九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

酢飯

米どころ・白石町の米がベース。もちもちした食感を出すため1割ほどもち米も加える。炊きたてに寿司酢を加え酢飯をつくる

具材

奈良漬け、錦糸卵、むつごろうの甘露煮、紅しょうが、椎茸、ゴボウ、カマボコなどが基本的な具材。作り手によって違う具材も入る

盛りつけ方

錦糸卵を一番上から丸い形にしてのせるところは共通しているが、細かい盛りつけ方は作り手によって微妙に異なるようだ

語り みどり会 猪ノ口操の「須古寿司」

猪ノ口操さん

「須古寿司を小さい頃に初めて見た時、きれいだなぁと思った事をよく覚えています。隣の地区から須古にお嫁に来て、姑から須古寿司の作り方を教えてもらったんですよ」。
白石町須古地区の女性6人で地元の農産物を使ったお菓子や惣菜を作っている『みどり会』。代表の猪ノ口操さんは、『みどり会』のメンバーとともに、須古地区に昔から伝わる須古寿司の味を守り続けている。

手でごはんをのばす

「須古寿司は、この地区のお殿様に献上したのが始まりと言われています。長崎県の大村に伝わって、そこから大村寿司が生まれたという話もありますね」。
もう一つ、須古寿司にまつわるおもしろい話も教えていただいた。
「地元では、『水堂さん(みっとさん)』と呼ばれて親しまれている『安福寺(あんぷくじ)』では、旧暦の4月15日から100日間、霊験あらたかな霊水が湧き出ると言われています。仏様にお供えしたり、お腹が痛い時に飲む薬としてなど、昔からたくさんの人がこの水を汲みに来ます。その方々のためにも須古寿司を作っていたようですね」。

寿司切りで区切っていく

そんな話をうかがっている間にごはんも炊きあがり、いよいよ須古寿司作りを見せていただいた。
「今日のお米は『さがびより』です。もちろん普通に炊いても美味しいのですが、これを5合、それにもち米を0.5合加えて、昆布と塩を入れて炊きます。酢、砂糖、塩を合わせてねかせておいた寿司酢を、ごはんが熱いうちに加えて混ぜ合わせます」。

酢飯ができあがったら、『もろぶた』にしきつめていく。
「まず、もろぶたに寿司酢をうすくぬって、酢飯をのせ全体に広げて、手で軽く押します。その後は『寿司切り』で軽く押さえます。厚さは5mm〜10mmにしていますね」。
寿司切りはラケットのような形をした自家製のヘラ。高御膳(たかごぜん/通常のものより足の長い膳。元々は殿様などが用いていた)に使われていた木を使って作られたもので、落ち着いた色合いだ。

 もろぶたにごはんを敷き詰めたら、寿司切りで3×6の18等分にする。約10cm角の正方形ができあがり、そこに具材をのせていく。

具材を中心に重ねていく。季節の具材が入ることもあり、春はフキや山椒の芽などが入ることもある

まず真ん中にのせられたのは、素焼きして甘辛く炊き、手でほぐしたむつごろう。さらに椎茸、ニンジン、ゴボウ、タケノコ、自家製奈良漬けがその上に重ねられていく。ここまでは色味は地味だが、ここからは、カマボコ、錦糸卵、キュウリと華やかな色に。最後に紅しょうがをのせて完成だ。
「一つ一つの具材に丁寧に味付けをして、具材を大事にしながら作っています。一つ一つの区画は田んぼ、切った線はあぜ道、黄色は菜の花を表しているとも言われています」。

ところで、一目だけでは、錦糸卵の内側に何が入っているのかはわからない。また、その中もむつごろう、ニンジン、ゴボウ、タケノコ、奈良漬けと具材が順番に重ねられているので、これまた下に何があるのかすぐにはわからない。
「一枚目は『何が入っているのかな?』と興味を持って食べていただけるように、このような作りにしているんですよ。卵をかきわけ、中の具材をかきわけて、中に何が入っているか探すのもおもしろいのではないでしょうか(笑)。2枚目からは中身もわかったところで、ゆっくり美味しく食べていただけるといいですね」。
ほんのり塩味の錦糸卵や、ゴボウ、ニンジン、タケノコ、甘辛い椎茸やむつごろうの味わいで甘めの酢飯が引き立つ。奈良漬けや紅しょうがは、味わいとともに歯応えでもいいアクセントだ。

紅しょうがをのせたらできあがり

地元の小中高で子どもたちに須古寿司のつくり方を教えているという猪ノ口さん。
「椎茸やむつごろうが苦手な子どもたちもいますが、自分で作ると食べるんですよ。好きな具材はなんでものせていいんですが、私はまず基本のものを教えています。自分たちで作って、自分たちで食べて、須古寿司を郷土の味として感じてもらって、ずっと受け継いでくれるとうれしいですね」。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

酢飯

もろぶたで作る場合は、白石産のお米5合にもち米0.5合に昆布と塩を入れて炊く。寿司酢は、酢、砂糖、塩を合わせて寝かせたものでごはんが熱いうちに混ぜる

具材

甘辛く煮たむつごろう、椎茸、ニンジン、ゴボウ、タケノコ、自家製奈良漬け、カマボコ、錦糸卵、キュウリ、紅しょうが。どれも甘めの酢飯とよく合う

盛りつけ方

カマボコ、キュウリ、紅しょうが以外は酢飯の中央に重ね、錦糸卵でおおいかくして一目では何が入っているかわからない。食べる前の興味をひくための工夫だ

このページを共有・ブックマークする

みどり会 白石の農産物で作る素朴な味わい

白石町須古地区の女性6人で地元の農産物を使ったお菓子や惣菜を作っている。須古寿司をはじめ、日替り弁当、惣菜、てんぺまんじゅう(てんぺは大豆から作られる発酵食品)、よもぎだんご他、どれも素朴な手作りの味で、白石特産物直売所で販売されている。もろぶた入りの須古寿司に関しても、白石特産物直売所に問合せを。

もろぶたに須古寿司が18コ入ったものは3,500円(税込)。2コパックは420円(税込)

白石特産物直売所

住所 佐賀県杵島郡白石町大字東郷1218-7
電話 0952-84-7050
営業 9:00〜17:30
休み なし
※記載した内容は2016年3月22日現在のものです。
お店情報をプリントする