九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

素材

一口で言えば豚足だが、足先、かかとの部分など、部位によっても味わいの違いがある。また、豚の銘柄によっても味わいは異なる

下ゆで

汚れやアクを取り、上品な味わいにするために、下ゆでは必須。下ゆでした後、さらに水洗いをしてきれいにする

煮方

煮汁は、昆布出汁、塩、醤油などで作られるシンプルなものが多い。コトコトとじっくり煮込むことでやわらかくなる

語り 月桃庵 玉城良子の「テビチ」

玉城良子さん

古い民家を改装したお店。“お店に入った”というよりも、まさに友人の家に招かれたという感覚だ。
「ようこそいらっしゃいました〜」。
招いてくださる店主・玉城良子さんの言葉もやわらかい。

こちらでは『テビチ(豚足)』とは言わずに、あえて『チマグァ』という呼び方をされている。
「豚の足の部分を『テビチ』と言いますが、『チマグァ』は膝から足先までのことなんです。膝から上は肉身も多いのですが、膝から下はゼラチン質が特に豊富なんです。その中でもさらに下の、かかとから足先の部分は、『コウトグァ』といって、良質のゼラチン質を多く含む場所ですね」。

厨房に案内していただくと、下ゆでが行なわれている最中だった。

生の『チマグァ』を水から下ゆでする

「うちで仕入れている『チマグァ』は、毛を焼いてカミソリで剃ることを3回繰り返しているんですよ。きれいに毛を処理しておかないと、見た目も味も、よくないですからね。それを切って下ゆでします。丸いのはスネの部分を4等分したもの。丸くないのは、かかとから足先の部分ですね。生の状態のものを鍋に入れて、水から湯がきます。

大量のアクを丹念にすくっていく

湯がくと、すごいアクが出ますので、丁寧にすくいます。アクが落ち着いたら、大鍋から湯を捨てて、今度は流水でひとつずつ丁寧に洗っていきます。アクや細かい汚れを完全に取り除くんです。細かいくぼみには、指を使って丁寧に洗うので時間がかかりますね」。

下ゆでの後、一つひとつを流水で丁寧に洗う

一度に作るのは『チマグァ』10kg分。鍋を移動させるのも力仕事だ。

きれいになった『チマグァ』を味付けする。
「味付けは出汁と醤油だけなんです。出汁についての細かいことは企業秘密ですね(笑)。一度沸騰したら弱火にして、一晩コトコトと炊いていきます。丁寧にゆっくりと、じっくりと炊きます。

弱火でコトコトと炊いていく

難しいことはしていないし、実にシンプルな料理ですね。味付けとして色々入れるよりも、火加減が一番大切だと思いますね。うまくできたものは、煮汁がきれいで、透明な飴色になります。これが火加減によっては、煮汁が濁ってしまうんですよ。それに、とろ火で煮込まないと弾けてしまうというか、崩れてしまうんです。シンプルではありますが、ここまでくるのは試行錯誤でした。ずい分と手のかかっている料理ですし、材料や味付けなどの、レシピがすべてわかっていても、作るのは難しいと思いますね」。

昨日から仕込まれて食べ頃になっている『チマグァ』を食べた。プルプルトロトロの食感に滋味深い味。豚足にありがちな、脂っぽいしつこさもない。
「この『チマグァ』は50%ほど脂が抜けているので、ソーキより脂分は少ないですからね。ポン酢を少しかけたり、ショウガを少し添えてもいいですが、そのまま。食べるのが一番ですね」。

手の込んだ『チマグァ』が、ランチタイムにはなんと食べ放題となる。
「元々、冬のランチメニューとして、チャンプルーとかサラダに加えて、おでんを出していて、おでんの一品として『チマグァ』をつけていたんですよ。春が来て、おでんをやめたら『もうチマグァはないの?』という問合せをたくさんいただきました。それで季節に関係なく出しはじめたら、脚光をあびてしまって…やめられなくなっちゃったんです(笑)。『テビチ』は、沖縄を代表する食材であり料理です。コラーゲンたっぷりで、食べて健康になれる、大変優秀な食材です。それをたくさんの方に伝えられるならいいかなと思っています。沖縄のおじぃおばぁには、腰が曲がっている人は、ほとんどいないと思います。それは、コラーゲンや、カルシウムをたくさん摂っているからだと思うんです。『テビチ』をはじめとした豚のパワーでもありますね。お肌もツヤツヤで、長寿ですしね(笑)。膝が痛い、腰が痛い、という時にも『テビチ』はいいですよ。コラーゲンは関節の潤滑剤ですからね。それから、イラブー汁(ウミヘビ汁)にも必ず『テビチ』を入れるんです。イラブー、『テビチ』、昆布出汁という組み合わせは、味としてもすごく合うし、お互いの栄養の効果を高め合うそうですよ。昔の人の知恵はすごいですね」。

日々の食事で健康な身体を作る…沖縄の食文化は合理的であり、とても深いものだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

素材

『チマグァ』と呼ばれる、膝から足先までのゼラチン質を特に多く含む部分を使う。焼いて毛を剃ることを3度繰り返してきれいにする

下ゆで

生の状態のものを水から下ゆでし、丁寧にアクをすくいとる。アクが落ち着いたら流水でひとつずつ丁寧に洗い、汚れを取り除く

煮方

味付けは出汁と醤油だけ。鍋に、きれいにした『チマグァ』を入れ、一度沸騰したら弱火にして、一晩コトコトと炊いていく

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月桃庵 静かな民家で味わう沖縄ならではの味

古い民家を改装した落ち着いた空間で、沖縄ならではの料理を楽しめる。火加減に細心の注意を払って、じっくりと炊きあげる『チマグァ(テビチ)』は、箸で切れるほどやわらかでトロトロだ。『日替りランチ』1,000円は日替りのチャンプルー、サラダと『チマグァ(テビチ)』のバイキング、ドリンク、デザートが付く。夜のコースは4,000円〜。

『チマグァ(テビチ)』。『日替わりランチ』では食べ放題、夜は4,000円と5,000円のコースに付く
ゴーヤを練り込んだパスタに、ゴーヤソースをからめたオリジナルのパスタ料理 ※コース料理に付く
『ゴーヤパスタ』480円と、『ゴーヤソース』840円は持帰りもできる
友人の家に遊びに来たような空間だ
入口の扉も趣深い

月桃庵

住所 那覇市松尾2-16-49
電話 098-863-1421
営業 11:30〜15:00/18:00〜22:30
※夜は要予約0
定休日 日曜
50席 ※夜は一日4組のみ
カード 不可
駐車場 あり
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