うなぎはさばいて下ごしらえをする。塩をしてねかせるなど、下ごしらえのやり方は各店独自の方法で行なっている
熱湯に通しすぎても、通す時間が短か過ぎても美味しい湯引きはできあがらない。各店がもっとも気を使う部分だ。湯の温度も異なる
ポン酢か酢味噌でいただくのが一般的。大分特産のカボスを使ったポン酢も多く使われている。柚子こしょうが添えられることも多い
『いた屋本家』は、江戸時代に創業したうなぎ・川魚料理の店。160年の歴史を持つ店の暖簾を現在守っているのは、五代目・板谷義文さんだ。
「その昔は、三隈川で鮎、鯉、うなぎがたくさん獲れていたそうです。その豊富な川魚を扱う店を初代が始めたのです。日田は海から離れていますし、川魚は貴重なタンパク源でもあったのでしょうね。『うなぎの湯引き』は開店当初のことは記録がないのではっきりしたことはわかりませんが、私の祖父である三代目が作っていたことは間違いありません。たくさん獲れるうなぎを、刺身のように食べるにはどうしたらいいかと考えられ生まれた料理のようです」。
さて、こちらの『うなぎの湯引き』。さばいてから器に盛られるまでに3日間を要する。
「関東風に背中からさばいて開きます。表面のヌメリをとるために湯をかけ、全体の色が青白くなり少し縮んだところで、水につけて洗います。さらに表面とヌメリと皮の間にある黒い部分も洗い落とします。そして、塩をして3日間寝かせるのです。そうすることで旨味が増しますし、いい塩加減になります。ですから、3日後のことを予想して準備をしないといけないですね(笑)」。
とぐろを巻くヘビのようにくるくると丸められた状態で、うなぎの味は熟成していく。
注文が入ると、熟成が終わり内側が赤味を増したうなぎが薄く斜めに切られる。そして湯に通されていく。
「ボールに湯を入れ、少し冷めるまで待ちます。70〜80度になったところで、切り身を入れます。お湯につけて表面の塩を落とすという感じでしょうか。色が白くなり、身が少し反ったら、お湯から引き上げて氷水で締めます。引き上げるタイミングが難しいところですね。遅過ぎると身がやわらかくなりすぎてしまい、独特の食感がなくなってしまうのですが、早すぎるとえぐみが残ってしまうんですよ」。
器に盛られた『うなぎの湯引き』は、大分特産のカボスを使った自家製ポン酢と特注の柚子こしょうでいただく。やわらかいがコリッとした身は甘くやわらかい。身そのものが持つ塩加減もいい塩梅だ。
「ごはんと合わせるというより、酒の肴ですね。初めは興味本位で食べられて、はまる方もいらっしゃいます。味を知っている方は本当にお好きですね」。
継ぎ足し継ぎ足ししたタレで焼く蒲焼き、それをごはんと一緒に蒸し上げるせいろ蒸しは、昔からずっと愛されている味だが、6〜10月には天然うなぎを使ったもの(プラス800円)を食べることができる日もある。
「天然うなぎが入ったら、表に張り出します。脂がのっているのにさっぱりしていて、養殖うなぎとはまったく違う味わいですね」。
では、『うなぎの湯引き』も、天然うなぎを使うと違った味わいを楽しめるのだろうか?
「はい、そうですね。ですが、すぐには食べられないので、3日後にまた来ていただかないといけません(笑)」。
一体、どんな味わいになるのだろうか。興味は尽きない…。
脂ののった九州産うなぎを使う。さばいた後、塩をして3日間ねかせることにより旨味が増し、ほどよい塩味となる。湯引きの前に、うすく斜めに切る
切り身を沸騰したお湯ではなく、ボールに入れて少し冷ました70〜80度のお湯の中へ入れる。身の色が白くなり、身が少し反ったら引き上げて氷水で〆る
大分特産のカボスを使ったポン酢と、特注の柚子こしょうでいただく。身そのものが持っているほどよい塩味と甘味を、爽やかな酸味が引き立てる
江戸時代から続く川魚・うなぎ料理の老舗。三隈川産の天然鮎は塩焼きや釜飯で、脂ののった九州産うなぎは、継ぎ足し継ぎ足ししたタレで焼く蒲焼きや、それをごはんと一緒に蒸し上げたせいろ蒸しで食べられる。『うなぎの湯引き』はさばいた後、塩をして3日間ねかせてから調理する。独特の食感を持ち、自家製ポン酢とよく合う。