九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

麺

小麦粉、塩、水で作られた麺は一度ゆでておき、注文が入ったら温めて提供する。そのため、やわらかな食感を持つ

つゆ

昆布、カツオだけではなく、イリコ、サバ節なども出汁作りに使う。薄口醤油で味付けしたつゆはさっぱりしているが風味豊か

ごぼう天

薄切りをかき揚げにしたもの、ささがきをかき揚げにしたもの、薄切りを一枚ずつ揚げたものなどがあり、博多のうどんに欠かせない

語り 木屋 阿部泰介の「ごぼう天うどん」

阿部泰介さん

博多に夏の訪れを告げる勇壮な祭り『博多祗園山笠』(毎年7月1日~15日)。7月15日の早朝に行なわれる『追い山』では山笠が福岡市内中心部を駆け抜ける。その出発点である櫛田(くしだ)神社のすぐ近くに昭和時代の初めから店を構えるのが『木屋』。二代目・阿部昭憲さんも三代目・泰介さんも生粋の博多っ子、筋金入りの山男(やまおとこ/山笠に参加し、山笠をこよなく愛する男たちの愛称)だ。
「山笠の時期は、山笠の法被姿の男性も多いですよ。うどんは素早くささっと食べられて、てっとり早く腹がふくらむのがいいとでしょうね」。

麺と丼を温める

さっそく『ごぼう天うどん』を作っていただいた。

麺が温まったら湯切りして丼に入れる

麺を釜に入れ、丼を温め、麺を湯切りして丼に入れ、つゆを注ぎ、ごぼう天をのせ、ネギをちらす。

つゆを注ぐ

一連の仕事はあっという間。

ごぼう天をのせ、ネギをちらす

1度目はカメラマンが追いつけなかったほどだ。

あっという間にできあがる『ごぼう天うどん』

「麺を下ゆでしておくのが博多のうどん。麺を温めてつゆを注げばできあがりですからね」。

やや細身でやわらかくつるつると口あたりのいい麺と、風味豊かなつゆの味わいが口の中でからみ合う。そして、かき揚げタイプのごぼう天の衣が徐々につゆにとけ、とても細く切られているごぼうは麺と一緒にすすることができる。衣に軽くついている塩味もほどよい加減だ。
「今は、さぬきうどんのようなコシの強いうどんもあるけど、あんまりかたくなくてやわらかいとが博多のうどん。やわらかいうどんはつゆとよう馴染んで食べやすいよね。ごぼう天は薄切りを揚げたのとか、薄切りをかき揚げみたいにしたのやらいろいろありますね。食べる人の好みやろうけど、うちのはうどんと一緒に食べやすいように細く切っとります。昔より細くしとるね。俺が切って揚げよるけど、切るとは大変かですよ(笑)。ネギも毎日切っとります。切るのは早いよ(笑)。うちで出しているものはなんもかんもすべてうちで作りよります。ただ、丸天だけは地元の老舗蒲鉾店のを使ってます。これも旨いよ。焼いたら焼酎のつまみにもいいね(笑)」。

麺とつゆは泰介さんのお父様である昭憲さんが作られている。
「麺の材料は国産小麦粉と塩と水。前の日に練ったものを一晩ねかせてから使いよります。通常は温度や湿度をにらみながら、常温でねかせておくんやけど、夏は熟成がすすみすぎてやわらかくならんように、冷蔵庫に入れんといかん時もあるんですよ。それとね、夏は冬に比べて水の量を少し控えて、塩水の濃度を少し濃くしたりもしよるね。なかなか難しいとですよ(笑)」。

細かで丁寧な作り方があっての、美味しい麺なのだ。それはつゆ作りも同じだ。
「出汁の材料はカツオ節、サバ節、ウルメなどを基本にしとりましたが、少し材料を増やして、イリコ、アゴなども使うようになりました。これによって、少しインパクトのある味になるとですよ。最近の人は口が肥えとるけんね(笑)。出汁を作る時は、丹念にアクを取りながら決して沸騰させないように、ゆっくりと時間をかけてやっていきます。その出汁に薄口醤油と隠し味を少し入れてつゆを作るとです」。

そうやってできあがったつゆは澄んでいて美しいものだ。つゆは厨房で湯せんした状態にされている。注文が入り麺が温まったらつゆを注ぐのだが、味を均一にするため、湯切りで調整されるのだそうだ。
「けわしい時(忙しい時)はつゆもどんどん使うので問題ないとやけど、ちょっと空いた時はやっぱり湯せんでもつゆの味が少し濃くなるんよね。その時は麺の湯切りのやり方を少しだけ変えて味を調節するとですよ。通常は湯をしっかり切るんやけど、『つゆが少し濃くなったかな』と思ったら、湯切りを少し軽めにしてね。微妙な調節やけどね(笑)」。

この湯切り作業がやはり一番力を使うところで、肩や肘が痛くなる時もあるのだそうだ。
「麺の湯切りをする道具は『てぼ』と言うんやけど、昔は竹製やったね。竹は水がよく切れるけど、竹をつないでいる針金のところがすぐ腐食してしまうんよ。塩が入った麺をゆでると湯の中に塩が溶け出すから、釜の中の湯は塩水ですけんね。今はステンレス製の『てぼ』を使っているので長持ちはします」。

阿部さん親子の手によるやさしい味わいのごぼう天うどん。つゆまですべて飲み干すことで得られる満足感がなんとも言えない。昭憲さんの奥様・英子さんにもお話をうかがった。
「おかげさまで、毎日うどんを食べています(笑)。けれど、店が休みの日の昼に『何食べようか?』となった時、やっぱりうどんが食べたくなるんですよ(笑)」。

『木屋』のうどんは、決して食べ飽きない味わいのうどん。奥様が言われるのだから間違いはない。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

麺

国産小麦粉と塩と水が材料。前日に練ったものを一晩ねかせてから使うが、温度、湿度、季節などで微妙な調整をする

つゆ

カツオ節、サバ節、ウルメ、イリコ、アゴなどを使い、沸騰させずに時間をかけてとった出汁に薄口醤油と隠し味を少し入れる

ごぼう天

細く切ったごぼうに少し塩味をつけた衣をつけてかき揚げにする。ごぼうが細いので、うどんと一緒に食べやすい

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木屋生粋の博多っ子が作る手づくりうどん

昭和の初めから続く老舗うどん店。二代目・阿部昭憲さんと三代目・泰介さんが食べ飽きることのないやさしい味わいを守っている。前の晩にこねたものを一晩ねかせてゆで置きしておく自家製麺に、カツオ節やアゴなどをたっぷりと使った出汁に薄口醤油を加えたつゆがよくからむ、ごぼう天は、ごぼうがかなりの細切りで、麺と一緒にすすることができる。

『ごぼう天うどん』440円と『かしわめし』220円。サービスの漬け物も泰介さんの手作りだ
間口よりも奥行きがある店内。間口の大きさで租税が決められた太閤検地に由来するものだ
古い旅館などもある味わい深い通りに面している『木屋』。入口にも風情がある

木屋

住所 福岡市博多区冷泉町2-34
電話 092-291-6758
営業 11:00~15:30/17:00~22:00
休み 日祝日
28席
カード 不可
駐車場 なし
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