イリコとニラが最も基本的な具材。キャベツやニンジンを入れたりもするし、奄美ならではの野菜を使うこともある
具材の一つにもなるイリコで出汁をとることが多いが、キビナゴを使うことも。鶏スープなどを使う店もある
フライパンに水をはってイリコで出汁をとり、そこに油を入れてそうめんとニラを加え、炒め和えるのが最もシンプルな作り方
奄美出身で郷土料理の研究も行なっている店主・久留ひろみさんが作る『油ぞうめん』はとてもシンプルだ。
「お客さんから尋ねられたら、“油ぞうめんはソーメンチャンプルーに出汁が入ったもの”というような説明をします。それ以上はあまり詳しく言わないんです(笑)。奄美の基本的な具材はイリコとニラですが、私は栄養士でもあるし、キャベツとニンジンも加えています。ニラは各家庭どこにでも畑があって、作られているものですね。よくある野菜として、ゴーヤも試してみたけど、ちょっと合わなかったかな(笑)。そうめんは『揖保乃糸(いぼのいと)』の赤ラベル、熟成されたものを使っています」。
そうめんをゆで始めるのと同時に、フライパンに水とイリコを入れて出汁をとる。
「出汁がとれたら、フライパンにニンジンとキャベツを入れてくたくたになるまで煮ます。そこに与論の塩と魚粉、醤油を少し入れて味付けをします。サラダ油を入れて乳化させてから、そうめんを入れます。ベペロンチーノを作る感覚ですね。そうめんは、ゆであがった後、水でしめておきます」。
そうめんと具材をからめ合わせ、最後にニラを入れればできあがり、皿に盛った後、錦糸卵をのせて彩りも華やかになる。
「少し出汁が残ったくらいの感じがいいですね。私は『そうめんペペロンチーノ』と呼んでいますよ。もちあげた時にちゅるっとなる感じがいいですね」。
野菜の旨味がイリコ出汁の香りにつつまれたやさしい味わいだ。いい具合に汁気も残っているので、そうめんの喉ごしも爽やか。具材にもなっているイリコの歯応えもいい。
このシンプルな料理の中に、奄美の風土、歴史、文化が凝縮されていると久留さんから教えていただいた。
●料理法からわかること
「奄美の食文化が一番わかるのが、油ぞうめんだと思うのです。本土には出汁を使ったにゅうめんがあります。沖縄には炒め料理のソーメンチャンプルーがあります。『油ぞうめん』は、この2つが折衷したものとも言えます。奄美の地理的な特徴を表していますね。煮物と炒め物の折衷、日本と中国の料理法が融合しているとも言えますね」。
●油ぞうめんの食べられ方
「『油ぞうめん』を食べるのは、人が集まる時。奄美では『八月踊り』というお祭りがありますが、その時には必ず食べます。昔はお祝いの時などに使われる大きな〆目鍋(しんめなべ)を石の上に置いて、薪で炒めて一気に作っていました。作ってまるめて、来ている人の口に『さあ食べなさい』と押し込むようにもしていたようです(笑)。今はドラム缶を使ったりもしていますが、野外で作って食べる習慣は残っていますね。『油ぞうめん』も、元々は外で作るものだったようです」。
●奄美とそうめんの関係
「そうめんは島原など九州では一般的なものですし、薩摩にもあったはずです。奄美は砂糖を作っていたので、その交易もあってそうめんが伝わってきたようですね。貯蔵食として、木箱に入ったそうめんがどの家にもありました。『何かあった時にあれば安心』ということだったのでしょう。奄美の人はみなさんそうめんが大好きですよ。みそ汁の具に入れたりもしますし、うちのしゃぶしゃぶはそうめんで〆ます」。
『油ぞうめん』は奄美を代表する郷土料理。最後に『郷土料理』そのものについてのお話をうかがった。
「地域に根ざした食文化の始まりには、地理的なもの、歴史的なものといった背景が必ずあります。そして、その地で根付くための工夫もあります。地域の食材と融合したり、地域の調味料と融合したり…。郷土料理は先人たちの知恵の結集です。ソウルフードですよね。私の使命は、喜んで食べてもらえような工夫もしながら、次の人たちに伝えることだと思っています。私も、母の味に一番影響を受けているのですから」。
具材はキャベツ、ニンジン、ニラ、イリコ。イリコは出汁をとるのにも使われる。仕上げに錦糸卵ものせられる
イリコで出汁をとる。出汁をとった後のイリコは取り出さずに、そのまま具材のひとつとなる
まずイリコ出汁にキャベツとニンジンを入れて煮る。その後、油を入れた後、そうめんとニラを入れて軽く炒める
桜島を望む店内では、島唄のBGMが流れる中、鶏を8時間煮込んだスープを使った『奄美鶏飯』、『苦瓜の味噌炒め』他、奄美ならではの味を楽しめる。奄美出身で郷土料理の研究も行なっている店主・久留ひろみさんが作る『油ぞうめん』の材料は、イリコ、キャベツ、ニンジン、ニラ、そうめんに錦糸卵とシンプル。イリコ出汁の香りが全体を包み込む。