一口で言えば豚足だが、足先、かかとの部分など、部位によっても味わいの違いがある。また、豚の銘柄によっても味わいは異なる
汚れやアクを取り、上品な味わいにするために、下ゆでは必須。下ゆでした後、さらに水洗いをしてきれいにする
煮汁は、昆布出汁、塩、醤油などで作られるシンプルなものが多い。コトコトとじっくり煮込むことでやわらかくなる
年中温暖な気候の沖縄だが、この沖縄でも、実はおでんがよく食べられている。太平洋戦争以降に広まったと言われており、居酒屋で置いている店も多く、おでんの専門店もある。大根、玉子、コンニャクといった定番の具材も入っているが、チンゲン菜やレタスなどの青菜類や、ウインナーが入っているのが沖縄の特徴。そして、“沖縄おでん”に欠かせないのが『テビチ』だ。
沖縄一の繁華街・国際通りからほど近い場所『桜坂・社交街』にあるおでんの店、『悦ちゃん』を訪ねた。
緑色の看板と赤い提灯は灯っているのだが、扉には鍵がかけられているので、トントンとノックして顔を見せなければならない。扉を開けてくれたのは店主の悦ちゃんだ。
「決して、初めての方をお断りしているわけではありません。私一人でやっているので、飲み過ぎの酔客はお断りしています。他のお客さんにも迷惑だしね」。
お店は1970年代の中頃に開店、お母様がはじめられた店を継いだ、今の悦ちゃんは2代目。現役のジュークボックスや、昔ながらのダイヤル式ピンク電話などもあり、ノスタルジックな雰囲気が漂う店だ。
カウンターの内側からは、鍋で温められているおでんのいい香りが漂ってくる。
「いつも12〜13種類は用意しているんですよ。その中でも『テビチ(豚足)』は一番人気ですね」。
『テビチ』は営業時間のずっと前である昼間から作られている。
「『テビチ』は毎日作っていますよ。まず生の『テビチ』の皮をむいてきれいにするんです。形は全部違うし、一つずつナイフで丁寧にむくんですよ。なかなか手間がかかります。それを下ゆでして、丁寧にアクを取り除きます。ここをきちんとしないと、味が悪くなりますね。あとはおでんのツユで4〜5時間かけてコトコト煮込むだけ。やわらかくなるまでじっくり煮込みます。手の込んだ味付けをしているわけではないんですよ」。
このツユは、『テビチ』はもちろん、『悦ちゃん』のおでんの味すべてを作る大切なものだ。
「ツユは、昆布とかつおの出汁に、ソーキ(豚のあばら骨)でとった出汁を加えたものがベースです。味付けは塩だけです。この出汁を毎日作って、注ぎ足してきたんです。いろんな素材の味と出汁を注ぎ足し続けてきたツユの味が、うちのおでんの味。母からの歴史があってこそのものですね。『テビチ』は沖縄のおでんには欠かせないものです。うちも『テビチ』がメインだと思いますし、来てくださった方も、『テビチ』は必ず食べられますね」。
カウンターの中にある大きな鍋が、出汁をとるための鍋だ。
『テビチ』を味わう。プルプルトロトロの『テビチ』には、出汁の旨味がしっかりと染み込んでいる。見た目よりも、あっさりした味わいで食べやすいが、その中にも味の深みがある。
「みなさん、『テビチ』をちびちびと食べながら、お酒を楽しんでいらっしゃいますよ。『テビチ』はコラーゲンたっぷりでヘルシーだし、つまみとしても、とってもいい料理ですね。女性は肌もツヤツヤになるしね」。
長年育てられてきたコクのあるツユを使った野菜類のおでんも美味しい。ソーキと『テビチ』の旨味も染み込んでいるのだ。
取材開始からしばらくすると、店内は満席に。一人で切り盛りしている悦ちゃんも忙しくなる。出ていくお客さんと、新しく入ってくるお客さんが、皿を一緒に片付ける姿もあった。そして、悦ちゃんのやわらかな言葉。
「ごめんなさいね〜」。
そんな中、撮影後少し時間が経ってしまったおでんを
「温め直しましょうね〜」。
女性一人で訪れる人も多いのは、おでんの温かさと、悦ちゃんのそんな温かさからなのだろう。
生の状態のテビチの皮をきれいにむいておく。形が全部違うので、一つずつナイフで丁寧にむくとのこと
生のテビチを下ゆでし、丁寧にアクを取り除く。この作業をきちんとしておかないと、できあがりの味が悪くなるとのこと
おでんのツユで4〜5時間かけてコトコト煮込む。ツユは昆布とかつおの出汁に、ソーキでとった出汁を加えたものがベース
緑色の看板と赤い提灯が目印のおでん屋さん。お店を一人で切り盛りしている“悦ちゃん”は2代目。昆布出汁とソーキの出汁がベースのおでんツユは、開店以来注ぎ足されているものだ。このツユでじっくりと煮込まれた『テビチ』が一番人気。定番の玉子や大根に加えて、沖縄ならではの青菜類や、ウインナーのおでんなども楽しめる。