使う部位、スライスする厚さで味わいも違う。より美しく見せるため、盛りつけ方にも各店の工夫がある
肉をくぐらせる出汁(スープ)は、一般的には昆布出汁が多いが、ここにも各店の個性が表れる
何もつけなくても美味しいのが鹿児島の黒豚。黒豚そのものの味を伝えるため、各店は特製のタレを準備している
大学時代、応援団長を務めた佐藤光也さん。卒業して何年かが経ち、鹿児島で先代からの飲食店をリニューアルしようとした時に出合った『黒豚』。その時から、佐藤さんは『黒豚』の応援団長となったのだった。
「私が黒豚の美味しさを知ったのは取引先の肉屋さんから試食用にいただいたものを食べた時でした。その美味しさに驚きましたね。それまで知っていた牛肉の味でも、豚肉の味でも、鶏肉の味でもありませんでした。しかし、当時、鹿児島で黒豚の生産高は豚肉全体の2%ほどでした。その少ない肉はほとんど東京に行ってしまい、地元では食べられるところもなかったのです。『こんなに美味しいものをなくしてはならない、鹿児島の宝をなくしてはならない』と、奔走していたのは私の大学の先輩・武田信近氏、県職員の永田文吉他黒豚応援団の人でした。先輩からも『黒豚のメニューを出して応援してくれ』とも言われ、その時から、黒豚をずっと応援し続けているのです」。
黒豚の美味しさをどんな料理で多くの人たちに伝えるか?佐藤さんは試行錯誤した。
「豚肉を使ったメニューで言えば『トンカツ』が一番メジャーではありましたが、それではないと思いました。家族団らんの中心にありみんなで食べられる鍋料理にならないかと考えました。ただ、豚はしゃぶしゃぶには向いていないと思われていたのが当時の事情です。しかし、美味しい黒豚を使った『黒豚しゃぶしゃぶ』ならいけるのではないかと思ったのです。そして、牛しゃぶと同じような食べ方では、単なる真似でしかないので、応援団の指導アドバイスを受けながら、さらに考えました。そこで生まれたのが、すき焼きとしゃぶしゃぶの中間のような食べ方。つまり、スープに肉をくぐらせて、卵と一緒に食べるというものでした」。
初めはほとんど注目されず苦しい時代もあったが、4年目にしてテレビの取材申込があったのだそう。そして、黒豚しゃぶしゃぶの認知度はあがっていった。
「いわゆるスープしゃぶしゃぶを初めてメニューに出したということ。どんな素材でもしゃぶしゃぶにできるというきっかけを作ったこと。そして、豚肉そのものの地位も上げたこと。それらに関しては自負していますね(笑)。昔は『私は豚肉が好き』なんていう人はいませんでしたからね(笑)」。
それから30年以上が過ぎた今、店のパンフレットには佐藤さんの一遍の言葉が書かれている。
私は夢を見ているのだろうか。
街中にあふれる黒豚料理の看板メニュー。
私は夢を見ているのだろうか…。
さつまの宝、黒豚復活を目指して
三十有余年。
ついにその夢が現実となった。
果たして、佐藤さんの役目は終わったのだろうか?
「黒豚と出合えて本当に良かったと思っています。今、黒豚を出す店も増えましたが、増えたからこそ私もがんばらないといけません。それは『黒豚』と名の付くものがどれも同じレベルで美味しいというわけではないからです。私の店で出す黒豚は、私が納得したものだけです。その味を維持するには、私の経営能力では、1店舗だけで精一杯なのです。黒豚の名に恥じない品質を追求して、本物の味を守っていきたいと思っています。それが、これからの私の役目ですね」。
『あぢもり』。そこには『味を守る』という意味が込められているのだ。
佐藤さんの熱い話をうかがった後にいただくしゃぶしゃぶ。『あぢもり』では『黒しゃぶ』と呼んでいる。
皿の中央には、かごしま黒豚のバラ肉をバラの形にしたもの、そのまわりにはロース肉が置かれている。バラ肉のほうが少し厚めにスライスされているとのこと。赤身、白身、鍋は熱伝導率のいい銅製で表面は金色、その中には金色に輝くスープ。おめでたい色のとりあわせだ。このスープ、和風出汁の味わいもするがその真相は…。
「スープの詳しいことはヒミツです。ロマンがなくなっちゃうからね(笑)。何で作られているか、話のネタにしてみてください(笑)」。
スープがたぎってきたら、バラ肉の花をすべて中へ。まずは、肉だけをいただくとバラ肉の白身の旨味が強く感じられる。次に、器に新鮮な卵を割り入れ、少しスープを注いだものでロース肉をいただく。卵が入っていることによって、肉にスープがよくからみ、こちらは特に赤身の旨味がより感じられる。バラ肉もロース肉も口の中でとろけるのは同じだ。
「黒豚は元々がやわらかいし、多少煮込んでもかたくはなりません。家族そろってゆっくり食べていただきたいですね」。
野菜もすべていただいた後の〆は、島原で作ってもらうという特製手延細うどんだ。
「細いので、満腹だったとしても、ツルッとお腹の中に入ってしまいますよ(笑)」。
黒しゃぶは、質・量ともに私たちを満足させれくれる料理だ。
『かごしま黒豚』のバラ肉とロース肉を使用。皿の外側をロース肉で飾った後、バラ肉は皿の中央でバラの花の形にされる。バラ肉のほうがやや厚めにスライス
熱伝導率のいい金色の銅製鍋に入れられたスープも金色。スープの詳細は秘密だが、黒豚の味を引き立てることを考え抜いて作られたことだけは間違いない
器に新鮮な卵とスープを入れ、それを肉にからませながらいただく。バラ肉は初めは何もつけないでそのまま食べるとより白身の旨さがわかる
厳選された極上の『かごしま黒豚』を使い、黒豚そのものが持つ味を最大限にいかした食べ方を提案。1階ではとんかつなどを気軽に食べられる。2階では『黒しゃぶ』を個室でゆっくりといただける。黒豚の赤身(肉)と白身(脂身)が持つ本来の旨味と甘味を味わってもらうため、卵とスープでいただくというスタイルだ。
住所 | 鹿児島市千日町13-21 |
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電話 | 099-224-7634 |
営業 | 黒しゃぶ 12:00〜L.O.14:00(入店は13:00まで) 17:30〜L.O.20:45(入店は20:00まで) とんかつその他 11:30〜L.O.14:15 |
休み | 水曜 |
席 | 155席 |
カード | 可 |
駐車場 | なし |
URL | http://adimori.com |