『久留米焼きとり』を代表する一串で、主に豚の腸のこと。下ごしらえされた後、表面はパリッ、中はジューシーになるよう塩焼きにする
『久留米焼きとり』は主に各店が吟味した塩で塩焼きされることが多い。タレ焼きのタレは醤油ベースで継ぎ足しながら使っている
ほとんどの店で、おかわり自由のキャベツがサービスで提供される。醤油と酢を合わせさっぱりした味わいのタレがかけられる
17:30の開店と同時に次々に訪れるお客さん。カウンター席内側の焼き台はすぐに串でいっぱいになる。炭の熱さと煙の中で焼きとり一本一本に気を配るのは店主・原田憲一郎さんだ。『串焼 ほたる川』は1998年創業。店名は店が建つ地名の“螢川”に由来している。串焼メニューは鶏、豚、牛、野菜など50種類以上。多彩な『久留米焼きとり』の歴史や特徴とは何なのだろうか?
「久留米の焼きとり文化は、昭和30年代くらいから始まっています。当時は屋台中心でした。ゴム関係の大きな工場などもあって仕事帰りの人が屋台で焼きとりを食べたりしていたんです。お手頃なホルモンなどがよく食べられていたようですね。昔から大学病院などもあり医学生や医療関係者も多かったようですね。『久留米やきとり』の特徴としては種類が多いということです。それには地の利があったからだと思うんですよ。物流の拠点でもありましたから畜産物、農産物が豊かで鶏肉だけではなく、いろんなものを串に刺して焼いていますね(笑)。それから、ダルム 、センポコ、ヘルツなど独特の呼び名のネタがあるのも特徴です。『久留米焼きとり』を代表するダルムは豚の直腸のことです。ダルムとはドイツ語で腸のこと。医学生が食べ、『これはダルムだ』と呼び始めたのが始まりだといわれていますね。ダルムと呼ぶほうが美味しそうですよね(笑)。ヘルツもドイツ語で、一般的にはハツと呼ばれている心臓のことです。センポコは牛の大動脈のことですが、ドイツ語ではありません。大動脈はたくさん(セン=1000)脈打つ(ポコポコと音がする)からだという話はありますが、どうでしょうね(笑)。久留米の焼きとり屋という点では、串物以外にもメニューがバラエティ豊かな店が多いという特徴もあると思います。焼きとり専門店というより居酒屋。いろんなものがあって飲みにいきやすいんですよ。うちも『もつ鍋』もやってますしね(笑)」。
ダルム、センポコ、オリジナルの丸腸ごぼう巻きなどおすすめの串を焼いていただいた。「ダルムは洗って2時間ほどボイルするなど下ごしらえに時間がかかるんです。ボイルしないとやわらかくならないんです。生だと弾力がありすぎてゴムみたいなんですよ」。
「臭み消しの野菜なども一緒に煮込みますが、香りなど独特のクセも多少残るようにするのがポイントですね。そして、タレ焼きもありますが、ダルムは塩焼きが基本。その他の串も塩焼きかタレ焼きかはネタによって大体決まっています。塩は天然の岩塩、タレは砂糖・醤油・ニンニク・ショウガなどを合わせて火をいれたもの。タレはうなぎの蒲焼きのタレのように、新しいものを継ぎ足していきます。ダルムは注文される方の9割は塩焼きですね。焼くのには10分ほどかかります。じっくり焼かないと美味しくならないんですよ」。表面はカリッとしながら弾力があり、ジューシーな旨味が広がる。串に一緒にささっている甘みのあるタマネギがいいアクセントだ。
「センポコは味というよりもコリコリとして弾力のある食感を楽しむ串ですね。刻んでバター炒めにすることもありますが、うちでは串に刺して焼いています」。名前と同様、食感がおもしろいセンポコ。こちらも久留米でぜひ食べたい一品だ。その他、九州産和牛のプリッとした丸腸の中にしゃきっとしたゴボウを詰めてタレ焼きにしたオリジナルの丸腸ごぼう、定番のバラ、多彩な巻物串、チーズを使った個性的な串など芋焼酎に合う串物が多数。
そして、串物の口休めとして欠かせないのが酸味のあるタレがかかったおかわり自由のキャベツだ。「うちでは『キャベツの酢』と呼んでいますが、醤油・酢・レモンなどを合わせたタレをかけています。使う醤油の種類によっても味が変わるし、お店それぞれで違いますね」。キャベツにかけられるタレも店の個性を表しているのだ。
原田さんはお店を営むかたわら、『久留米焼きとり文化振興会』の副会長としても尽力されている。「毎年『久留米焼きとり日本一フェスタ』を開催しています。久留米は日本7大焼きとりの一つともいわれていますが、『久留米焼きとり』の知名度をもっともっとあげていきたいと思っています。久留米は焼きとりを出す店が多いのですが、横のつながりも強いんですよ。イベントなどを通して、お互いに切磋琢磨していきたいですね。私もまじめに誠実に仕事をすることを基本にがんばっていきます!」。
臭みを取り、やわらかくするために洗って2時間ほどボイルするなどして下ごしらえする。10分ほどかけて塩焼きする
塩は天然の岩塩を使う。タレは砂糖・醤油・ニンニク・ショウガなどを合わせたもの。新しいものを継ぎ足しながら使っている
キャベツはおかわり自由。醤油・酢・レモンなどを合わせたさっぱりした味わいのタレがかかっている
久留米の定番・ダルムをはじめ串焼きメニューは50種類以上。丁寧に下ごしらえされ、岩塩だけで味付けされた串焼きで、素材そのものの味を楽しみたい。九州産和牛の丸腸を使った串焼きともつ鍋が自慢のメニュー。オリジナルの串焼き・丸腸ごぼうは、プリッとした丸腸の中にゴボウを詰めて甘辛いタレで味付け。焼酎がとてもすすむ一品だ。