戦中・戦後の食糧難の時代に生まれた
魚のすり身を使ったのびない麺
宮崎県南部の日南海岸には天然の良港が点在する。『魚うどん』は日本有数のカツオやマグロの水揚高を誇り、漁業の街として知られる日南市の郷土料理。米や小麦粉など主食が不足していた戦中・戦後の食糧難の時代、豊富に獲れる魚を使って生まれた料理だ。豊かな時代になり途絶えたが、昭和50年代に日南市漁協女性部が復活させた。
元々は魚のすり身だけで作られていたようだが、現在使われている主な材料は魚のすり身、卵、塩など。少量の片栗粉や小麦粉が入る場合もある。練り合わせたものを小さな穴のあいた『うどん突き』と呼ばれる器具に入れて押し出し、麺状にして湯で煮る。徐々に麺から出汁が出るので、その湯に醤油などを少し加えるだけでも味わい深いツユとなる。麺そのものにも豊かな魚の旨味があり、使う魚の種類によっても味わいは変わる。日南市漁協女性部が作る『魚うどん』をはじめ、トビウオが使われることが多いようだ。喉越しがよくやわらかな麺は煮込んでものびることがないのも特徴で、鍋料理などに入れても美味しい。
魚のすり身が主な材料のため、低カロリー・高タンパクでDHAが豊富な『魚うどん』。先人たちが苦しい時代を“生きる”ために知恵を絞って生まれた料理だが、現在は素朴な美味しさとともに、ヘルシーな料理としても注目されている。
『魚うどん』の材料として使われることが多いトビウオや日南市油津港について、日南市漁業協同組合・相星広(あいぼしひろし)さんにうかがった
●トビウオの種類
「日本の近海には約30種類のトビウオが棲息していますが、日向灘でよく獲れるのは『コトビ』と『ハマトビ』と呼ばれるものです。コトビは1匹300g程度、ハマトビはトビウオの中でも最大級で大きな物は50cmで1kgにもなりますね。ちなみにハマトビは八丈島あたりでも獲れ、有名な『クサヤ』の原料となっていますね」。
●トビウオ漁について
「トビウオは延縄(はえなわ)漁法(中心となる幹縄に釣針をつけた枝縄を等間隔に付けて水中に沈め、掛かった魚を獲る)で、丁寧に一匹ずつ獲っています。このあたりでは『トビナワ』と呼んでいますね。ハマトビの漁期は11〜4月で12月がピーク、コトビの漁期は9〜12月で、10・11月がピークとなります。鵜戸沖から都井岬あたりまでの範囲で獲れますね。昔は『トビナワ』をする船が何十隻もありましたが、『トビナワ』は手間がかかりますし、漁師の高齢化もすすみ、『トビナワ』をする漁師も少なくなってきました。あわせてトビウオの水揚高も少なくなってきましたね。トビウオがたくさん揚がっていた頃は、このあたりでは運動会の時に『トビウオの塩蒸し』を食べるのが定番だったんですよ」。
●『魚うどん』の位置づけ
「『魚うどん』は一時期途絶えていましたが、昭和50年代に日南市漁協女性部が復活させ、昭和60年頃からよく知られるようになってきました。漁協としては、地域との交流、魚食、食育、油津の歴史を学べるということ、また、雇用促進、漁業収入の向上、他の地域との交流などにもつながるものとして『魚うどん』普及に取り組んでいます。初めは祭りなどで提供していましたが、平成19年に商品化して全国にお届けできるようになりました。現在は、ゆずの皮を練り込んだ新しい『魚うどん』の開発なども考えています」。
●油津港について
「かつては『マグロと言えば油津、油津と言えばマグロ』と言われていたほどで、昭和初期はクロマグロに関して東洋一の漁港だったんですよ。当時ほどではありませんが、今も油津港にあがる魚はほぼマグロですね」。
●港あぶらつ朝市について
「毎月第4日曜日に朝市を開催しています。マグロ、カツオなどの魚介類や海産物など日南の新鮮な特産品を格安で販売しています。女性部が作る『魚うどん』もありますので、ぜひおいでください」
住所/日南市石河588-129
電話/0987-23-2111
日時/毎月第4日曜7:00〜9:00
住所/日南市漁業協同組合
荷さばき所
(日南市石河588-129)
問合せ/実行委員会事務局
0987-31-1135
主な材料は魚のすり身、卵、塩。少量の小麦粉や片栗粉が入る場合もある。使う魚の種類によって味わいが変わる
魚のすり身を使った麺をゆでると出汁が出るので、そこに醤油などを少量入れるだけで深い旨味を持つツユができあがる
麺をお湯でゆで、そこに醤油などを加えて味を整え、カマボコやネギなどをのせればできあがり。シンプルな料理だ
3本の中から飲みたい一本をお選びください。
3種類の飲み方からおすすめを一つお選びください。