『茶台寿司』本来のシャリは甘めで濃いめの味付けだが、現在は、寿司ネタの味を生かすため、さっぱりした薄味のものも多い
シイタケ、タケノコ、大葉など野菜が中心。魚介は、地元でよく獲れる『ゼンゴアジ』を酢で締めたものがよく使われる
握ったシャリの上下をネタで挟む。シャリとネタが離れないように、ミツバで結ぶことも。皿にモザイク模様のように並べるお店も多い
店主・大堀アイ子さんは臼杵のご出身。大分市内で20年以上に渡り『四季彩 点心庵』を営まれていた。
「『点心』とは、お茶会の時に食べる、ちょっとした食事のことを言います。季節の素材を使った御膳の後には、抹茶をお出ししています」。
2012年、大堀さんは地元の臼杵に戻り、臼杵市内の一軒家に店を構えられた。臼杵に帰ってきたということもあり、『茶台寿司』を作ることを思い立ったとのこと。
「私の父は臼杵出身だったのですが、母は臼杵ではなかったので、『茶台寿司』は食べたことがありませんでした。そこで、臼杵の方々に『茶台寿司』のことを尋ねたり、調べたりしてみました。臼杵に古くから続く郷土料理ですし、臼杵にいるのに、作らないのはもったいないですものね」。
『茶台寿司』を作っていただきながらお話を伺った。これまでも握り寿司は作られていた大堀さん。シャリの作り方はオリジナルだ。
「庄内のお米を使っていまして、少しもち米も加えています。塩を少し加えて、昆布も一緒に炊いていますね。
炊けたら、酢に、昆布と塩を入れて、沸騰させないように温めたものを加え、うちわで扇ぎながら混ぜます。普通のボールでは余分な水分を吸ってくれないから、やはり木桶がいいですね。シャリを扇ぐのは、水分を程よく飛ばすためと、照りを出すためです。
そして、ここに大分特産のカボスの皮をすりおろし、さらに絞り汁も加えてよく混ぜます。香りがいいでしょう? 黄色の夏カボス、緑色の冬カボス、どちらもいい香りですね」。
厨房全体にカボスの爽やかな香りが広がった。
シャリが冷めたら、軽く握ってからシャリの上下をネタで挟む。
寿司ネタは奈良漬け、絹さや、竹の子、ニンジン、シイタケ、エビ、アナゴ、玉子焼き、大葉、アジ。一つひとつに手間が加えられている。
「奈良漬けは、臼杵のお酒の酒粕を混ぜた自家製。絹さやは一番出汁で軽く煮たもの。ニンジン、シイタケ、アナゴなど別々に煮て、味付けしています。ベースの出汁は、昆布、カツオと、コクを出すためのイリコ。けっこう手間がかかっていますね(笑)。アジは切り身にして、酢で締めたものですが、臼杵では小さなアジを開いて、丸ごと使うことが多いようです。
上下のネタが離れないように、ミツバで結んでおきます」。
できあがった『茶台寿司』は、カボスの香りの中で、シャリとネタの味わいが広がる。どの組み合わせも美味しい。
「『茶台寿司』は、シャリの上下に具があるというのがおもしろいですよね。いろんな組み合わせができるので、作るのも楽しいです。子どもといっしょに作ると楽しいかもしれません。ダブル玉子焼きなどもあるかな(笑)。使っている具材は、ちらし寿司みたいですが、にぎり寿司の形にしているから豪華に見えますね。季節の野菜や旬の魚など、手軽に揃う材料で作られていますが、彩りもあって華やかです。臼杵の人たちは昔から倹約家だから、こんな料理が生まれたのかもしれません。旬のものを食べると身体にも良いですしね。郷土料理を知っていると、人が集まる時にふるまえますし、どこか違う街で暮らすことになった時、まわりの方々に作ってあげると喜ばれます。臼杵の伝統という意味でも、続けていかないといけない料理ですね」。
もち米を少し加え、昆布と一緒に炊いたものに、寿司酢を加え、さらにカボスのおろした皮と、絞り汁を合わせる。爽やかな香りを持つ
季節の素材を中心に、別々に下ごしらえする。定番のアジは酢で締めたり、野菜は別々に煮付けたりと、一つひとつに違う味付けをする
軽く握ったシャリの上下をネタで挟む。シャリと、くっつきにくいネタもあるので、離れないようにミツバで結ぶ
旬の素材を使った、身体にやさしい料理が食べられる和食店。民家を改装した空間でゆっくりとした時間を過ごせる。『茶台寿司』のシャリは、すりおろしたカボスの皮と、絞り汁が加えられ、爽やかな香り。その上下を別々に味付けしたネタで挟む。『四季御膳』(昼1,200円・夜2,000円)、『懐石料理』3,000円〜には、食後に手作りの和菓子と抹茶もふるまわれる。