夏は石鯛、冬はブリなど、旬の魚介類が中心で、サザエ、ヒオウギ貝、イカなども。野菜類では特産の『対馬しいたけ』がよく使われる
しっかりと熱された石英斑岩の上で食材を焼く。食材を焼き過ぎないようにすることが美味しく食べるコツ
醤油ベースのタレが基本。焼肉のタレのように濃くはなく、魚介類の味を引き立てるようにコクはあるがサッパリしたものが多い
お店の歴史は半世紀ほど。店主・脇山久史さんは対馬の豊富な海の幸を使った料理を作り続けている。
「対馬は魚の種類も量も多いですね。クエなんか安いし旨い。普通は刺身にして頭など残った部分を鍋にしたりするのですが、対馬ではぜいたくに使ってぶつ切りを鍋に入れたりします。ヒラマサの頭を半分に切って塩焼にした料理なども喜ばれます。ひらまさ、鯛、いさきなど季節の刺身は最高に旨いし、生ウニが美味しい時期もある。
季節ごとに美味しい魚があって、その時に一番いい魚が食べられますね。まあ、美味しいものは、お客さんのほうがよく知っているみたいですが(笑)」。
対馬名物の『石焼』も美味しい魚介類があればこその料理だ。
「『石焼』は元々は漁師さんたちが作って食べていた料理、野外料理ですね。美津島町の根緒地区で漁師さんたちが作っていたのを、同じ地区の民宿がやり始めて、それが広まっていったのです。うちでは20年くらい前からメニューにのせていますね。外で作って食べていたものを屋内でやるようになったということです。家庭ではあまり作られる料理ではありません。『石焼』に使う石は石英斑岩という特別な石で、家庭で持っているところは少ないですからね。昔は浜にもよくあったのですが、今は貴重なものになっています。石英斑岩は焼いても割れにくい石ですが、(見た目は似ていても)違う石だと割れてしまいますし、石英斑岩でも割れて砕けてしまうものがあるんですよ。だから絶対に試し焼きをしておく必要がありますね。ゴツゴツした石がワイルドでおもしろいですが、表面は平たいほうが素材を並べやすいですし、熱効率もいいので、私は削ってもらった石を使っています」。
個室で『石焼』を準備していただいた。
「石を焼くのに1時間半くらいかかりますから、予約していただくのが一番です」。
「焼いていただく素材は、サザエ、ヒオウギ貝、イカなどをよく使いますね。あとは旬の魚と野菜など。
10〜4月は『対馬しいたけ』を使うことも多いですよ。原木シイタケで肉厚なのでとても美味しいですね。
ヒオウギ貝以外の魚介類はそのまま生で食べられるものなので、焼きすぎないようにどうぞ。表面を10秒ほど焼いて、くっつかないようにすぐに裏返して焼くというしゃぶしゃぶ感覚で召しあがってください。石の上にのせて、素材の繊維が締まったらひっくり返すという感覚ですね」。
ジュッという音、煙と香りとともに軽く焼いて、特製のタレにつけていただく。タレは醤油ベースで『石焼』専用のもの。さっぱりとしているがコクがある。素材の旨味・甘味が口の中に広がる。
「石から遠赤外線が出ていて、素材をふっくらと仕上げるのが『石焼』の特徴です。煙が出ますからどこでもできる料理ではないですね(笑)。素材にタレをかけてから焼くやり方もありますが、それだともっと煙が出ますよ(笑)。うちに刺身を食べにくる方も多いですが、『石焼』を一度食べてリピーターになる方も多いですよ。インパクトがありますし、食べてみないとわからない美味しさがありますからね」。
ちなみに、『石焼』を食べた後、締めには対馬名物の『ろくべえ』や『対州そば』がよく食べられているのだそうだ。
メニューには日本語の他、英語と韓国語の表記もある。
「韓国からの観光の方は多いですよ。『石焼』を食べられる方もいらっしゃいます。韓国でも石で焼く料理があるようで、『石焼』は馴染み深いようですね」。
国内外問わず、どんな方が来店しても、対馬の魚介の美味しさ、『石焼』の美味しさには感動されるとのことだ。
サザエ、ヒオウギ貝、イカなどがよく使われ、旬の魚と野菜も使われる。10~4月は特産の『対馬しいたけ』が盛りつけられる
1時間半ほど焼かれた石英斑岩の上で、貝以外の魚介類は両面を軽く焼く。繊維が締まったらひっくり返すという感覚だ
『石焼』専用に作られている、特製の醤油ダレ。サッパリしているがコクがあり、素材の甘味・ 旨味を引き立ててくれる
定食・丼料理から郷土料理・会席料理までそろっているので、様々な用途に利用できる和食処。その時に一番の魚介を使った刺身や一品料理が人気だ。1時間半ほど焼いた石の上で魚介類を軽く焼いて食べる『石焼』は、醤油ベースの特製タレが素材の甘味・旨味を引き立てる。開店から半世紀にわたって、地元の方々からも観光客からも愛され続けている。