子どもから大人にまで親しまれる
つまみに欠かせない塩ゆでで食べる貝
『とびんにゃ』の正式名称は『マガキガイ』。太平洋の熱帯・亜熱帯地区に生息する、長さ5cmほどの褐色の巻貝だ。奄美大島の方言で『にゃ』は“貝”のこと。『とびんにゃ』は“飛ぶ貝”を意味する。海中で、三日月型のフタ(奄美ではツメと呼ばれている)で海底を蹴るようにして移動する様子が、飛んでいるように見えることからその名がついた。奄美大島南部では『ティラダ』と呼ばれ、奄美群島の中でも地域ごとに呼び名が微妙に異なる。冬の終わりから春の初めが、一番大きくなる旬の季節だ。
昔からの食べ方は塩ゆでで、砂をはかせた『とびんにゃ』を海水でゆでるという食べ方。海水でゆでるとツメが外に飛び出し、殻から身を取り出しやすくなる。普通の水でゆでるとツメが殻の奥にひっこんでしまい食べにくくなってしまうのだそうだ。先端にワタがついた身を食べると、弾力があり歯応えのある食感と甘みをも感じる深い旨味を楽しめる。焼酎のつまみに最高の味わいだ。塩ゆで以外では、味噌汁に入れたり、取り出した身を味噌漬けにして食べることもある。
奄美大島では販売されているが、潮干狩りのような感覚で自ら獲った『とびんにゃ』が食卓に並ぶ家も多いようだ。子どもから大人まで奄美に暮らす方には欠かせない貝だ。
名瀬漁業協同組合の総務部長・且博文(かつひろふみ)さんに『とびんにゃ』についてお話をうかがった。
●名称・生態
『とびんにゃ』の正式名称は『マガキガイ』です。奄美の方言で『にゃ』は“貝”のことです。海中でツメ(正式名称はフタ)を弾いて飛ぶように移動する姿から“飛ぶ貝”という意味の『とびんにゃ』と呼ばれているのです。普通、貝は這うようにじわじわと動きますから、『とびんにゃ』は珍しい動きをする貝なんですよ。ツメを使って砂の中に上手に潜っていきますね。『とびんにゃ』は1年間で成体となり5cmくらいになりますが、幼体のことはよくわかっていないようです。ちなみに、セリ名は『テラジャ』といいます。
●漁について
ドジョウすくいに使うザルみたいな道具とか、柄が長いアク取りのような道具とかを使って砂ごとすくい、砂をふるいにかけて『とびんにゃ』を獲ることが多いようです。漁師さんそれぞれに道具があるようで、秘密にしている方もいますね(笑)。一つ見つけると周辺に群がっているので、すぐに大漁になりますね。冬の終わりから春にかけて漁が盛んになる時期です。浅いところにいる『とびんにゃ』は一般の方も獲っています。
●砂抜き
『とびんにゃ』とアオサの時期が同じで殻の外にはアオサがついていることが多いですね。昔は足で踏んで、貝殻についているアオサや泥を落としていました。今はミキサーで20分くらいかけて洗ったりもしていますよ。洗った後は3日ほど砂を吐かせないといけません。きちんと砂を抜かないと舌ざわりが悪いです。獲ってきてすぐは食べられたものではないです。大粒の砂というより、研磨剤が入っている歯磨き粉のようなザラザラとした感じに近いですね(笑)。アサリのように水管から砂を吐くのではなく、よだれみたいなぬめりのある液体と一緒に出てきます。漁師さんは獲った『とびんにゃ』を網に入れて船から海の中に吊り下げて砂抜きをしています。
●食べ方
昔から海水でゆでて食べていますね。水でゆでるとツメがひっこんでしまって身がとりだしにくくなるのです。食卓の主役というイメージではないですが、奄美の方はみんな好きです。歯応えがあるのが好きな人は特に好物になっています。子どももよく食べていて、延々と食べ続ける『とびんにゃ』好きの子どももいますよ。1個でも傷んだ『とびんにゃ』が混ざっていると、ゆでると変な匂いがしてきます。そうなるとすべて捨ててしまわないといけなくなりますね。中学卒業時とかのお祝い時期に『とびんにゃ』とアオサのすまし汁を食べることが多いですよ。入学祝いの時は『とびんにゃ』ではなくて、エビの季節になりますね。
■名瀬漁業協同組合
住所/奄美市名瀬港町11-7
電話/0997-52-5321
http://nzgk1011.amamin.jp/
生きた『とびんにゃ』や砂抜き済みの『とびんにゃ』を購入することもできるが、店主自ら獲り、時間をかけて砂抜きする店も多い
塩ゆでが基本だが、海水でゆでることが多い。ゆですぎると身がかたくなるため、ゆで加減が重要だ
奄美大島では味噌汁に入れたり、味噌漬けにすることも多い。工夫を凝らした料理を提供している店もある
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