獲れたむつごろうは生きたまま頭から尾に向けて串刺しにし、ウロコを取るなどの下処理はせず、まるごと真っ黒になるまで焼く
酒、みりん、醤油、砂糖といった基本的な調味料だけで味付けする。醤油は地元の甘めの醤油を使うことが多い
煮付けは、酒や、酒とみりんを合わせたものなどで、素焼きしたむつごろうを煮込んだ後、醤油や砂糖で味付けしてさらに煮込む
『和食処 おおしま』はJR佐賀駅のすぐ近くにある和食の店。場所柄、地元以外のお客さんも数多く訪れる。海の幸、山の幸と旬の素材を生かした和食とともに、“有明の幸”も楽しめる。有明海の代表的な料理であるむつごろう料理について、料理長・成富工さんにお話をうかがった。
「むつごろうは、県外の方は喜ばれますね。一度食べれば話のネタになりますから。有明海沿岸部の方は今もよく食べているとは思いますが、佐賀出身の方でも食べたことがないという方もいます。私も佐賀市出身なのですが、料理の世界に入ってから初めて食べたんですよ。独特の味わいがありますね」。
むつごろうを使った料理を作っていただいた。
「むつごろうは、素焼きしたものを甘露煮するというのがよく知られている料理法ですね。
むつごろうは傷みが早いですし、独特の臭みなどをもっているので、それを取り除くために、串に刺して真っ黒に炭火焼きするんです。うちでは串に刺さった素焼きのむつごろうを取り寄せて、それを料理しています。まず、酒とみりんで炊きます。
10分くらい炊いたら砂糖、濃口醤油、刺身醤油(九州地方で使用される甘みの強い醤油)を入れて炊きます。刺身醤油を入れるとコクが増しますね。
さらに、酢を少し入れて10分ほど炊きます。酢を入れると骨がやわらかくなりますから。
全体で約25分ほど煮た後、寝かせておくと、だんだんと骨がやわらかくなっていき、より食べやすくなりますね。
酢を入れないと、特に頭の部分は骨が口の中にあたって食べにくいかもしれません。どうぞ丸ごと食べてください。焼いたものを煮るというのは珍しい料理法ですね。似た料理と言えば、鮎を焼いてから昆布を巻いて煮る『鮎の昆布巻き』くらいではないでしょうか」。
甘辛さと醤油の深い味わいの中に、むつごろう独特の風味が広がる。外見からは想像しにくい味だ。
「有明の魚介は見た目が地味なものが多いので、美しく盛付けるのは、なかなか大変です。特にむつごろうは、生きているものも地味ですし、甘露煮は真っ黒ですからね。でも、珍味ですよね。これぞ有明海の味わいです。だから、物珍しさもあると思いますが、他県の方は食べられる方が多いですね。ちなみに、むつごろうは刺身も美味しいですよ。独特の風味も味わえます。ただ、あまり大きな魚ではないし、身も少なくて、おろしにくいので、大名おろしなんですよ」。
大名おろしとは、小型の魚や身がやわらかい魚のおろし方で、普通の三枚おろしよりも中骨に身が多く残るさばき方のこと。中骨に身が多く残ってぜいたくなさばき方ということで、そう呼ばれるのだ。刺身はお願いしておけば、むつごろうが獲れる時期(春〜秋)に食べることができる(ただし、仕入れの都合にもよる)。
有明海の珍味を6種類ほど食べられる『有明海珍味盛り合せ』もすすめていただいた。
「メカジャ、ワケノシンノス、ワラスボ、穴ジャク、クチゾコ、むつごろうの甘露煮などを少しずつ食べられます。季節によって多少変わることもありますが、むつごろうの甘露煮は必ずつきますよ。どれも珍味で、一口ずつでも味わっていただければと思っています」。
見た目も味わいも他にはない、有明海独特の魚介類。焼酎も話もすすみそうだ。
獲れたてのむつごろうを串に刺して丸ごと炭火焼きしたものを取り寄せている。素焼きされることで旨味も逃げないのだ
味付けに使われるのは、酒、みりん、砂糖、濃口醤油、刺身醤油。骨をやわらかくするために酢も少量使う
酒とみりんで10分ほど煮た後、砂糖、濃口醤油、刺身醤油を入れて煮る。さらに、酢を少し入れて10分ほど煮込んでできあがり
JR佐賀駅のすぐ近くにある和食の店。佐賀の旬の素材を生かした和食や有明海の魚介を楽しめる。『むつごろう』料理は、炭火で素焼きして甘露煮したもの。仕上げに酢を入れることで骨までやわらかくなり、最後まで独特の風味が口の中に広がる。佐賀牛や肥前さくらポークといったブランド肉を使ったランチメニューや鍋料理、会席料理なども充実。