魚介類、野菜など、どんなものでも素材となる。卓袱料理は祝いの席で食べられることも多いためか、エビはよく使われているようだ
一般的な天ぷらの衣の材料である小麦粉、卵、水に砂糖、塩、醤油などの調味料が加えられ味付けされる。しっかりと混ぜることも特徴
衣に砂糖が入っているため、表面が焦げないように一般の天ぷらよりもやや低い温度で揚げられる
昭和38年から料理の道を歩み始めたご主人の佐藤虓治さん。長崎の老舗料亭『富貴楼(ふうきろう)』での板長を経て、昭和53年に『割烹 とし』を開業した。
「細く長くと思ってやってきたけど、料理の仕事にちょっと飽きてきたかな(笑)」。
それはまったくの言葉だけで、日々の仕事が丁寧に行なわれていることは、修行時代からなんら変わりはない。
「すべて手作りですからね。そうやないと美味しいのができんしね。美味しいお酒と美味しい料理を楽しんでいただきたいと、いつも思っとります」。
『長崎天ぷら』ならではの衣も丁寧な手作りだ。卵を割って黄身と白身を分け、ボウルに入れられた白身を泡立てる。
「少し塩を入れて泡立器で混ぜ、角がたつくらいしっかりとしたメレンゲを作ります。ボウルを逆さまにしても落ちてこんくらいにね。ほら、落ちてこんでしょ(笑)」。
メレンゲの入ったボウルに薄力粉と水をいれて混ぜる。先ほど分けておいた卵の黄身を入れてさらに混ぜる。
「カステラの生地作りと一緒ですね」。
そして、衣に味を付ける。
「砂糖と塩と薄口醤油で味をつけます。あともう一つ、こんがりと揚がるように入れるものがありますが、それは秘密ね。生地のゆるさはこれくらいですね」。
泡立器からおちる衣液は通常の天ぷらよりトロリとしている。
今日揚げてくださる素材は、タイ、エビ、ナス、ピーマン、椎茸、ネギ、ヤングコーン。衣液が入ったボウルに入れられてしっかりと衣をつけた後、揚げられていく。
「しっかり衣をつけてから揚げます。通常の天ぷらは180度くらいで揚げますが、『長崎天ぷら』は、160度くらいで揚げます。温度が高いと外が焦げてしまうけんね。琥珀色、カステラ色にこんがりと揚げないといけません。
メレンゲが入っているからふっくらするし、こんがりふっくらとしてお菓子っぽい料理かな(笑)。食べてみないとわからないでしょうから、さあ、どうぞ」。
アメリカンドッグの生地を上品な和風にしたものといった味わいだろうか。表面はカリッとしているが、ふっくらした衣で材料がくるまれている。一緒に添えられている柑橘『ゆうこう』の絞り汁をかけても美味だ。
「『ゆうこう』は長崎ならではの柑橘類で、主に外海町(そとめちょう)で栽培されています。香りも酸味もやわらかで、よく合いますね。揚げたても美味しいですが、冷めても美味しいんですよ。『長崎天ぷら』は、元々家庭料理で、残り物を揚げたりもしていました。ご主人が帰ってくるのがたとえ遅くなっても、冷えても美味しいから作り置きするのにも便利だったんです。長崎は白身魚が美味しいので、タイなどを揚げても美味いですよ。ただ、さばいたタイをすぐに揚げると身が縮んでしまうので、一晩ねかせてからのほうがいいようです」。
さて、『割烹 とし』は、『卓袱料理』(しっぽくりょうり)や旬の素材を使った料理が自慢の店。『長崎天ぷら』は卓袱料理の一つとしていただくことができる。
「『卓袱料理』は長崎の郷土料理であり家庭料理です。卓袱と呼ぶ、丸いお膳というかちゃぶ台で、みんなで取り分けながらいただくのが卓袱料理。『長崎天ぷら』もその一つで、大鉢料理の一品としてお出ししています。祝いの席で食べる『卓袱料理』は、3とか5とか7とか9とか奇数をよく使います。だから鉢に並ぶ『長崎天ぷら』の数も奇数なんですよ。そして、長崎は料理に砂糖がよく使われます。『長崎天ぷら』も角煮も…。締めは『止め椀』と呼ぶお汁粉ですからね(笑)」。
お願いしておけばいつでも卓袱料理の一品として『長崎天ぷら』を食べられるが、通常は、『長崎天ぷら』は秋から春にかけてのみ提供しているとのこと。
「時代でしょうか、今は、みなさん、あまり甘いものを食べられないし、お食べになる量もあまり多くはないようです。『長崎天ぷら』は甘味もあるし、お腹にもたまるので、食欲が出てくる秋頃から卓袱料理に入れるようにしているんですよ」。
取材時の素材は、タイ、エビ、ナス、ピーマン、椎茸、ネギ、ヤングコーン。季節によって野菜などは異なる
まず卵の白身を泡立ててメレンゲを作り、薄力粉、水、卵の黄身を入れてよく混ぜ、砂糖・塩・薄口醤油で味付けする
しっかりと衣をつけてから、160度くらいの油で揚げる。外側が焦げないように、琥珀色、カステラ色にこんがりと揚げる
この道50年のご主人・佐藤虓治さんが、長崎の食材を使って作るのは、長崎の伝統を受け継ぐ『卓袱料理』や会席料理の数々。ゆったりとした空間で、長崎の旬と歴史を楽しみたい。『長崎天ぷら』は、メレンゲから手作りする衣でふっくらと揚げる手間ひまかけた一品だ。特製の『長崎角煮 琥珀』、長崎ざぼんや長崎ゆうこうを使ったポン酢『龍の泪』も自慢の品。
住所 | 長崎県長崎市中町5-22 |
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電話 | 095-825-4452 |
営業 | 11:30〜OS13:30/17:30〜OS21:00 |
休み | 日祝日 |
席 | 67席 |
カード | 可 |
駐車場 | なし |
URL | http://kappoutoshi.com |