熟す前の青いパパイヤを中心に、ニンジン、もやし、ポーク(ランチョンミート)、ツナ、ニラなど
味付けに使うのは出汁、塩、醤油などのシンプルなもの。さっぱりとした味わいは暑い時にぴったりだ
パパイヤは種とワタをとって皮をむき、粗めの千切りにする。その他の材料と一緒に炒めて味付けする
那覇市の国際通りから数本わき道に入ったあたり。近隣のビジネスマンやOLが、仕事帰りに立ち寄る店が多いエリアにあるのが『居酒家 おりじん』だ。店内には木目を基調としたカウンターや掘り席があり、温かみのあるくつろぎの空間になっている。
「うちは味にうるさい地元のお客さんも多いので、沖縄県産の旬の野菜や魚・肉をメインに取り入れているほか、県外から季節の食材も入れています。その日の仕入れに合わせて、思いつく料理もいろいろ。
黒板に書いてあるメニューは、その時々で変わるのでおすすめですね。
今日は、いいパパイヤが入ってますよ(笑)」と、カウンターに並ぶ新鮮な食材に目をやるのは、料理長の喜名宗広さんだ。
さっそく『パパイヤイリチー』に適したパパイヤについて喜名さんに聞いてみた。
「熟すと柔らかくなる果物としてのパパイヤと違い、料理に使う場合には皮に青々とツヤがあり、実が固くしっかりとしたものが向いています。
まず、半分に切って、スプーンで種をとり、包丁で皮をむきます。
うちでは、持ちやすいようにさらに4等分にして、“しりしりー器”で太めの千切りにするんです。しりしりー器で削ることで断面が荒くなり、味が染みやすくなりますよ。パパイヤはアクが強いので、千切りにしたものは15分くらい水にさらしてから水切りしておきます」
千切りにしたばかりの生のままのパパイヤを手に取ってみると、ウリの仲間にしてはずいぶんと固い。しっかりと実がつまっている印象だ。多少のぬめりもあるが、水にさらせば取れるという。
「その他の野菜も県産の食材を使っていますね。ニンジンやニラのほかに、手に入る時期には、沖縄で栽培されている“島ニンジン”も彩りで入れます。このニンジンは、一般的なものより細長く、甘みがあるのが特徴。昔から体調が悪い時には、豚肉やレバーなどと一緒に汁物にして食べることも多く、滋養食とも言われています。イリチーに使うときは、普通のニンジンと一緒に千切りにします」。
島ニンジンもパパイヤ同様、普通のニンジンより実がつまっている。生で食べることはあまりないそうで、炒め物や煮物など、火を通して独特の甘みが増すという。
「『パパイヤイリチー』には、家庭ごとの味があって、ポークの缶詰めやツナなどを使うところも多いんですが、うちでは下茹でした県産の三枚肉(豚バラ肉)を使います。
三枚肉から出るラードには、独特のコクがあって炒め料理に深みが出ます。チャンプルーやイリチーに使う油は、ラードに限るという年配の方もいるくらいですよ(笑)。三枚肉もニンジンなどの材料と長さが揃うように、拍子切りにしています」
喜名さんの味付けは、カツオ出汁に塩と醤油。材料がそろったら、フライパンに油を引いて、まずは三枚肉を炒める。
「三枚肉は弱めの火でじっくりと炒めます。炒める間に肉からラードが溶け出してくる。肉にうっすらと焦げ目がつき、香ばしい香りがしてきたら、次に火が通りにくいパパイヤを入れます。
軽く塩を入れて、ニンジンと同じくらいの固さになるまで炒めたら、2種類のニンジンも入れます。
あとはカツオ出汁と塩で程よい食感になるまで、炒め煮にします。
最後にニラを加え、醤油で味を整えてできあがりです」。
いただいてみるとパパイヤやニンジン、ニラのシャキシャキとした食感も程よい。ラードの旨みが染みたパパイヤは、三枚肉の香ばしさと相まって、塩メインの味付けでもコクが深い味わいだ。
「パパイヤにはタンパク質を分解する酵素が含まれているそうで、肉を柔らかくすると言われています。沖縄ではほかにも、豚肉と煮たり、汁物にすることもありますよ。肉の旨みが染みることでパパイヤの美味しさも増しますし、やはり豚肉との相性はいいですね」。
洋風の創作料理などもメニューに多いが、『豆腐ちゃんぷるー』や『ごーやーちゃんぷるー』なども含め、沖縄料理も根強い人気があるという。
「飽きがこないし、ホッとする味だからじゃないですか。お客さんのテーブルには、ピザやパスタの横に普通に沖縄料理が並んでいたりしますよ(笑)。ゴーヤーなど今は一年中手に入る食材も多いですが、夏には夏の食材、冬には冬の食材、その土地で旬の時期に取れる食材を食べることで、体調もよくなるといいますしね。夏が旬のパパイヤやゴーヤーにしたって、ウリ類には水分が多く、体を冷やす効果があると言われていて、夏の暑い時期にはうってつけなんですよ」。
パパイヤ、ニンジン、ニラのほか、下茹でした沖縄県産の三枚肉(豚バラ肉)や、黄色い島ニンジンが味わいや色味をプラスする
調味料は塩と醤油がメイン。パパイヤは火が通りにくいので、塩である程度炒めたら、出汁で炒り煮にして、醤油で味を整える
まず、三枚肉(豚バラ肉)を炒め、肉に焦げ目がつくまで、ラードをじっくり出す。ラードでパパイヤを炒めると味に深みが出る。
国際通りのビジネス街に近く、地元客も多く集う木の温もりのある居酒屋。沖縄県産の野菜や肉・魚を主に、全国各地から仕入れる季節の食材もカウンターに並ぶ。メニューは郷土料理から洋風創作料理まで多彩で、『パパイヤイリチー』は、県産の三枚肉(豚バラ肉)や黄色い島ニンジンとともに、かつお出汁で炒り煮にした程よい食感が奥深い味わいだ。