材料となるカニは『シオマネキ』、『アリアケガニ』など。地域によって使われるカニに違いがあるようだ
味付けに使われる調味料は塩、唐辛子(地元ではコショウと呼ばれることが多い)が中心。醤油を少し加えることもある
カニを調味料と合わせて丸ごとすりつぶし、少しねかせればできあがり。作り手のすりつぶし方によって食感が異なる
昭和45年8月2日オープンの『鮨処 だるま寿し』の2代目となる小野さんは、魚介類も野菜類も常に地元の素材を大切にされている。
「有明海で獲れる魚介類も海苔も最高のものです。また、このあたりは干拓地で土地のミネラル分が豊富なので、とても甘くて辛味が少なく、生でかじることができるタマネギもあります。米も美味しいですし、レンコンやグリーンアスパラ、イチゴ(さがほのか)や巨峰も特産品です。これらの素材をしっかり使っています」。
『地場すしの盛り合せ(郷土寿司セット)』では、グリーンアスパラ巻き(3〜9月)、タマネギ・カツオブシ・キュウリが入った巻き寿司、イチゴの軍艦巻き(11〜5月)などが食べられる。ガリも、タマネギを甘酢に漬けた“タマネギのガリ”だ。
お店がある白石町福富をはじめ、有明海沿岸地区でよく食べられる郷土料理『がん漬け』についてお話をうかがった。
「『がん漬け』はカニと塩と唐辛子をすりつぶす料理で、昔はどこの家庭でも作っていました。昔からある食文化ですね。保存食で、瓶に入れて床下に保存していたんですよ。今、うちでは漁師の方が作っているものを仕入れています。カニは『マガニ(シオマネキ)』を使うこともありますが、このあたりでは、『カタシロ』と呼ばれるカニを使った『がん漬け』が好まれます。六角川(ろっかくがわ/白石平野を流れる川)から南は『マガニ』を使っているようですね。また、このあたりの『がん漬け』はカニの粒々というかカリッした食感を残すように軽くつぶしますが、マガニを使ったものは細かくつぶしてペースト状にするものも多いようです」。
では、『がん漬け』はどのようにして食べられているのだろうか?
「塩が効いてるし、焼酎のつまみにもいいですが、熱々の白ご飯の上にのせて食べるのが一番ですね。ちょっとあればご飯3杯食べられます(笑)。塩味とカリッという食感が独特の珍味です。横の人が食べていたら“カリッ”が聞こえてきますからね。福富の人は“カリッ”が好きですね。けれど、初めて食べたお客さんから勘違いされて『砂が入ってる』という苦情を受けたこともありますよ(笑)。うちは寿司屋なので、『がん漬け』をキュウリと一緒に細巻きにしたり、『がん漬けの軍艦巻き』を作っています。醤油などつけないでそのまま味わってください。小鉢としてワラスボ(有明海に棲む珍魚)とからめたものもいいですね。あと、お店では出していませんが、パスタとからめても美味しいと思いますよ」
細巻きはキュウリのシャキシャキ感と『がん漬け』のカリッとした食感が口の中に広がるのがおもしろい。『がん漬け』がたっぷりのった軍艦巻きは、独特の風味と食感をより楽しめ、海苔の甘味にも驚く。その後に、タマネギが入った巻き寿司を食べると、タマネギの甘味がより感じられる。
「このあたりは本当に食材に恵まれています。『海苔の美味しさに驚きました』や『タマネギが本当に甘いですね』など、初めて食べられる方に評価していただけるのはうれしいですね。有明海の魚介、白石平野の農産物…佐賀県の福富というこの地にしかない味をお客様に真心こめてお届けしたいと思っています」。
有明海の魚介や白石平野の特産品を使った寿司が食べられるお店。『郷土寿司セット』では、白石産の甘く辛味の少ないタマネギの入った巻き寿司や、グリーンアスパラ巻き、珍しいイチゴの軍艦巻きなどを楽しめる(※季節によって内容は変わる)。海苔の旨さも絶品だ。『がん漬け』は地元の漁師さんが作ったものを使い、細巻きや軍艦巻きなどを食べられる。