ぶつ切りにして湯通ししたフグの身、ニンニクの葉、梅干しが基本的な具材。タケノコ、唐辛子などが使われることも多い
調味料の基本は酒、醤油、ミリン。砂糖を合わせることも多い。梅干しの酸味と塩味も味わいを決める要素だ
フグの身を酒で煮込んだ後、調味料を加え、その他の具材とともにほどよく煮付ける。最後に唐辛子がちらされることもある
島原港フェリーターミナルからすぐの場所にある『いけすろばた佐藤』。扉を開けて中に入ると正面の厨房から「いらっしゃいませ〜」の声。厨房に立つ店主・佐藤良介さんを中心に営む家庭的な店なのだ。「毎日、ワイワイ言い合いながらやってますね(笑)」という大将は島原で料理を作り続けて40年、8年前に今の場所でお店を始めたとのこと。
店内に入って左側にある生簀ではアジ、サバ、ヒラメ、コウカイ、クルマエビ、カワハギなど有明海で獲れた活きのいい魚介の姿を見ることができ、新鮮な魚介を中心に島原の旬の素材を使った料理が自慢だ。「島原は海も山も近くて食材が豊かですね」。
島原の名物料理として知られている『がねだき』も人気の一品。「今日使うのはコモンフグで、フグの種類を変えて1年中食べることができますが、秋から春にかけてが一番のシーズンではありますね」。
『がねだき』の材料はぶつ切りにしたフグの身、梅干し、ニンニク、ニンニクの葉、タケノコだ。「魚の煮付けを作る時、イワシなどの青魚に梅干しを使うことはありますが、それは臭い消しのためです。フグは白身魚なのに『がね炊き』には昔から梅干しを使っています。昔はふぐの血は毒だと言われていたんですが、毒消しのために梅干しを入れていたと聞いています。その後、実際には血には毒がないことがわかったのですが(笑)」。
皮をむいてぶつ切りにしたフグの身はアクをとるためにかるく湯通しする。
酒をたっぷり入れた鍋に入れアルミホイルで作ったおとし蓋をして煮込む。「泡がぶくぶくと出てカニがぶくぶくと泡を吹いているみたいですよね。“がね”とはカニのことで、料理する時にカニのようにぶくぶくと泡が出ることが『がねだき』の名前の由来のようです」。
濃口醤油、ミリンで味付けしさらに煮込む。
アルミホイルのおとし蓋がゆらゆらと上下する。微妙な火加減の調整でふきこぼれないようにすることで、均一に熱がとおっていく。時折味見しながらほどよく煮詰まったらできあがりだ。最後に唐辛子を加える。「唐辛子も、元々は毒消しみたいなものだったかもしれません」。
香りだけでもつまみになりそうな皿が運ばれる。しっかりと炊いているのにフグの身はかたくなっているわけではなくプリプリ。ほどよい甘辛さは焼酎のつまみにぴったりだ。「ごはんにも合いそうですね?」と尋ねてみたが、「いやぁ、『がねだき』は最高の焼酎のつまみでしょう。私はごはんと食べたことはないですね(笑)」。
『がねだき』と合わせて、『がんばの湯引き』も作っていただいた。“がんば”とは島原でフグを表す言葉。フグの身を湯引きして、薬味のニンニクなどと一緒にぽん酢で食べる。「島原ではフグはてっさ(刺身)よりも湯引きのほうがよく食べられているんです。『がねだき』と『がんばの湯引き』は島原を代表する味ですね。私が子どもの頃は島原ではフグはたくさん獲れていましたしよく食べられていたのですが、今は獲れる量が減って少し高級品になってしまいました。残念ながらまかないで食べるようなこともないですね(笑)」。
1階奥の円卓が置かれた和レトロな空間は大人の雰囲気でもあるが、子どもさんも一緒の家族連れの利用も多いとのこと。それは、お店があたたかな雰囲気で包まれているからなのだろう。「島原の人はおだやかな人が多いと思います(笑)」。それは、『いけすろばた佐藤』を訪ねれば体感できるはずだ。
フグの身、梅干し、ニンニク、ニンニクの葉、タケノコ。フグの身はアクをとるためにかるく湯通ししておく
使う調味料は酒、濃口醤油、ミリン。梅干しの味も『がねだき』の味わいの大切な要素となる
酒を入れた鍋にフグの身を入れ、おとし蓋をして煮込む。調味料を加え、その他の具材を入れて煮込む。最後に唐辛子をちらす
島原港フェリーターミナルからすぐの場所にある家庭的な雰囲気の居酒屋。生簀に泳ぐ新鮮な魚を使った刺身をはじめ、新鮮な魚介をいつでも楽しめる。『がねだき』は、醤油の味わいの中にほのかな酸味とほどよい甘辛さが広がり、フグの身はプリプリ。お店の雰囲気と同じようにほっとできる一品だ。