味付けしてさらに煮込む
創業明治22年。風情ある建物、黒光りする柱や廊下にも歴史を感じる旅館。福岡県久留米市出身で天才と呼ばれた洋画家・青木繁氏も滞在したこともあるという歴史ある場所だ。明治43年4月には青木氏の展覧会も開催されている。
そんな趣ある空間で、地元陶芸作家が作った器に盛られた、四季を感じる会席料理などを食べることができる。有明海の魚介を使った料理も自慢だ。女将・音成洋子さんにお話をうかがった。
「佐賀県は、北は玄界灘に、南は有明海に面しています。玄界灘は外海で荒々しい海、有明海は内海で静かな母なる海…個性もまったく違いますし、獲れるものも違います。獲れる魚介はそれぞれに『玄界もの』、『有明もの』という言い方をしますね。特にこのあたりでは有明海のことを前海(まえうみ)と言いますから、『前海もの』という言い方もします。その一番代表的なものが、むつごろうです。お客様の中には『むつごろうは食べられるんですか?』という方もいらっしゃいますね。佐賀でも、食べたことがない若い方もいらっしゃるようです。けれど、有明海ならではの珍味ですね。煮付けは味が濃いから焼酎によく合いますよ」。
場所を厨房に移動し、料理長・森永幸則さんに、むつごろう料理を作っていただいた。まず見せていただいたのは真っ黒に焼かれたむつごろうだ。
「これは素焼きしたむつごろうです。海からあがったむつごろうは、すぐに串に刺して丸ごと炭焼きして冷凍するんです。それを煮詰めて味付けしていくんです。
酒、みりん、醤油で煮汁を作って沸騰させた後、火をつけてアルコールを飛ばします。
そこに砂糖を入れて、素焼きのむつごろうを入れ、落としぶたをして15分ほど煮詰めます。
料理法としては煮詰めているだけですね。
有明海の近くではよく食べられていた料理だと思います。できあがりは真っ黒ですが美味しいですよ。
まるごと全部食べられますが、頭のところはちょっとだけ固いかな。むつごろうは韓国でも獲れるようですが、私はやっぱり有明海のむつごろうが美味しいと思います」。
香ばしく甘辛いむつごろうには独特の風味が感じられ、有明海に想いを馳せた。さらに音成さんのお話も興味深い。
「むつごろうの呼び名の由来は、干潟の上で“むっつりしてごろごろねそべっている”からそう呼ばれるようになったという説や、菅原道真の家来に“陸奥の守五郎(むつのもりごろう)”という人がいて、都落ちを哀しんで海に飛び込んでむつごろうになったという話もあったりするんですよ。本当のところはわかりませんが(笑)。むつごろうは姿もかわいいですし、生きている時は青い目がきれいなんですよ。飛び跳ねている写真を見られたことがあると思いますが、それはオスの求愛ポーズです。オスが一生懸命飛び跳ねて、メスはそれを穴からじっと見ていて、気に入ったオスを巣穴に招きいれるんですよ」。
お話を聞きながら食べると、むつごろうと有明海の風景が見えてくるようだ。
「食べていただくには物語があったほうがいいと思うのです。むつごろうの話から有明海の話にも広がっていきます。うちで使っている器は地元の作家さんの器。その土地にしかない味を、その土地の器で、その土地の空気の中で食べていただく。それが最高のおもてなしだと思っております」。
音成さんが、むつごろうや有明海に詳しいのは、お父様の影響があるのだそう。館内には干潟の上で跳ねているむつごろうをはじめ、お父様が撮影した有明海の写真が飾られている。
「私の父・音成三男(おとなりみつお)は有明海に魅せられていました。人一倍有明海を愛していました。有明海の写真を撮り続け、1990年の初めから有明海の自然が貴重であることや保護をしなければならないことを訴えていたんです。むつごろうは一度激減した時があったのですが、今は少し回復しています。有明海がいつまでも宝の海であるように願っています」。
水揚げされたむつごろうを串に刺して丸ごと炭火焼きしたもの。生きたまま素焼きすることで味わいが閉じ込められるとのこと
調味料は、酒、みりん、醤油、砂糖というシンプルなものだけ。醤油は佐賀で作られる甘めの醤油が使われている
酒、みりん、醤油を合わせて沸騰させた後、火をつけてアルコールを飛ばしてむつごろうを入れる。砂糖を加えて煮詰めていく
洋画家・青木繁が亡くなる前の半年ほど逗留していたという、明治22年創業の老舗旅館。趣ある空間では、地元陶芸作家が作った器に盛られた食事を、昼も夜もコース料理のスタイルで楽しむことができる。素焼きして甘辛く煮付けたむつごろうをはじめとした有明海の珍味もそろう。館内には、むつごろうや有明海の貴重な写真が展示されている。
住所 | 佐賀市中の小路3-10 |
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電話 | 0952-24-8181 |
営業 | 11:30〜14:30/18:00〜22:00 |
定休日 | なし |
席 | 150席 |
カード | 可 |
駐車場 | あり |
URL | http://www.ake-s.com |