九州の味とともに 春

長崎 大村寿司

華やかな色味とやさしい甘味
戦勝の祝いから生まれた押し寿司

戦国時代の文明六年(1474年)、大村藩主・大村純伊(すみこれ)は戦いに破れ大村を逃れる。しかし、7年後に戦の末、大村を奪回する。その際、喜んだ領民たちは戦勝を祝い、将兵たちをもてなすために、もろぶた(木製の浅い箱・当時はどの家庭にもあった)を使い、押し寿司を作った。これが大村に伝わる『大村寿司』の謂れだ。

もろぶたの底にシャリを広げ、煮付けたゴボウなどの野菜を散らし、再びシャリを広げサンドイッチ状にする。その上に煮付けたシイタケやカンピョウ、彩りも鮮やかなハンペン(長崎ではカマボコを指す)や錦糸卵などをのせ、ふたをして押さえる。これがよく知られる現在の『大村寿司』の形だ。将兵たちが、脇差しで四角に切って食べたという言い伝えもあり、今も5cm角くらいに切ったものを食べる。江戸時代に砂糖文化が花開いた長崎だけに、シャリも、煮付けた野菜も、甘めの味わい。かつては具材として季節の野菜や魚が使われていたこともあった。

専門店の他、寿司屋や定食屋でもメニューにあり、スーパーでも売られているほど親しまれている『大村寿司』。地域や作り手によって、少しずつ具材や味わいは異なる。大村では、人々が集まる祝いの席には今も欠かせない大切な郷土料理だ。

大村寿司

■大村寿司の原型と現在について

普段は観光ボランティアガイドとして、観光客に大村のお話をされている『大村歴史観光案内人の会』会長・福田正三郎さん。『大村寿司』についてのお話をうかがった。

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1)もろぶたと具材
「昔はどこの家にも、もろぶたはありました。味噌や醤油を作る時に麹菌を発酵させるためで、一家に5〜6枚はあったはずです。当時のもろぶたは、やわらかい杉の木を使っていました。やわらかいため表面に凸凹があって、そこに麹菌がつきやすいからです。麹菌が付いているもろぶたに、ごはんを入れておくと、発酵して甘くなるわけですね。もろぶたを使って作る寿司は当時からあったと思います。そして、大村純伊(すみこれ)が旧領を取り戻した時、この寿司を作って祝ったわけです。祝いの時には酒を飲みますが、器もあまりないから、ごはんの上に酒の肴をのせたのだと思います。それで『大村寿司』は具が多いんですね。種類というよりも量が多い。具を食べながら酒を飲んで、最後にごはんを食べたのでしょう。カンピョウ、シイタケ、カマボコ、錦糸卵などを使っていますし、昔は季節のものとして、タケノコ、フキ、セリ、ユズや大豆の葉を使うところもありましたね。また、魚を使ったりもしていました。昔は、寿司は生魚を保存するための料理でもあったわけですから」。

2)『大村寿司』の形
「現在、シャリとシャリの間に具をはさむ“サンドイッチ型”という表現がよく使われますが、初めは、そんな形ではなかったと思います。また、武士の命である刀で寿司を切ることもなかったし、もろぶたから直接食べることも無かったのではないかと思います。もろぶたで作った寿司を、領民たちが切って、寿司鉢にのせて提供したと思うのですが、もろぶたは大きいですから、寿司鉢に、切った寿司が一段ではおさまらなかった。だから2段、3段と重ねていった。この形が変化して、現在の形になったのでしょうね。サンドイッチ型と言われるようになったのは、昭和55年頃からのようですよ。

3)甘味
「先ほどお話しましたように、初めは、麹菌が発酵した甘味だったと思います。1571年に長崎港が開港して、砂糖が入ってくるようになり、長崎、大村は砂糖をふんだんに使える環境となりました。やがて、発酵させる代わりに砂糖を使うようにもなり、味わいは甘くなっていったようですね」。

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「大村寿司」、三様。

三人の料理人が語る、それぞれのこだわりとは

この料理の"味のキーワード"
シャリ

固めに炊いたごはんに砂糖、酢などを加えて味付けする。砂糖の量は一般的な寿司のシャリよりも多く、味わいは甘めだ

具材

煮付けたゴボウ・シイタケ・カンピョウ・ハンペン(カマボコ)・錦糸卵が、現在作られている『大村寿司』の基本的な具材

作り方

もろぶたの中でシャリ、具材、シャリ、具材と重ねていき、ふたをして押さえる。食べる前に5cm角くらいに切り分ける

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