「カツオは切ってさばけば、どの海で穫れたものなのかわかりますよ。2月は屋久島あたりのものが揚がってますが、それからだんだん北上して日向灘にもやってきます。これが上りカツオ。そして、夏に三陸沖まで進んで今度は南下します。これが戻りカツオ。どっちも美味しいですね。鹿児島から分かれて五島の方に行くカツオも美味しい」。日南の港にあがる魚を日々料理している川口さんは、旬の魚介に詳しい。
「日南ではカツオは刺身で食べる人が多いですが、タタキも違う風味が加わっていいですね」。

さっそく川口さんにタタキの作り方を見せていただいた。1本のカツオの身を、背骨をはさんで、背側、腹側それぞれ2つずつ、合計4つに切り、血合いを外し、塩をしてたたく。串を身と皮の間に刺し、ガスの炎で皮の方から焼く。皮に焦げ目がついたら反対側も焼き、表面だけに熱が通ったら氷水に入れて身を締める。
「火を通しすぎたら身がかたくなってしまうので、外側だけ焼くという感覚が大切です」。

水気をふきとったら適当な大きさに切る。タマネギ、ミョウガ、ニンニク、すりおろしたショウガともみじおろしなどの薬味も一緒に盛りつければできあがりだ。やわらかくて甘い新タマネギが添えられるのは春ならでは。

薬味をたっぷりのせて自家製ポン酢でいただけば、外側は香ばしく中はプリプリとした身の味がより引き立つ。自家製ポン酢はご自宅の裏山で育つダイダイも使用。通常の味わいの醤油と日南独特の甘口の醤油を合わせ、鰹節や昆布も入れて1カ月ほどねかせることで、よりまろやかな味わいとなっている。

「身の色がみずみずしいピンク色の新鮮なカツオは、脂がのっていてポン酢をはじいてしまいます。ですから、ポン酢となじみやすいように身に少し切れ目を入れているんですよ。高知風に丸皿にのせ、上から薬味とポン酢をかけた状態で盛る時は、身をななめにそぎ切りして面を広くし、ポン酢となじみやすくしています」。日南の港に揚がるカツオはそれほど新鮮で脂がのっているのだ。
「日南の新鮮なカツオを知っていたら、よそでは食べられないですね。日南から車で1時間のお店でも私は食べませんよ（笑）」。

波光がきらめく4～5月、日向灘に上りカツオが現れるシーズンがやってくる。
「脂はのっているし身も弾力があって、刺身にしてもタタキにしても最高です。そしてこの時期に、『コップ』と呼ばれるカツオが絶品なのです。日帰り漁の最後に獲れたカツオをしめないでそのまま水揚げする。それをできるだけ早くさばいて食べるんです。その味は、言葉では言い表せないですね」。