肉身と脂身のバランスがいいものを使うことが重要。また、皮付きの肉を使うため、毛の処理などの下処理も大切な作業だ
基本となる材料は醤油、砂糖、酒、ショウガなど。独自の調味料や、長年継ぎ足され続けている秘伝のタレを加える店もある
脂を抜くための下茹でをした三枚肉を切った後、タレで煮込みを行う。下茹でにも煮込み方にも、各店のやり方があるようだ
「『豚の角煮』は最近始めたものなんですよ」と料理長・森さん。とは言え、それは昭和50年代であり既に30年以上が過ぎている。“最近”というのは、140年以上の歴史を持つ『吉宗』であればこその表現だ。幸いにも戦災を受けなかった建物は昭和2年に建てられたもの。テーブルや調度品もその時から使われているものだ。テーブルの味わい深い傷や角の丸みはお客さんと吉宗が過ごした時の流れを証明するものでもある。
さて、4代目社長が考案したという『豚の角煮』は、当時と変わらない作り方と味を今も守っている。できあがりまで3日間かかるという手順を教えていただいた。
肉と脂がはっきりと分かれていない最高の豚の皮付き三枚肉を大きくカットして、ゆでる。その際、ショウガやタマネギと一緒にゆで、余分な脂を抜くと同時に豚肉の臭みをとる。その後、皮の部分を下にして、バットに入ったたまり醤油につけしばらく火を入れる。皮の部分にだけ、先に下味をつけるのだ。
豚肉を約65gにカットして大鍋に100コほど入れ、豚のスープ、利尻昆布、鶏ガラスープで煮込む。途中、浮かんでくる脂やアクをとりながら煮込んでいく。
次にタレの中で煮込む。タレの材料は、シイタケの出汁、タマネギ、ニンニク、酒、赤酒、特製注文の白薄口醤油、上白糖、さらには艶を出すための氷砂糖など。やはり幾つもの材料をぜいたくに使っている。
コトコトと煮込んだ後、火を止める。
一晩ねかせ、タレの味がじっくりと染み込ませ、3日目にできあがりだ。
タレやスープは毎回使い切り。次の角煮は、また新しいタレで作られる。上品な出汁やスープで煮込むのと合わせ、毎回新しいタレを使うことにより、しっかりとはしているが控えめな味の中に、豚肉本来の旨味が引き出されている。それは、味の根底に甘味が見え隠れする長崎にあって、趣が異なる部分だ。
「出汁を基本にして素材の味を生かした料理を作ることが、吉宗の考え方です。それは角煮も同じなんですよ」。
器に盛られた美しい飴色の角煮はトロトロ。七代目の吉田宗由さんが角煮の美味しい食べ方を教えてくれた。「角煮のタレはごはんにかけると美味しいですよ。ぜひ、器に残ったタレはごはんにかけてみてください。それから、私は一切れを一口で食べるのが一番美味しい食べ方だと思っているんですよ(笑)。豚の角煮は決して上品な料理ではないと思います。豪快に食べていただきたいですね」。
皮付きの豚の三枚肉は、肉と脂があまりはっきりと分かれていないものを使っている。それにより、煮込み終わった時にトロトロの肉と脂に一体感が生まれる
シイタケの出汁、タマネギ、ニンニク、酒、赤酒、白薄口醤油、上白糖、氷砂糖などで作られている。タレは以前のものを継ぎ足すことはなく、一回ごとに使い切りだ
アクと余分な脂を取り除く下ゆで後に、皮だけにたまり醤油で少し味をつける。さらに昆布出汁や鶏ガラスープなどで煮込んだ後、タレで煮込み、3日間かけて角煮は完成する
慶應2年(1866年)に茶碗蒸しと蒸し寿司の専門店として創業。以来、“甘味”が味の根底にある長崎にあって、“出汁”を基本に素材の味を生かした料理を提供。芝居小屋のような荘厳な建物だが、メニューには丼物などもあり、気軽に利用することができる。豚の角煮の味付けも薄味で、肉本来の旨味を伝えている。
住所 | 長崎市浜町8-9 |
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電話 | 095-821-0001 |
営業 | 11:30~L.O.20:00 |
休み | なし |
席 | 200席 |
カード | 可 |
駐車場 | なし |
URL | http://www.yossou.co.jp |