各店が吟味した黒豚の肉を使っている。とんかつに適しているのはロース肉とヒレ肉だ。肉をやわらかくする工夫がされることも
小麦粉・卵・パン粉・油の選び方と揚げ方は、料理人の腕の見せ所。油から取り出した後、余熱で仕上げるのもポイントだ
肉の旨味を引き出すために甘味と酸味のバランスを考えたソースは、各店のオリジナル。塩だけで食べることを勧める店もある
天孫降臨の伝説も伝わる霧島神宮のほど近くに『産直レストラン 黒豚の館』はある。自然に恵まれた霧島で育つ『霧島高原純粋黒豚』を提供している店だ。
松本和人さんにお話をうかがった。
「豚は生き物ですから、飼料はもちろん、育てる環境が大事ですね。水も空気も。ただし、きちんと育った『かごしま黒豚』ではあっても、すべてが同じ肉質になるとは限りません。肉として本物かどうかを見極めること、つまり、さばいた肉を見た時、そのまま食べていただくのか、加工品として食べていただくのかを仕分け・選別することも必要ですね」。
こちらでは、吟味した『かごしま黒豚』を使った料理を食べられるのだ。
とんかつの中でも1番おすすめだという『ロースとんかつ』を作っていただいた。
「こちらは、昨日さばいたロース肉のブロックです。『かごしま黒豚』の場合、8カ月という十分な肥育期間がありますので、すぐに食べても美味しいんですよ」。
肉の筋と交差するように切れ目を入れる『筋引き(すじびき)』という下ごしらえをした後、小麦粉をまぶし、溶き卵に通し、パン粉を付ける。
「塩コショウを加えて、少し味付けした小麦粉です。肉の表面にしっかりと付けた後、しっかりと落とします。しっかり落としておかないと、溶き卵が、すべって落ちてしまうんです。
パン粉は粗めの生パン粉。以前は乾燥パン粉を使っていたこともあるのですが、生パン粉のほうがサクサク感がいいですね。
揚がった時に旨味が逃げないようにするため、パン粉をまぶした後、きつく握るようにします」。
衣をつけたロース肉を油に投入する。
「165度の白絞油(しらしめゆ)で5分くらい揚げます。タイマーもかけておきますよ。私たちは肉の卸しもしているので、とんかつを提供しているいろんな飲食店の方にもお話をうかがうことができます。その中で、『勘を過信してはだめ』ということを教えていただいたんです。ですから、最後の部分は感覚にはなりますが、タイマーもかけておくんです。油に入れて、初めは水分が多いので表面に出る気泡も大きいですが、だんだんと小さくなっていきます。その気泡の大きさが、火の通り具合の目安になります」。
油から取り出された肉は、バットの上にしばらく置いておく。
「油に入れていた時間と同じくらい置いておくんです。その時間は、余熱を使って衣の中で、肉を蒸し焼きにする感覚ですね。これで肉汁を残しつつ、やわらかく仕上げることができます。油の中で完成させないことが大事なんです。全国のとんかつ屋さんからうかがったお話を参考にして、うちでできるベストな状態で作らせていただいています」。
余熱でとんかつが完成したら、包丁で切る。切る時のサクッという音からも味が伝わってくるようだ。そのとんかつを口に運んだ。
「一口目はそのままで、二口目は喜界島の塩で、後は特製のとんかつソースや辛子をつけてお好みでどうぞ!」。
軽い食感の衣の中に広がる、ロース肉のやわらかな歯応えと旨味。塩が甘味を引き立てる。
「脂身という言い方がよくされますが、『かごしま黒豚』では“白身”という言い方をしています。ですから、全体の脂肪分のサッパリ感、弾力のある赤身の歯切れ、白身のとろけるようなジューシーさ…三位一体となった黒豚ならではの味わいを楽しんでいただけると思います。のど越しにも黒豚を実感していただけますよ(笑)」。
ロースかつ以外にも、ヒレかつ、しゃぶしゃぶ用にする薄い肉を丸めて揚げた、しゃぶカツというとんかつメニューもある。
「何もつけなくても美味しいでしょう?黒豚は大味ではなく、小味なんです。飲み込む時の、のど越しの記憶って大切なんですよ」。
社長・平邦範(たいらくにのり)さんにもお話をいただいた。鹿児島県・喜界島(きかいじま)ご出身の平さんは、同郷の老婦人の『昔懐かしい黒豚で作った豚みそを食べたい』の一言がきっかけで黒豚と出合い、1990年、黒豚専門レストランをオープンさせた(当時は『バークシャー村』、現在『黒豚の館』)。2008年には、地域ブランドを守り、次世代へとつなぐために『農事組合法人霧島高原純粋黒豚牧場』を設立。その後、『かごしま黒豚』の飼育も手がけられている。
「自分が見える範囲でやらないと責任とれませんからね。黒豚は、バークシャー種の俗称ですが、バークシャーの中にも、アメリカ、カナダ、イギリスのものがあります。イギリス産は筋繊維が細くて旨い、繊細な味の豚。明治の初期にイギリスから導入したバークシャー種と薩摩土着の豚をかけあわせたものを、昭和から平成にかけて更に改良を重ねて作り上げたものが現在の『かごしま黒豚』です。鹿児島の黒豚の歴史は400年、それを改良した『かごしま黒豚』は40年かけて作り上げてきたものなんですよ」。
中でも平さんが手がけられている『かごしま黒豚』は、“霧島”から生まれるものだ。
「空気、水はもちろんですし、豚の堆肥でさつまいもを育て、そのさつまいもを豚に食べさせる試みもやっています。霧島の旨味がつまっている肉の味ですね」。
また、地域と連携し、豚の堆肥を使って作られた米やお茶は『黒豚の館』で使われている。メニューにも、『素材は霧島、大自然がスパイス!』、黒豚のことが『薩摩の黒い宝石』と書かれていた。
松本さんは全国各地のデパートの催事にも、展示・販売に出かけられるとのこと。
「灯台もと暗しといいますか、なぜか熊本でとても人気です(笑)。催事の時に、いつも『本場から持ってきたのではなく、本物を持ってきました』と言っていますよ。私も初めて本物の黒豚を食べた時に、その美味しさに驚きました。すごいと思いました。それで今の仕事をしているんです。私たちが提供しているのは、『料理にして調理にあらず。素材ありき、誰でもできる料理』だと思っています。今、豚肉は全国各地に260くらいのブランドがあると言われています。けれど、ブランドというのは作るものではなくて、作られるもの。お客さんが美味しいと思った時に生まれるものなのではないかと思っています。『かごしま黒豚』は40年の歴史がある黒豚。これからも本物をお届けします!」。
自社飼育もしている『霧島高原純粋黒豚』を使用。肉の筋と交差するように切れ目を入れる『筋引き』という下ごしらえをする
味付き小麦粉をまぶし、溶き卵に通して粗めの生パン粉をまぶす。165度の白絞油で5分ほど揚げて取り出し、余熱で仕上げる
特製ソースと喜界島の塩が添えられる。そのままでも旨いが、塩を付けて食べると肉の甘味が際立つ
「霧島高原ロイヤルポーク」の系列のレストラン。自然に恵まれた霧島の地で育つ『霧島高原純粋黒豚』の弾力ある肉の食感や旨味が一番ストレートに伝わるのは、とんかつやしゃぶしゃぶだ。とんかつは特製ソースも付くが、塩を少し付けて食べれば甘味が引き立つ。定番のロースかつや、ひれかつの他、しゃぶしゃぶ用の薄切り肉をまるめた、しゃぶかつも人気。
住所 | 霧島市霧島永水4962 |
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電話 | 0995-57-0713 |
営業 | 11:00〜15:00/17:00〜OS20:00 |
定休日 | 水曜(祝日の場合は翌日休み) |
席 | 42席 |
カード | 不可 |
駐車場 | あり |
URL | http://www.krp1.com/ |