新鮮なきびなごの味が一番わかるのは刺身。手でさばいた刺身を、各店独自の酢味噌などでいただく
骨もやわらかく、内臓に苦みがないきびなごは天ぷらや塩焼きにしてまるごと食べられることも多い
阿久根エリアで提供されるようになった『キビスキ』など、各店が“きびなごの美味しさを伝えたい”と作る自慢の料理もある
昭和39年オープンの『お食事のふるさと十三』。2代目・濵田豊和さんは“きびなご愛”に満ちた方だ。
「きびなごは小さな魚ですが、輝いていてとても美しい。その美しさにほれぼれしますね。種子島、屋久島、甑島(こしきじま)あたりでよく獲れる鹿児島の代表的な魚、ふるさとの魚です。一年中獲れる魚ですが、5〜7月くらいは子持ちきびなごで美味しいです。小さいときは100gが17〜18匹ですが、大きいときは100gが7〜8匹になりますね。味は淡白で上品。朝昼晩食べても飽きないですね。私は『今日は、きびなごは食べたくない』ということはありません。ぞっこん惚れ込んでいます(笑)」。
濱田さんも大好きだというきびなご。どんな食べ方をされているのだろうか?
●刺身
「きびなごの味をそのまま楽しめるのは生が一番、まず刺身ですね。新鮮なきびなごの頭を取り、手で内臓と骨を取ってさばき、身を丸めて盛りつけます。きびなごをさばくことを“おびく”と言うんですが、昔の人は包丁など使わず、みんなすべて手でやっていましたね。
刺身は味噌、酢、砂糖で作った酢味噌で食べますが、鹿児島の酢味噌はちょっと甘めかな。酢味噌を皿に入れて一切れずつ食べるんじゃなくて、刺身が並んだ皿の上に酢味噌をどばっとかけて食べるのもいいですよ。美味しく食べるのは原始的な食べ方がいいのかもしれません(笑)。鹿児島県大口地方の方は、“びんたおとし”という食べ方をされたりもします。さばかないで生のきびなごを片手でつまんで口に入れ、うまいこと頭をよけるんです。きびなごは鮮度が命で、すぐに身が赤くなったりして傷みます。鮮度が良くないと刺身にはできません。だから、刺身で食べるのが一番贅沢なことかもしれません。阿久根の市場では朝5時頃からセリが始まるのですが、漁師さんたちは自分の船のスピードを考えて、その時間にあわせて水揚げするようにするんです。船のエンジンの性能が左右したりもするわけですね」。
●きびなご天ぷら
頭や内臓を取ったりせず、生のきびなごに衣をつけてそのまま揚げる。
「骨もやわらかいですし、頭や内臓までまるごと食べられますよ。イワシやサンマも内臓を食べますけどほろ苦いですよね。けれどきびなごには苦みもない。ゆず塩や抹茶塩をつけてそのまま食べても美味しいですね。唐揚げもいいですよ」。
●きびすき
「すき焼きは明治時代に牛肉を砂糖と醤油で甘辛く煮た料理ですが、牛肉は高いので、港町では簡単に手に入るサバやイワシを牛肉の代わりに使っていました。この界隈ではきびなごを使って『きびすき』にしていたんです。昔は地引き網とかで、網にかかるのはイワシとかきびなごしかいませんでしたから。砂糖や醤油で作った割下が入った鍋に野菜と一緒にきびなごを入れます。表面が白くなったら食べ頃ですよ。溶き卵をつけてどうぞ。鍋に卵を入れれば柳川鍋風になりますし食べ方は自由です。『ご自分で好きなように食べてください』という料理ですから、ちょっと不親切な料理かもしれないですね。味付けというか割下は店や作り手によって変わりますが、家でやる時に一番簡単なのは、そうめん用のつゆを使うことですね(笑)」。
濱田さんは、きびなごを使った『きびすき』による街づくりにも取り組まれている。2011年12月から『きびすき』を市内十数店舗で提供することにも尽力されているのだ。
「世の中が豊かになって、牛肉も簡単に手に入るようになったので、『きびなごより牛肉のほうがいい』となってきたんですが、昔を思い出すとか、身体に良い料理ということでまた広めたいと思っているんです。きびなごは、三大栄養素である炭水化物、脂肪、タンパク質が豊富で、身体にとっても最高の食材ですからね。地域グルメとして認められて、阿久根と言えば『きびすき』と言われるようになりたいですね。若い世代は『あー、きびなごか。じゃいいや』という方も多くて、きびなごをあまり食べていません。そんな方にこそ、ぜひ食べてみてほしいですね。きれいだし味も旨いし、100人が100人とも感動していただけると思っています。リピーターも多いですしね。店で食べて美味しかったら、家庭でも食べるようになると思うんです。うれしいことに、『きびすき』はだんだん地域に浸透して、『一度食べて、はまってます』と言ってくれる人も増えてきました。心からよかったなと思いますよ。『きびすき』は家庭でできますから、それをきびなご料理の入口として、そこからいろいろな食べ方できびなごを楽しんでいただければと思います。阿久根は小さな町だけど豊かな町、自然と一体化した町づくりを目指しています」。
新鮮なきびなごの頭を取り、手で内臓と骨も取ってさばく。味噌、酢、砂糖で作った鹿児島ならではの甘めの酢味噌でいただく
『きびなごの天ぷら』は、頭や内臓を取ったりせず、生のきびなごに衣をつけてそのまま揚げる。ゆず塩や抹茶塩をつけて丸ごといただく
『きびすき』。砂糖や醤油で作った割下が入った鍋に野菜と一緒にきびなごを入れ、表面が白くなったら溶き卵をつけていただく
座敷が中心の落ちついた店内。生け簀もあり、阿久根港に揚がる新鮮な魚介類を使った料理が自慢。阿久根市でウニ丼祭りや伊勢えび祭りなどが開催される際には、お得なメニューも登場する。新鮮なきびなごの料理は単品もあるが、刺身、天ぷら、きびすきが付く『きびなご三昧定食』2,300円で堪能したい。和食、洋食様々な定食メニューも豊富。
住所 | 鹿児島県阿久根市港町82-3 |
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電話 | 0996-72-1420 |
営業 | 11:00〜14:00/17:00〜22:00 |
休み | 不定 |
席 | 130席 |
カード | 可 |
駐車場 | あり |
URL | http://www7b.biglobe.ne.jp/tomi13/ |