ウロコと内臓を取った頭付きの身に、塩コショウで味付けするのが基本。ポン酢がそえられる場合も多い
頭から油に入れたり、羽根から入れたりと、揚げ方は様々。いずれも、できあがった時にきれいな形にするための各店の工夫だ
もっとも定番の唐揚げの他、唐揚げとは違うトビウオの美味しさを伝えるため、様々な料理も作られている
カウンター内の仕事場で鮮やかな包丁さばきを見せてくれるのは店主・迫田和治さん。ホテルの料理長などを経て、2000年に『お食事の潮騒』をオープン。屋久島の味を多くの観光客に伝えている。
「屋久島の名物はトビウオとサバですね。トビウオは1年中食べられますが、様々な種類のものがあります。春から夏にかけてはチュウトビと言われる体長30cmくらいのトビウオで美味しいですね。冬から春にかけては、オオトビという体長50cmにもなるトビウオもいます。ガタンコという名前のものもいますよ。“ガタ”は小さいという意味なので、“ちいさい子”つまり、小さなトビウオですね。秋のトビウオも脂がのっていて美味しいです。青魚だけどさっぱりした味で、淡白だけどしっかり旨味があるのが特徴ですね。屋久島では安く食べられますよ。トッピーに乗っていると飛んでいる姿を何匹も見るくらい、屋久島にはトビウオがいますからね(笑)」。
トッピーとは、鹿児島と屋久島を結ぶ高速船の愛称だ。
トビウオ料理の定番と言える唐揚げには、迫田さんならではの工夫がなされている。
「そのまま姿揚げすることも多いですが、私は中骨をとって、半身の状態で揚げ、さらに切ってからお皿に盛りつけます。お客様ができるだけ食べやすいようにしているんです。うちにいらっしゃる方にはお年寄りも多いですから。これだと残さず全部食べていただきやすいですよね」。
内臓をとり、中骨をとったトビウオに、ごく軽く塩コショウをして、片栗粉をまぶし、油の中へ入れる。
形がきれいに揚がるように、羽根(胸ビレ)をもってゆっくり油の中へ投入。5分くらいでカラリと揚がる。
切られて盛りつけられたトビウオの唐揚げは、薄塩でさっぱり味。
添えられたポン酢と、ネギやもみじおろしの薬味ともよく合う。羽根もパリパリでせんべいのよう。残さずいただくことができた。
トビウオの刺身作りも見せていただいた。
「三枚おろしではなくて、大名おろしにしています」。大名おろしとは、中骨に少し身が残るように厚めにするぜいたくなおろし方だ。羽根をとり、皮をとり、中骨をとったら厚めにひく。
「歯応えもいいですからね。レモンを添えていますので、絞ってふりかけてどうぞ。冬にはダイダイを使っていますが、その風味もいいですね」。
羽根を広げたお頭つきでおもしろい盛り付けだ。身はプリプリとしていて、確かにさっぱりしているが、しっかりとした味わいもある。
「お造りは新鮮じゃないといけませんね。トビウオは回遊魚ですから、生け簀には入れられません。だから、刺身にできるのは、海から揚がって2日以内のものになりますね」。
こちらにはメニューには『トビウオの塩焼き』もある。残念ながらメニューにはないのだが、塩焼きのこんな食べ方も教えていただいた。
「私は、山に登る時はトビウオを塩焼きして身をほぐし、おにぎりにしてもっていったりしますよ。塩分もあるしすごく美味しいんです。ただ、色味がきれいじゃないので、店のメニューにするには難しいかな(笑)。でも、とっても美味しいんです!!」。
内臓をとり、中骨をとったトビウオにごく軽く塩コショウをするのみ。そのままでも美味しいが、ポン酢と薬味ともよく合う
半身にしたトビウオを、羽根をもってゆっくりと油の中に投入。揚がったら食べやすいように切って盛りつけるのが迫田さん流だ
『刺身』。水揚げされて2日以内のトビウオを大名おろしにした後、身を厚めに切る。レモン(冬はダイダイ)をふりかけていただく
屋久島の名物であるトビウオ料理、首折れサバをはじめ、その季節ならではの魚介類を楽しめる。『サバすき鍋』はこちらならではの名物料理、皿からはみだしそうに大きな海老フライも人気の一品だ。お手頃な定食メニューも充実しているが、店内は料亭のように広々としており、ゆったりとした空間で食事をいただくことができる。