もずくだけのシンプルなものの他、かき揚げのようにするためタマネギやニンジンなど千切りの野菜を合わせて使うこともある
基本的には塩だけというシンプルな味付けが多い。天つゆやソースなどが添えられることもある
材料に塩を加えて混ぜ、衣となる卵と小麦粉を入れてさらに混ぜる。全体に火が通りやすくなるため平たく形を整えて揚げていく
店名の『みつ子ばぁば』とは、店主・新城正巳さんのおしゅうとめさん。
「ばあさまは今も元気で『まちゃーぐわー(商店のこと)』を営んでいます。三枚肉を煮込んだり、ジーマーミー豆腐を作ったり、もやしのひげをきれいにして送ってくれたりしています。僕もばあさまも沖縄本島北部の今帰仁(なきじん)出身です。僕は今帰仁も含めて、『やんばる』の味を伝えたいと思っています」。
『やんばる』とは沖縄本島北部のことを呼ぶ言葉だ。『やんばる』の味とはどんな味なのだろうか?
「昔は沖縄全土で食べてられていた味が、現在は南部ではなくなってしまっているんです。でも『やんばる』には今も残っている。海辺に自生している『海ほうれんそう』といった珍しい食材なんかもあるんですよ。昔ながらの沖縄の料理。だから、うちの料理は、ご年配の方には懐かしがっていただける料理ですね」。
こちらの『もずくの天ぷら』は、他の材料は加えず、もずくだけに衣をつけて揚げるというとてもシンプルなもの。そして、そこには“やんばる”の恵みが欠かせない。
「味付けは塩だけなんです。名護市(なごし)にある屋我地島(やかじとう)で作られている『屋我地の塩』という塩です。昔ながらの塩田で海水から作られていて、色は褐色。ミネラルたっぷり、やわらかい味なんですよ。そして、衣に使う卵は大宜味村(おおぎみそん)の“やんばる鶏”の卵です。コクのある味ですね」。
名護市も大宜味村も沖縄北部の街だ。
厨房で作り方を見せていただいた。
●下準備
「もずくは、沖縄県内産もずくです。生を使う時もありますが、塩漬けにされたものを使う時は、軽く水洗いして塩抜きしておきます。次に卵を溶きますが、全体に空気が入るようにふんわりと泡立てます。後でもずくを入れた時、もずくの一本一本に卵がからむようにするためですね。塩を入れて混ぜ、もずくを入れて全体がからむようにざっくりと混ぜます。
それから、もずくの状態に合わせて小麦粉を適量入れて混ぜます。小麦粉がつなぎと、油を吸いすぎないためのコーティングの役目をしてくれます。だんだんと粘りが出きますが、いいもずくほど粘りが出ますね。『もずくの天ぷら』は、もずくがもっている粘りに衣をなじませて揚げるという感覚かな。ちなみに、衣をつけないで揚げると、ばさばさになります(笑)」。
●揚げ方
「厚くすると中まで火が通らないので、ひらべったい形にしてから油に入れていきます」。
「手で形を作って、そのまま手で入れないと形がくずれてしまうのでちょっと熱いですね(笑)」。
「バチバチと弾ける音がするのも、いいもずくの証拠です。中の水分が抜けてきて色が濃くなってきたら裏返します。揚げる温度は170〜175度、あまり火を通しすぎると水分がぬけて、ぱさぱさになってしまうので、火の入れ方は難しいところですね。衣をつけて揚げることで、余分な油がとれて、中はジューシーで外側はさっくりとなりますね」。
盛りつけて塩を添えればできあがりだ。
もずくそのものには味はないが、屋我地の塩の深みのある塩味と、サクッ&ポニョッとした食感に焼酎もすすむ。
「沖縄では海沿いのほとんどのところでもずくが採れていたし、今も採れていますから、もずくを食べることは多いと思います。天然ものは養殖ものに比べると少し細いようですね。『もずくの天ぷら』も海沿いの人は食べていたのではないでしょうか。天ぷら以外では、もずく酢はもちろん、ヒラヤーチー(チヂミに似た沖縄風お好み焼き)に入れたり和え物にしたりもしますね。沖縄以外の方は、もずく酢ですすって食べるイメージが強いからか、もずくの天ぷらもすすってたべると思っている人もいるみたいですね(笑)。水と油ははじくから、水っぽいもずくを天ぷらにするというイメージをしにくいのでしょうね(笑)」。
揚げる素材は沖縄産もずくのみ。生のもずくを使うこともあるが、塩漬けのもずくの場合は、軽く水で洗って塩抜きをする
味付けは、名護市の屋我地島で作られている『屋我地の塩』のみ。昔ながらの塩田で海水から作られ、色は褐色。ミネラルが豊富だ
ふんわりと泡立てたやんばる鶏の卵に塩、もずく、小麦後を入れて粘りが出るまで混ぜ、170〜175度の油で揚げる
「北部の人間はアイデンティティーが強いですよ(笑)」とは、今帰仁出身の店主・新城さん。かつては沖縄全土で食べられていたが、今では北部にしか残っていない素朴な味わいを楽しめる店だ。『もずくの天ぷら』の材料は、県内産もずく、屋我地の塩、小麦粉、やんばる鶏の卵とシンプル。衣のサクサク感と、もずくが持つプリプリとした食感を味わいたい。