欠かせないのは、鶏肉、壱州豆腐、(あらかじめゆでておく)、そうめん。その他にゴボウ、白菜など季節の野菜が入る
鶏ガラからスープをとり、そこに醤油、砂糖、ミリン、酒などを加えて味付けする。やや甘めの味が壱岐でよく食べられている味だ
味付けされたスープが沸騰したら、具材を入れて煮込みながらいただく。ゆでそうめんは、温める程度でいただく。〆は雑炊で
「壱岐は、21時過ぎたら信号も点滅になりますからね〜。なんにもない島です(笑)。でも、海に囲まれていて、高い山もなくておだやかな島。雪もほとんど降らない、温暖な気候です。壱岐と対馬の間にいい漁場があって、魚も豊富です。マグロは、冬の大間、春の壱岐とも言われるくらいですから。農作物も魚介類も豊富にあって、昔から自給自足できる島なんです。まだ貨幣がないころは、各地で市が行われて物々交換してましたから、すべての食材が島に流通して豊かだったのではないでしょうか。水も豊富ですね。自然に触れ、スローフード、スローライフを楽しむ島。その中に『ひきとおし』のような郷土料理もあると思うんです。『ひきとおし』は、一時期は沈んでいたけど、スローフード、スローライフが言われる時代になって、ここ10年くらいの間にまた脚光を浴びてきたようですね」。
壱岐の魅力を語ってくれる『旨処 味よし』の四代目・末永謙太郎さん。名刺には“壱岐の島の味守り人”とも書かれている。『ひきとおし』についても、興味深いお話を聞かせてくださった。
「農家の方はみなさん鶏を飼っていましたが、お客さまがお越しになった時に、それをさばいて料理して出していました。客を座敷におとおしすることを、壱州弁で「ひきとおす」と言います。その時に作った料理が『ひきとおし』ということなんです。元々が家庭で作っていたものですから、各家庭で味は違います。ただ、壱岐の人は甘党で濃口が好き。初めに作り方を教わった時はすごい甘いものでしたね。こんなんたべたらすぐに虫歯になるんじゃないかくらいにですね(笑)。酢の物や煮付けもとても甘い味付けにする家もありますね」。
なぜ、壱岐の味はそこまで甘くなったのか?その答えも末永さんなりに教えてくださった。
「元々砂糖が貴重なものであったということから、壱岐では、お供え物に砂糖そのものを供えたりもするんですよ。また、法事などのお返しに砂糖をもらうことも多いんです。たくさんもらうから、使い切るためにたくさん使うようになって、だんだんと甘くなっていったのかもしれません(笑)。知り合いから、『砂糖がたくさんあるけど使い切れないから、店をやっているあなたにあげるよ』と言われていただいたこともあります。そのいただいた砂糖は、カチカチに固くなっていたものでしたからね。けっこう長い時間、戸棚に入れられたままでいたんでしょうね(笑)。」。
砂糖をふんだんに使う『ひきとおし』だが、末永さんのお父様がアレンジし、さらに末永さんがアレンジして、こちらでは酒の肴にもなるような味わいで提供されている。 「うちの『ひきとおし』は、あまり甘くしてなくて、ちゃんこ鍋風ですね。まず、鶏ガラスープを作ります。鶏ガラをきれいに洗ってから、ニンニク、ショウガ、卵の殻、ネギなどと一緒にアクをとりながら6時間ほど煮込みます。あまり煮すぎると濁ってしまうので、長く煮込めばいいというわけではありません。濁らない程度にいい塩梅で煮込みます。そして、味付けは、砂糖、醤油、ミリン、塩、酒などです。『ひきとおし』のためだけに作るスープですね」。
できあがったスープの中に具材を入れて煮込む。肉は地鶏のもも肉、野菜はゴボウ、白菜、ネギ、ニンジン、シイタケ、きのこ類、厚揚げなどだ。
「地鶏は親鶏だから歯応えがありますね。野菜類では、ゴボウは必ず入ります。壱州豆腐を入れるところも多いのですが、うちは壱州豆腐の厚揚げを使っています。法事などで出されるものを考えると、それもオーソドックスなスタイルなんですよ。具材としてはそうめんも欠かせませんね。そうめんは保存食ですから、具材として便利だったのでしょうね。そうそう、いろいろな時に、砂糖と一緒でそうめんもよくいただくんですよ。昔からある形を引き継いでいることももちろんですが、砂糖もそうめんも手元にたくさんあるから、『ひきとおし』に入れ続けているのかもしれません(笑)。『ひきとおし』は、人と人とのやりとりから生まれ、続いている料理ですね」。
最後に、簡単に『ひきとおし』を作る料理法を教えていただいた。
「『ひきとおしはどんな味ですか?』と尋ねられることがあるんですが、醤油ラーメンのスープを甘くしたスープで作る鶏鍋と言ってます(笑)。だから、家で簡単に作る時は、インスタントの醤油ラーメンのスープに、好みの量の砂糖を入れてスープを作るといいよとお話します。家で鶏ガラスープをとるのは大変ですからね(笑)」。
鶏肉は地鶏のもも肉。野菜はゴボウ、白菜、ネギ、ニンジン、シイタケやきのこ類など。こちらでは豆腐ではなくて厚揚げを使う
鶏ガラ、ニンニク、ショウガ、卵の殻、ネギなどを、アクをとりながら6時間ほど煮込む。味付けは、砂糖、醤油、ミリン、塩、酒など
まず鶏肉を入れ、ゴボウなどの火が通りにくいものから順に入れていく。固めにゆでたそうめんは食べる直前に入れる
元々は海士(あま)と呼ばれる男性の潜り手が食べていた『ウニのぼっかけ飯』を、『生ウニ丼』として提供を始めた店。ウニやサザエといった魚介類、壱岐牛、地元の野菜など、壱岐の自然の恵みをふんだんにつかった料理がメニューに並ぶ。自称“壱岐の島の味守り人”と言う四代目店主が作る『ひきとおし』は、甘さ控え目のちゃんこ鍋風で、焼酎に合う味わいだ。
住所 | 壱岐市郷ノ浦町本村触519-11 |
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電話 | 0920-47-0688 |
営業 | 11:00〜OS22:30 |
休み | 不定 |
席 | 60席 |
カード | 不可 |
駐車場 | あり |
URL | https://www.iki-ajiyoshi.com/ |