九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

材料

アジ、シイラなど日向灘近海で獲れる魚のすり身と、豆腐が主な材料。ゴボウなどが加えられることもある

味付け

酒、醤油の他に、味噌、黒砂糖で味付けされる。現在は、黒砂糖の代わりに、より精製した、きび砂糖や白砂糖も使われる

揚げ方

形を整えて油で揚げ、表面がきつね色になったらできあがり。木の葉型が基本だが、ちぎり天にしたりすることもある

語り にこにこショップ 山野貴子の「飫肥の天ぷら」

山野貴子さん

宮崎市と日南市を結ぶ国道220号線を宮崎方面から走って行くと、右手に『にこにこショップ』が現われる。
「いらっしゃいませ〜」とにこやかな笑顔を見せてくださるのは、店主・山野貴子さんだ。
「スタッフみんなで笑顔でおもてなしをしようと、この店名をつけたんです!」

干物やチリメンなど、海産物を加工・販売している『山野海産物店』が、1987年に併設したのが、こちらのお店だ。魚のすり身を作っていたということもあり、そのすり身を使った天ぷらも当初からメニューにある。
「うちで作っているのは、トビウオなどのすり身を使った『とび天』です。トビウオは特に都井岬(といみさき)あたりでよく獲れますね。日南の海は魚が豊富なので、地元のいろいろな魚のすり身で作ってみたのですが、トビウオは上品な味になるし、食感もいいんですよ」。

トビウオをさばき、すりつぶし、水にさらしたり、洗ったりして臭みを取る、すり身づくりは、男性の仕事とのこと。白身や冷水を加え、味付けをした後、揚げるのが女性たちの仕事だ。
「味付けは味噌や砂糖ですね。日南では黒砂糖を使うことも多いのですが、黒砂糖はちょっと味が濃すぎるので、うちでは白砂糖や三温糖を使っています。甘さは多少控えめにはしていますが、甘さがあまりにも少ないと、日南の良さと言いますか、日南の特色が出ないと思うんです。ですから、日南の名物として、よく知られている練り物の天ぷらよりは甘めの味付けにしていますね。

トビウオのみと豆腐入りのすり身。豆腐入りは白っぽい

トビウオのすり身の天ぷらもありますが、木綿豆腐入りも作っています。飫肥の豆腐が入っている天ぷらは、日南でも、とても親しまれていますから。豆腐を混ぜると水分が多くなり生地がやわらかくなって、扱い難しくなります。私も揚げるのですが、忙しくなると間に合わなくなるんです。うちの“揚げ名人”を紹介しますね(笑)」。

揚げる仕事は、松田たみ子さんに見せていただいた。

木の葉型の枠にすり身を入れて成形する

すり身をヘラで取り、木の葉型の枠に入れて、素早く油の中へ入れていく。
「日南あたりの天ぷらは、木の葉型が基本の形ですね。昔は手で一枚ずつ木の葉型を作っていたんですよ。170度くらいの油で揚げていきます。

両面がいい色になったらできあがり

浮かんできて、両面がいい色になったらできあがりです」。

機械で成形する場合もあるが、揚げ加減を見るのは経験と勘だ

手揚げもされているが、毎日のピーク時には、形を整えて油に投入する専用の機械がフル回転している。回転する鍋に一枚一枚入っていくが、天ぷらの場所を変えながらほどよく揚げるのは、やはり手仕事だ。

山野さんができたての『とび天』をすすめてくださった。アツアツの『とび天』は表面が香ばしく、中はふっくら甘い。豆腐入りは、さらに、ふわふわだ。
「揚げたてを、そのまま食べることに勝る食べ方はないかもしれませんね(笑)。けれど、冷めても美味しいし、冷めたものを温めなおしても美味しいですよ。私はマヨネーズと醤油をつけて、一味唐辛子を少しかけて食べるのが好きですね。うちではカレーも出していますが、カレーにも『とび天』を付けています。カレーの辛さの間に箸休めとして食べると、これがまた美味しいんですよ。一時期、パンに『とび天』をはさんだ『とび天バーガー』を出していましたが、これは、あまりうけませんでした(笑)」。

『とび天』とよく合うのが、こちらの名物『天むすび』。小さめの円錐型のかわいい形で、絶妙な塩加減だ
「お米は3日に1度くらいの割合で精米したものです。握り過ぎずに、口の中に入れた時にふんわりとなるようにしていますよ。そして、ごはんに塩を混ぜてから握るのではなくて、手塩にこだわっています。店内ですぐに食べられる方には、塩をやや少なめに、持ち帰って食べられる方には塩をやや多めにしたりもしています」。

そんな細やかな気遣いがなされた『天むすび』や『とび天』を求めて、ドライブの途中に寄るファンも多い。取材中、『てげうめ〜(宮崎の言葉で“すごく美味しい”)』の声も聞こえてきた。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

材料

魚のすり身は、上品な味わいと食感を良くするためにトビウオを使う。その他、卵白、冷水なども使う。木綿豆腐を入れたものもある

味付け

日南では黒砂糖を使うことも多いが、上品な味わいにするため、白砂糖と三温糖を使用。その他、味噌も加えられる

揚げ方

味付けされたすり身を木の葉型の枠に入れ、素早く油の中に入れて揚げる。成形する機械もあるが、揚げ具合を確認するのは手仕事だ

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にこにこショップ トビウオのすり身で作る天ぷら

干物や海産物を加工・販売している『山野海産物店』に併設されたお店。『とび天』はトビウオのすり身を使い、味噌、白砂糖、三温糖などで、すっきりした甘さに仕上げている。トビウオのすり身で揚げた天ぷらもやわらかいが、豆腐入りはさらにフワフワの食感だ。小ぶりで塩加減が絶妙の『天むすび』も開店以来変わらぬ美味しさでファンも多い。

写真は手前から『とび天』のゴボウ入り、豆腐入り、魚のみで、いずれも1コ84円。イカ入り84円もある
ゴボウのちぎり天に、エビ天むすび2コ、チキン天むすび1コ、三角むすび1コ、スープが付く『おむすびセット』525円。天ぷらも付いた『カレーセット』600円などもある
店内で飲食もできるし、『とび天』1コから持ち帰りもできる
横にある『山野海産物店』では、干物などの海産物を販売。自宅で作る『とび天』用の冷凍味付すり身(500g420円)も販売されている

にこにこショップ

住所 日南市風田3850-10
電話 0987-24-0366
営業 9:00〜18:00
定休日 なし
24席
カード 不可
駐車場 あり
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