半分に切り、中に入っている不要物を取り除く。塩揉みや水洗い、下ゆですることで,ぬめりや汚れを取り除く
『わけのしんのす』の味を生かすため、味噌煮の味付けはシンプル。使われる調味料は、味噌、ミリン、酒など
長く煮込むとやわらかくなってしまうので、コリコリとした食感を残すため適度に煮込むことがポイント
明治23年に初代である平野キヨさんが開いた鮮魚店『平野商店』は、その後、網元、海産物問屋へと発展していった。平野キヨさんが、夜明けとともに漁に出る漁師さんたちに、お茶と称してお酒をふるまっていたところ、いつしか『夜明茶屋』と呼ばれるようになったのだそうだ。
現在では、有明海で獲れる新鮮な魚介や、加工品の販売に加えて、併設された食事処で、その魚介を使った料理を味わうことができる。もちろん、『わけ』と呼ばれることも多い『わけのしんのす(イソギンチャク)』を使った料理もメニューにあがっている。お話ししてくださるのは、パワフルな店主・金子英典さんだ。
「みんなから『食べられる場所を作れ!』と言われて15年ほど前に食事処も作ったんです(笑)。『わけのしんのす』は、焼酎のつまみとしてもうまいし、ごはんのおかずにもなりますね。うちの宴会では、『わけのしんのす』は必ず出しますよ。ただ、『わけのしんのす』=“若い者の尻の穴”という名前の由来は、特に女性には、食べていただいた後に説明します(笑)。地元では『わけ』と呼ぶことが多いですね」。
『わけ』は、海水の入ったビニール袋に入れて売られている。
「これで正味1kgの『わけ』です。今日は1袋2,500円。潮がひいた時によく獲れます。干潟には泥みたいなところと砂地があって、『わけ』は砂地の上にいるんですが、潜って逃げるので、細いスコップみたいなもので掘るんです。潮があまりひかない時は獲れなくて、値段もあがりますね。昔はたくさん獲れて、食卓にもよく登場していたのですが、今は『わけ』を獲る漁師さんも減ってしまいました。有明海には『わけ』は2種類いまして、食べるのは『イシワケイソギンチャク』です。花が開いたような形をしている『ハナワケイソギンチャク』もいるんですが、これは食感があまりよくないんです」。
袋の中の『わけ』はマッシュルームのような形をしている。イソギンチャクと聞いてイメージする、触手が広がっている状態ではない。
「触手は、海中では広がっていますが、今は、きゅっとしまってしぼんだ状態になっていますね」。
『わけの味噌煮』作りを、下ごしらえから見せていただいた。
「穴から包丁を入れて、たて半分に切ります。『わけ』は、小さなアサリを殻ごと食べているので、その殻を、きれいに取り除いておきます。残っていると、食べた時に、じゃりっとしますからね。指で触りながらきれいにします。
切ったら塩揉みして、ぬめりを取り除きます。殺菌の意味もありますね。塩揉みすることで身が締まって、シャキッとなりますよ。
下ゆでし、軽く水洗いして、さらにぬめりや汚れを取って、きれいにしてから煮ていきます。煮る前の下ごしらえにポイントがあります。『わけ』を切って開いた内側には、ジゴ(柳川など筑後地方の方言で内臓のこと)がついていますが、これを取りすぎると美味しくないので、ほどよく残しておくことがポイントなんです」。
下ごしらえした『わけ』を煮込んでいく。
「鍋にお酒を入れて、『わけ』を入れ、柳川のやや甘めの合わせ味噌を溶き、砂糖を入れて煮込んでいきます。
柳川で昔から好まれている味わいです。煮込んでいくと、どんどん小さくなっていきます。
最後に水溶き片栗粉を入れて、とろみをつけて、唐辛子をふりかけたらできあがりです。
とろみをつけるのは、『わけ』は表面がツルツルなので、味噌がよくからむようにするためですね。長く炊いて、やわらかくすることもありますが、このあたりでは食感が少し残るくらいに炊くことが多いですね」。
コリコリとした食感にからまる味噌の味わいには、焼酎が欲しくなる。
「漁師さんたちの肴には欠かせないものですね。小さい頃は『なんでイソギンチャクやら食べんといかんのやろう』と思ってましたが、大人になって『旨い』と思うようになりました(笑)。味噌煮以外では、醤油煮とか唐揚げもあります。『わけ』からは、いい出汁が出るから、味噌汁も美味しいんですよ。柳川にゆかりのある、作家の檀一雄さんが一番好きだったのは味噌汁だったようですね。また、『わけ』は滋養強壮にも良いと聞いていますよ」。
金子さんは、有明海ならではの魚介を販売する他、それらの魚介を使った料理を作ったり、さらにお土産で持ち帰られる商品も作っている。人気商品であるタイラギの貝柱を使った『貝柱粕漬け』をはじめ、『わけの味噌煮』のレトルト商品もあるし、むつごろうの粉入りクッキー、平成25年には、むつごろう入りラーメンも開発されている。
「有明海は世界でも珍しい場所で、ここにしかいない生き物もたくさんいます。四季折々の旬もあります。エツ、ワラスボ、メカジャ…現在は漁獲高も減ってしまって、“豊穣の海”だと言い切れないかもしれないけど、それでも有明海は珍魚の宝庫だと思うんです。『わけ』も、大切な宝の一つです。うちは125年もの間、有明海にたずさわっています。ですから、有明海の魚介のことを発信する場所でありたいと思っています。魚屋ですから、いろんな方々に魚介を生で見てもらうこともできるし、横ではすぐに食べられますからね。次の世代を担う子どもたちにも、知ってもらいたいと思っているんですよ」。
『わけ』を半分に切って、中をきれいにした後、塩揉み、水洗いしてぬめりを取るが、内側の内臓をほどよく残しておくことがポイント
『味噌煮』の味付けに使うのは、酒、柳川で作られているやや甘めの合わせ味噌、砂糖。柳川で昔から好まれている味わいだ
『わけ』の食感が少し残るくらいに煮る。味噌がよくからむように、最後に水溶き片栗粉を入れて、とろみをつけてできあがり
有明海の魚介を扱う鮮魚店として明治23年に創業。現在は有明海の魚介を販売するだけではなく、タイラギの貝柱を使った『貝柱粕漬け』など加工品の販売、さらには、有明の魚介を使った料理を提供する飲食店も併設している。『わけ』は、味噌煮、唐揚げ、味噌汁などで食べられる。味噌煮のレトルト商品はお土産として持ち帰りも可能。
住所 | 柳川市稲荷町94-1 |
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電話 | 0944-73-5680 |
営業 | 11:30〜OS14:30/17:00〜OS21:30 |
定休日 | 火曜(祝日の場合は翌日) |
席 | 120席 |
カード | 不可 |
駐車場 | あり |
URL | http://www.mutugorou.co.jp/index.html |