もずくだけのシンプルなものの他、かき揚げのようにするためタマネギやニンジンなど千切りの野菜を合わせて使うこともある
基本的には塩だけというシンプルな味付けが多い。天つゆやソースなどが添えられることもある
材料に塩を加えて混ぜ、衣となる卵と小麦粉を入れてさらに混ぜる。全体に火が通りやすくなるため平たく形を整えて揚げていく
店の壁や屋根には著名人から一般の方まで、サイン色紙や名刺がびっしり。
「数えたことないのよ(笑)」。2012年4月で39周年。女将・与那原栄子さんは、ご主人と二人で『郷土料理 ここ』を営んでいる。
「来てくれる方がみんな、『お父さん、お母さん、ただいま〜、来たよ〜』って言ったりしてくれて慕ってくださるんですよ。本当にうれしいですね。感謝、感謝です」。
与那原さんは宮古島の出身。小さい頃から海で遊んでいたのだそう。
「もずくとか海ぶどうとか、自然のものが海にいっぱいあったの。遊びに行って、採ってきて、おかずにして食べてたのよ。もずくは養殖もされているんだけど、網から流れ出て、岩などにくっついて、育ったりもしてるのね。大体、3月から5月くらいがよく採れます。沖縄のもずくは太くて、塩漬けにしたものでも美味しいんだけど、生のもずくは香りがとてもいいね。沖縄の主婦はみんな、海に採りに行って、晩ごはんのおかずにしてるんじゃないかな。もずくは味噌汁に入れても美味しいしね。採ったものを売ったりしたら叱られるかもしれないけど、海はみんなのものだからね〜(笑)」。
なんともおだやかなお話。そして、文面で伝えるのは難しいが、なんともおだやかな沖縄のイントネーションだ。『もずくの天ぷら』の作り方を見せていただくことをお願いすると、
「そうだったね、天ぷら焼いてみんなで食べましょうね〜」。
この語尾も沖縄独特の言い回し。与那原さん曰く「みなさんに、同意を求めているのかな?(笑)」。
今日の『もずくの天ぷら』の材料は、もずくの他、インゲン、カマボコ、ニンジン、タマネギだ。
「なにか豆類は入れるんだけど、今日はインゲンね。自分たちで食べる時は、ゴーヤー入れたり島らっきょうを入れたりもするよ。野菜は主人が畑で育ててるものが中心よ〜。もずくだけじゃなくて、野菜も入れてかき揚げみたいにすると、まわりがサクサク、もずくはしっとりで美味しいね」。
ニンジンは皮を包丁でこそぎとり、『にんじんしりしりー』を作る時に使うかんなのような道具で千切り状態にする。その他の具材もそれぞれ細めに切ってボールに入れる。特に計量しているわけではないので、途中で「インゲンをもっといれましょうね〜」。
そのボールにもずくを入れる。塩漬けのもずくの場合は水洗いしてからだ。そして、小麦粉、塩などの調味料、さらに、ツナ、水、卵を加えて混ぜる。こちらも目分量。
「私の料理はみんなそうだけど、『もずくの天ぷら』も味の秘密は『てーげー』と『てぃーあんだー』よ〜(笑)。これで3皿分くらいできるかな」。
『てーげー』とは、適当にという意味。『てぃーあんだー』とは直訳すると“手の油”、転じて愛情という意味だ。
もずくと野菜が混ざり合ったら、両手で形を整えて、鍋肌から滑らせるようにして油に入れる。
「形は、うすくひらべったくね。くずれないようにそっと油の中に入れるの。油の温度は、多分180度くらいじゃないかな。
「計ったことはないけど、油に塩を入れると音でわかるよ。『まだまだよー』とか『もう少しよー』と音が教えてくれるの。ゴーヤーチャンプルー作る時なんかも、材料を炒めていると『今、卵を入れる時だよー』という音がするよ(笑)」。
こんがりと揚がった『もずくの天ぷら』がお皿に並べられる。1皿6コ、一人で食べるよりみんなで食べたほうがよさそうだ。
「料理はたくさん作ったほうが美味しいからね〜(笑)」。
お皿いっぱいに盛られた幸せ感、もずくの食感、野菜の旨味とさっくり感。沖縄一の繁華街・国際通りから数十メートル入っただけの場所なのだが、沖縄の家庭に招かれたようなあんまぁ(母)の味だ。
生のもずくか塩漬けもずくを水で洗って塩抜きしたもの、豆類(写真はインゲン)、タマネギ、ニンジン、最後にツナも入る
味付けは主に塩で、出汁の素なども少し加える。ツナや自家栽培の野菜の旨味も、いい調味料となっているようだ
材料、小麦粉、卵をまぜ合わせ、うすい形を作り、その形がくずれないよう鍋肌をすべらせるようにして油に入れて揚げる
那覇の国際通りからほど近くにある沖縄郷土料理の店。家庭的な雰囲気の中、『ゴーヤーチャンプルー』600円、『沖縄そば』600円など、女将・与那原栄子さんが作るやさしい沖縄の味がそろう。お得な『郷土料理コース』は2000円〜。『もずくの天ぷら』は、自家製野菜も一緒にして揚げるかき揚げのような一品。野菜のサクサク感も旨い。