九州の味とともに 春

この料理の"味のキーワード"

高菜漬け

毎年2月から3月にかけて仕込む自家製。高菜と塩だけで作り1年3カ月ほど漬け込むことで、独特の匂いはしない

具材

開発に5年をかけて決定したという具材は、山芋、ネギ、納豆。納豆にはカツオブシを炒ったものを合わせるなど一手間をかけている

巻き方

押さえつけるようにしっかりと巻かなければならないが、空気をふくませるようにしながらしっかりやさしく巻くのがコツ

語り 彌助すし 三隅勝祥の「たか菜巻」

三隅勝祥さん

入口の上にある看板には、『彌助やすけ名物 たか菜巻』の大きな文字。今では広く知られるようになった『たか菜巻』の元祖は、ここ『彌助やすけすし』なのだ。
店主・三隅勝祥みすみかつよしさんにお話をうかがった。「店は親父が昭和29年に始めました。まだ冷蔵庫も普及していない時代ですし、大変な苦労があったようです。そして『たか菜巻』はうちの親父と兄貴がつくりあげたものなんです。久留米の寿司屋で刻みたか菜を具にした手巻きずしを食べた時にヒントを得て、海苔の代わりに高菜漬けで巻く寿司を思い立ったのです。高菜漬けで巻くことは決めたものの、中に何を入れて巻くのか試行錯誤して5年くらいかかりました。ドンコ(シイタケ)とか梅肉とかいろいろやったようですね。考えた末に、高菜漬けには塩気があるので、中の具材は淡白な味わいのものが合うということと、傷みにくいものにしようということで、最終的に山芋、納豆、ネギを巻くことに決めたのです。メニューとしては昭和40年頃から始めました。テレビで紹介されることもあったりして、人気メニューになっていきました。その後、他店でも提供するようになり、日田の名物になったのです」。
現在、本庄町店では三隅さんと三代目となる長男・靖祥さんがカウンターに並んで腕をふるっている。

“元祖”としての美味しさの秘密を教えていただいた。
まず案内していただいたのは店の裏側。置かれている樽に入っているのは自家製無添加の高菜漬けだ。
「毎年、2月から3月にかけての時期、年に1回まとめて漬けるんです。1500〜2000把くらいですね。1把でも両手でかかえるくらいの大きさがありますよ(笑)。日田の高菜は美味しいのですが小ぶりなので、『たか菜巻』には向かないですね。それから根元の茎の部分がごわっとしている(厚い)と、漬け物としてはいいのですが、塩抜きする時に塩が抜けにくく塩辛くなるので使いづらいんです。そんな理由から私たちは福岡の瀬高産の高菜を使っています。材料は高菜と塩だけ。塩の加減とおもしの乗せ方などがうまくいかなくて、昔は10樽漬けたら2樽は失敗していましたが、今は大丈夫です。1年3カ月ほど漬けると独特の匂いもしなくなりますよ」。
三隅さんが樽の中から取り出した高菜漬けに顔を近づけても、高菜漬けと聞いて想像する独特の匂いはしなかった。

自家製の高菜漬け

店内に戻り、高菜漬けを洗って塩抜きして通常の巻き寿司用の海苔の大きさにカットする。
「高菜漬けを広げると大きさがそれぞれ違うので、海苔と同じくらいの大きさに切るのです。根元の茎の特に太い部分は『たか菜巻』には使えないので、切り落とします。ある程度の量ができたらまとめて、『たか菜巻』を食べてくださったお客さんに、差し上げることもありますよ(笑)」。運がよければもらえるうれしいおみやげだ。

高菜漬けを巻き寿司に使う海苔の大きさにカットして巻きすに広げる

高菜漬けの上にすし飯を広げ、山芋、納豆、ネギをのせる。納豆はひきわり納豆のように見えるが、実は一手間を加えている 「納豆は包丁でたたいて細かくしています。そうすると混ぜなくても粘りが出るんですよ。さらに、納豆にはかつお節を炒ったものや秘密のもの(笑)を加えて軽く味付けしています」。

すし飯を広げ、具材をのせる

海苔の代わりに高菜漬けで巻く『たか菜巻』。巻くのが一番難しい部分とのこと。

巻き寿司と同じように巻く

「海苔だと巻いて時間が経つと締まっていくのですが、高菜漬けは水分が多いのでうまく巻けないし、締まらないのです。だから、巻き寿司と違って押さえつけるようにしっかりと巻かないといけません。ただ、押さえ過ぎると、『こんなの巻き物じゃない』という寿司職人がいるので(笑)、空気をふくませるようにしながらしっかりやさしくほどよくですね。納豆が飛び出ないようにもしないといけないし、なかなか難しいんですよ」。

通常の巻き寿司よりもしっかりと巻き、両端を整える

両端を高菜でふさぎ、切り分けてできあがり。

1本を8等分してできあがり

高菜漬けの歯応えと塩味、山芋の歯応え、納豆とネギの風味などが重なり合い、そのまま食べても美味だ。
「『たか菜巻』はそのままでもいいですが、醤油を少しつけても美味しいですよ。寿司と同じように、ネタとしゃりと醤油の一体感を楽しんでいただけるといいですね。とは言うものの、好きなように美味しく食べてくださればいいんです(笑)」。
『たか菜巻』は食べたいが納豆が苦手だという方のために、納豆が入っていない『梅たか菜巻』、『しいたけ入りたか菜巻』『トマト入りたか菜巻』など、アレンジされたものもある。また、『たか菜巻』以外にも、『運気上々巻』や『幸せの黄金巻』など巻き物メニューが豊富。お願いすれば断面に花や文字、アニメキャラクターなどが現れる巻き寿司を巻いていただくこともできる。三代目・靖祥さんは"飾り巻き寿司インストラクター"なのだ。

『たか菜巻』とともに日田ならではの寿司を食べられるのが『ひたん寿し』。『たか菜巻』2貫に加えて、日田産の新鮮な野菜や果物を使った野菜寿司10貫などが食べられるお得なセットだ。
「あぶり鮎、ドライ梨、パプリカ、トマト、シイタケ、イチジク、チンゲン菜、イチゴ(イチジクの時もある)、干しタケノコ、白菜巻き、ヤマメのイクラとカブの軍艦など、いろいろ食べられますよ。でも、メインは『たか菜巻』です(笑)」。

取材中も笑顔の絶えない三隅さん。寿司屋というと高級で格式高く、近寄りがたい印象を感じてしまいがちだが、飾らない雰囲気も《彌助すし》の魅力だ。
「寿司屋では、初めにちょっとつまんで一杯とか言う人もいますが、そんなの気にしなくていいです。お寿司を食べながら飲んでいただいていいし、そのほうが経済的です(笑)。好きなように、いっぱい飲んで食べていただけるといいですね。私たちのキャラクターでかっこつけてもしかたないですしね(笑)」。
三隅さんの楽しい会話とともに、美しい仕事ぶりを間近で見られるカウンター席が、《彌助すし》の特等席だ。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

高菜漬け

毎年2月から3月にかけて仕込む自家製。高菜と塩だけで漬ける。1年3カ月ほど漬け込むと、独特の匂いはしない

具材

開発に5年をかけて決定したという具材は、山芋、ネギ、納豆。納豆にはカツオブシを炒ったものを合わせるなど一手間かけている

巻き方

押さえつけるようにしっかりと巻かなければならないが、空気をふくませるようにしながらしっかりやさしく巻くのがコツ

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彌助すし(やすけすし) 本庄町店 『たか菜巻』元祖の気さくな寿司店

昭和29年創業。昭和40年頃に『たか菜巻』を作り上げた店として広く知られている寿司店だ。無添加の自家製高菜漬けを使うなど、元祖の味を守り続けている。地元の野菜や果物を使った華やかで独創的な『ひたん寿し』、ユニークな飾り巻き寿司も人気。カウンターに立つ二代目・三隅勝祥さんと三代目・靖祥さんはいつも飾らずあたたかで、肩肘はらずに利用できる。

『元祖たか菜巻』1本870円。一人でも食べやすい4貫は450円。持ち帰りもできる
『元祖たか菜巻』2貫、野菜寿司10貫、吸物、デザートが付く『ひたん寿し』1500円。持ち帰りもできる
会話が弾むカウンターが特等席。テーブル席、座敷、大広間もある
お店は日田市街地の中心部で国道212号線沿い。三隈川近くに『彌助すし本店』(日田市隈1-3-21)もある

彌助すし 本庄町店

住所 日田市本庄町3-9
電話 0973-22-2216
営業 10:00~22:00
休み 不定
100席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www.b-net.kcv.jp/~yasuke/index.html
facebook https://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=1938977759464292&id=368225289872888
※記載した内容は2018年3月23日現在のものです。
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