九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

肉

あか牛の特徴は、赤身肉の美味しさ。『あか牛丼』には、それがより楽しめるモモ肉が使われることが多いようだ

タレ

ごはんだけにかけるタレ、肉にからめるタレと、各店が工夫を凝らしているが、肉の旨味を引き立てることを大事にしている

作り方

水菜などの野菜をのせたごはんの上に、特製タレをからめてレアな状態に焼き上げた肉を並べ、温泉玉子をのせる。ワサビなどを添えできあがり

語り いまきん食堂 今村聡の「あか牛丼」

今村聡(いまむらさとし)さん

創業明治43年(1910年)。内牧温泉街の一角にあり100年を超える歴史をもつ老舗食堂。現在、暖簾を守るのは4代目・今村聡さんだ。「開店した頃は、きじ料理、だご汁、肉めし(牛丼に近い料理)、ちゃんぽんなどがメニューにあったようです。今もちゃんぽんはメニューにありますね」。そして、現在の『いまきん食堂』の一番人気は『あか牛丼』。休日はもちろん、平日でも行列ができることは珍しくない。
「『あか牛丼』を始めたのは2005年くらいからです。平成の合併で阿蘇市が生まれた時(阿蘇町・一の宮町・波野村が合併して阿蘇市となった)、これから観光にもっと力を入れていくために、あか牛を使った料理が何かできないかという話がもちあがったのです。あか牛はもともと阿蘇では食べられていましたが、どちらかと言うと農耕用の牛でした。そしてその頃、阿蘇の緑の草原が維持しにくい状態になっていました」。

阿蘇と言えば緑の草原というイメージが強いが、この草原は自然に生まれたものではない。毎年2月後半から野焼きを行なうことで、有害な虫を駆除し、木々の繁殖を防ぐ。野焼きの後に生い茂った草は放牧されたあか牛のえさとなり、秋には干し草にもなる。あか牛のフンは堆肥となり、阿蘇の田畑を潤す。昔から続くこの循環は2013年には『阿蘇の草原の維持と持続的農業』として世界農業遺産に認定されている。「野焼きは農家の方々が行なうのですが、ボランティアで行なわれていて、将来的な不安があったのです。そこで、農家だけでなく、宿のみなさんなども含め、『阿蘇の草原を見に来た方々があか牛を食べる→農家の方が潤う→無理なく野焼きが行なわれる→また観光で阿蘇に来てもらう』という循環ができないかと考えたのです。そうやって阿蘇の草原を守りたいということ、少しでも農家さんのためになればということで生まれたのが『あか牛丼』ですね。初めはうちの店とあと2店、合計3店で作っていました。『あか牛丼』は、ごはんの上に肉と温泉玉子、わさびをのせます。ごはんの上にのせるあか牛の肉の置き方と温泉玉子は上から阿蘇山を見た様子、添えるわさびは米塚をイメージしたものだったんです」。

阿蘇の風景をかたどって生まれたという『あか牛丼』を作っていただいた。使うのはあか牛のモモ肉。塩コショウしてフライパンで両面を焼いた後、

モモ肉に塩コショウして両面を焼く
酒を回し入れる
特製タレをからめて焼く

日本酒をふりかけると大きな炎があがる。そこに特製のタレがたっぷりと注がれ、さらに火を加える。 「このタレは、うなぎの蒲焼のタレのように、継ぎ足しながら使っているものです。醤油ベースで、リンゴやタマネギなども材料に使っていますね」。

丼に盛り付けたごはんの上から、肉にかけられたものとは違う甘みを抑えたタレがかけられる。その上に大根の千切りと水菜をのせ、あか牛の肉を刻んで味噌と合わせた自家製肉味噌を添える。

ごはんに専用のタレをかけ、大根と水菜をのせ、自家製肉味噌を添える

スライスした肉をのせ、温泉玉子をのせ、フライパンに残したタレをかける。最後にわさびを添えてできあがり。かなりのボリュームだ。「うちは大衆食堂なんで、毎日来ていただきたいし、たくさん食べていただきたいんです」。

肉を切り、並べる
温泉玉子をのせ、フライパンに残ったタレをかける
ワサビを添えてできあがり

まず、肉にわさびをつけて食べ、次に自家製肉味噌をつけて食べ、温泉玉子を割って食べる。ほどよい味わいのタレが、レアな焼き加減の肉の味を引き立てる。「味は淡麗といいますか、薄い味付けにこだわっています。あか牛の味をできるだけ感じていただきたいからです。あか牛は、最後は牛舎で飼育されますが、放牧され自然の中で育ったストレスのない牛です。その肉の美味しさを感じていただきたいですね」。
ボリュームのある『あか牛丼』だが、肉の美味しさとともに大根の食感や肉味噌の甘みがアクセントにもなり、するするとお腹におさまる。個性的な『あか牛とレモンのスープ』もよく合う。

「私は日本一、あか牛を食べている人間でしょうね」と笑う今村さん。その美味しさを伝えるため、細かな仕事が行なわれている。
「一言でモモ肉といってもメスとオスでは肉質は違います。モモの外側と内側でも肉質は違います。メスの内モモが一番やわらかくて、オスの外モモはすこし歯ごたえがあります。もちろん、個体によっても異なります。切り方を変えたり、一杯の丼に使う肉をうまくブレンドしたりして常に最高の状態のものをご提供しています」。『あか牛丼』以外にも『あか牛ハンバーグ』、『あか牛そぼろ丼』、『あか牛の千本すじ』、『あか牛すじポン』などあか牛メニューを含め、様々なメニューがあるが、『あか牛丼』以外のおすすめメニューを尋ねると、答えは『たかなチャーハン』だった。「高菜を自分たちで育て、漬物にした自家製高菜漬けを使ったチャーハンです。美味しいんですよ!」。素朴でほっとできる味わい、価格が550円ということもあり、毎日でも食べたくなるチャーハンだ。「ずっと大衆食堂であり続けたいと思っています!」。『あか牛丼』の名店に昔からある想いは、食べ飽きない美味しい料理をたっぷりと、より安く。『あか牛丼』にもその想いが込められているのだ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

肉

あか牛のモモ肉を使う。オスとメスの違いや、モモの外側と内側の違いで肉質が異なるので、切り方やブレンドで最適にしている

タレ

うなぎの蒲焼のタレのように、継ぎ足しながら使っている醤油ベースの特製タレ。ごはんにはこのタレとは違うタレがかけられる

作り方

大根、水菜、肉味噌を専用のタレをかけたごはんの上にのせ、特製タレを絡めてレアに焼き上げた肉をのせる。温泉玉子とワサビを添える

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いまきん食堂 100年以上の歴史をもつ老舗大衆食堂

創業明治43年(1910年)で、内牧温泉街の一角にある食堂。現在、暖簾を守るのは4代目・今村聡さんだ。ごはんにかけるタレも、うなぎ屋のタレのように継ぎ足しながら使われている。肉に使うタレも薄味なのは「あか牛の美味しさを感じていただきたいからです!」。切り方やオス・メスの違いにも気を使って提供されるモモ肉の味を堪能したい。

温泉玉子、あか牛の肉を使った自家製肉味噌、わさびが添えられる『あか牛丼』1740円
今村さんが「とてもおすすめなんです!」と言う『たかなチャーハン』580円
テーブル席と座敷があり気軽に利用できる
ショーケースの中には昔なつかしい食見本が並んでいる

いまきん食堂

住所 阿蘇市内牧290
電話 0967-32-0031
営業 11:00〜15:00(受付終了)
休み 水曜、第3木曜
68席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://aso.ne.jp/imakin
※記載した内容は2019年3月25日現在のものです。
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