熟す前の青いパパイヤを中心に、ニンジン、もやし、ポーク(ランチョンミート)、ツナ、ニラなど
味付けに使うのは出汁、塩、醤油などのシンプルなもの。さっぱりとした味わいは暑い時にぴったりだ
パパイヤは種とワタをとって皮をむき、粗めの千切りにする。その他の材料と一緒に炒めて味付けする
那覇市の国際通りから1本西側に入った通りにあるお店は2002年オープン。店主・高江洲安幸さんのご実家を改装した店内はおだやかな空間だ。
「お金をかけていないだけなんですが(笑)。お店にはできるだけお金をかけず、料理をできるだけ安くしているのは、お客様に毎日でも来ていただきたいという想いからなんですよ。そして、料理には愛情をたっぷりこめています! ジーマーミー豆腐(落花生を使った沖縄の郷土料理)も練ってますし、島らっきょうも1つずつ下ごしらえしてます。もやしのヒゲ根のところまで全部取ったりしてますよ」。
パパイヤを中心にした炒め料理の『パパイヤイリチー』も高江洲さんの手間と愛情がこもった料理だ。
表面に包丁で軽く切り込みを入れると白い液が出てくるのですが、これが手についたりするととてもかゆくなるんですよ。白い液がいっぱい出てくるのは野菜として使うのにいいパパイヤですね。そして表面を洗った後、ピーラーで皮をむきますが、慣れてない方は手袋をしてやらないとやっぱりかゆくなりますね。家庭で作る時は手袋をしたほうがいいでしょう。そして半分に切って種とワタをとって千切りにします。
“しりしりー器”を使ってやると簡単ですし早いですが、私は包丁で切っています。このほうが繊維がしっかり残って歯応えがより良くなりますね。切った後、水でさらしておけばアクが抜けますので生でも食べることができます。うちではサラダに入れたりもしますよ」。
水でさらしたパパイヤの千切りを食べると、シャキッとした歯応えとほのかな甘さが感じられた。
「熟したものはもっと甘くなりますが、熟して色がついてしまったパパイヤは、野菜としては食べられないですね。熟す前の青いパパイヤを料理に使うんです」。
油をひいて熱した鍋で豚トロ(豚のアゴ肉)を炒め、千切りしたパパイヤを炒め、塩を入れる。
さらに千切りしたニンジンを入れて炒めた後、出汁を加える。
「これは沖縄の豚・紅豚からとった出汁ですね」。
紅豚は紅芋を配合した飼料を与え、自然に近い環境で飼育されている特別な豚。臭みのない旨味と甘味を持つ。『酒肴 さくら』では『紅豚のしゃぶしゃぶ』も人気メニューだ。
「さらにニラを入れて醤油を少し入れてできあがりです。シンプルな調味料を使った、シンプルな作りですよね。素材をいかした料理ですね」。
歯応えのいいパパイヤに、紅豚の出汁の旨味がしみこんでいる。旨味が深いから濃い味つけにする必要はないのだ。
「パパイヤは炒めて食べるのがメインですが、大根を使うような感じで煮込み料理にも使えますね」。
『パパイヤイリチー』は、全国的にはまだ『ゴーヤーチャンプルー』ほどは知られていない料理だが、沖縄では定番の味。高江洲さんも小さい頃から食べられていたのだそうだ。
「給食にも出ますね。それにパパイヤは家の庭先やいろんな場所に育っていたりしますから。ヤンバル(沖縄北部)にある先祖のお墓参りに行くと、お墓の近くにパパイヤが自然に生えていたりするんですよ。それを取ってきて食べたりもしますよ。ただ、『パパイヤイリチー』や『ニンジンシリシリー』は、メイン的な料理ではなく、副菜というか惣菜料理なのかもしれません。お弁当のおかずの一つとしてよく使われているという感じのものなんです。うちでは、『パパイヤイリチー』をメニューとして出しているのは、パパイヤが旬の7〜9月ですね。旬ではなくても値段が高い物はあるし、冷凍ものもあるので1年中作ることもできるのですが、やはり美味しいものを安く提供できる夏から秋にかけて食べていただきたいのです。パパイヤだけではなく、他の食材も同じですが、自然のものを自然のままに使っていきたいですね。それが一番美味しいし、身体にもいいはずです。私も暑い季節に『パパイヤイリチー』をよく食べますよ。ゴーヤーとパパイヤは夏バテ防止にいいと言われています」。
お皿、箸袋、座布団、壁の飾り…『酒肴 さくら』には、あちらこちらに桜模様があしらわれている。
「娘の名前が『さくら』で店名もそこからつけたんですよ(笑)」。
そんな温かな空間だけに、長い時間お店にいるお客さんも多いとのこと。
「長い時間をかけて飲んでいかれる方も多いですね。沖縄のゆっくりした時間を感じていただけるといいですね」。
※紅豚 :「紅豚」は株式会社がんじゅうの登録商標です。
パパイヤ、ニンジン、豚トロ(豚のアゴ肉)、ニラ。パパイヤは包丁で千切りにし、水にさらしてから使う
調味料は塩と醤油のみ。沖縄で育つ紅豚からとった出汁を使うことで全体に深い旨味をもたせている
豚トロ、パパイヤの順に炒めて塩をふる。ニンジンと紅豚の出汁を加え、醤油を加えた後、ニラをちらしてできあがり
国際通り近くにあるお店は観光客も多いが地元の方と半々とのこと。メニューに並ぶのは、沖縄の食材を生かし、愛情と手間をかけた料理の数々。定番料理から創作料理まで様々な味を楽しめる。『パパイヤイリチー』もシンプルな味付けだが、紅豚の出汁を加えることで、こちらならではの奥深い味わいを作り上げている。