ゴーヤー、島豆腐、卵が基本。さらに豚肉やポークランチョンミートなどが入る。タマネギ、ニンジン等の野菜が加わることもある
昆布カツオ出汁、塩、醤油といったシンプルな味付け。豚肉の脂も、味を高める役割を持っているようだ
卵以外の材料を炒め、出汁を加えた後、塩で味を調整。風味付けに醤油を入れ、溶き卵をまわし入れてかき混ぜる
店名に“南島酒房”と付いているのは、店主・照喜名(てるきな)健さんが沖縄だけではなく、奄美地方を含む島々の料理も視野に入れられているからだ。奄美大島と徳之島だけに生息する『アマミノクロウサギ』から、『黒うさぎ』という店名も付けられている。
「奄美地方も琉球文化圏だったわけですし、南の島の味を集約した店にしたかったんですよ。それに、沖縄から伝わったものが奄美にはそのまま残っていて、奄美のほうが昔の沖縄っぽかったりするわけです。うちの『ゴーヤーチャンプルー』も今の奄美の作り方に似ていますね」。
実際に作るところを見せていただきながらお話をうかがった。材料はゴーヤー、黒豚、島豆腐、ニンジンだ。
「フライパンを弱火で熱して豚肉を焼く、というより置いて脂を出します。
脂が出たら豚肉は取り出し、切った島豆腐を入れて表面に焼き色をつけ、ゴーヤーとニンジンを入れて炒めます。ゴーヤーはワタを取り、切って水にさらしたもの、夏は露地物を使っていますね。
次に昆布とカツオの出汁をたっぷりと注ぎます。豚肉の脂と出汁が混ざった状態になり、食材に出汁の旨味が移っていくわけです。
水分がなくなってきたら味噌を入れ、溶き卵を入れ、塩を少しだけ入れて味を整え、さらに醤油を一滴だけ入れて香りを出します。
また、別なフライパンで先ほどの豚肉を熱します。
皿に島豆腐だけをのせ、ゴーヤー、ニンジン、卵をのせ、豚肉から再び出た脂をまわしかけ、豚肉をのせたらできあがりです」。
作り方も盛付けも、かなり細かい『ゴーヤーチャンプルー』だ。
「食材によって炒める時間を変えていますし、手間ひまかけていますね」。
できあがった『ゴーヤーチャンプルー』は黒豚の旨味と出汁の旨味の中に、それぞれの具材の味が感じられる。味噌は味全体に、まるみをつけているようだ。
「味噌は味を出すためではなく、風味づけ、香りづけに使っています。味噌を入れると、新しい創作系などと思われがちですが、実はこれこそ『ゴーヤーチャンプルー』の原点に近いものだと思うんです。沖縄では、昔は集落ごとに、おばぁたちが集まって味噌を作っていて、『ゴーヤーチャンプルー』にも、それを使っていたんですよ。『ゴーヤーチャンプルー』に使っているのは奄美の大豆の味噌で、昔の味に近い手作り味噌ですね」。
材料に黒豚を使うことにも意味があるとのこと。
「奄美ではよくチャンプルーに黒糖を入れるんですよ。それによって味にコクを出しているんですね。でも、黒糖を入れないで、味に深みや旨味を出せないか考えた時に、黒豚を使うことに行き着いたのです」。
お店を始める前は、食材を取り扱う仕事をされていた照喜名さん。すべての食材に気を配られている。
「僕個人が1番だと思う食材を使いたいですね。うちで使っている食材の9割は沖縄産です。沖縄には、美味しい食材がいっぱいあるのに、あまり知られていないものが多いです。沖縄の食材をたくさん使って、『沖縄ってこんなに美味しいんだよ』ということを伝えていきたいですね。もちろん、いい食材を使うだけではなく、美味しい料理にしなければなりません。沖縄の食材は、とてもパワフルですから、濃い味付けをすれば味が重たくなってしまう。それを、どうやってまろやかにするのか。何か足りない時に、調味料を加えるのではなく、他の食材で補えないのか、そんなことをいつも考えていますね。薄味とか濃味とかは関係なく、ちゃんと素材の味を考えた料理をすれば、みなさんにわかってもらえると思っています。子どもさんの反応のほうが鋭いかもしれないですね」。
日々、新しい味わいを考えられている照喜名さん。『ゴーヤーチャンプルー』も変わることがあるのだろうか?
「今、様々な料理にイタリアンやフレンチの手法も取り入れています。ただ、仕上げは和風で、沖縄の感覚を残すことは絶対に必要です。地元の方も沖縄をイメージできるようなものじゃないと、沖縄でやっている意味がなくなってしまいますからね。そうやって工夫しながら、作ってきました。メニューに載せている料理は、どれも現状で最高と思うものです。『ゴーヤーチャンプルー』も現状では最高なのですが、食材の量的バランスが今のままでいいのかなど、いろいろ考えているんですよ」。
ゴーヤー、黒豚、ニンジン、島豆腐、卵。ゴーヤーは水洗いしてスライスしたもので、夏は露地物を使う
昆布カツオ出汁、奄美大島で手作りされた大豆の味噌(写真)、少量の塩と醤油。黒豚の旨味と昆布カツオ出汁が素材の味を引き立てる
豚肉を熱して脂を出したら、豚肉を取り出す。その脂でゴーヤーなどの具材を炒め、昆布カツオ出汁を加え味付け。豚肉は盛付け時に上にのせる
“コ”の字型のカウンター席とテーブル席がある、バーのような静かな空間。沖縄料理だけではなく、奄美大島の『鶏飯』など、かつての“琉球文化圏”の様々な味を食べられる。珍しい『山城牛』など、吟味して選ばれた素材の味を、手間をかけた細やかな料理法で引き出す。『ゴーヤーチャンプルー』も奄美産の味噌を使ったり、醤油を一滴入れたりと繊細だ。