『雉子めし』をつくる時、雉子ガラから出汁をとることが欠かせない。鶏ガラとは異なる雉子ならではの濃厚な旨味を持つ
雉子肉以外の具材としては、しいたけ、ニンジン、タケノコ、ゴボウなどが一般的。コンニャクや油揚げを使うこともあるようだ
雉子ガラ出汁を甘辛く味付けし、具材を煮込む。その具材を米と一緒に炊く作り方と、炊いた白ごはんと混ぜ合わせる作り方がある
しいたけ栽培が盛んな国東エリアの山香町で、しいたけの栽培農家に育った岩尾育郎さん。春の『やまが温泉エビネまつり:5月3日~4日』と秋の『山香ふるさとまつり:11月の第2土日』の年に2回だけ、地元のみなさんと『雉子めし』を作り、販売されている。今回は特別に『雉子めし』作りについて教えていただいた。
「まず雉子のガラから3時間ほどかけてアクをとりながら出汁をとります。鶏ガラよりも濃厚な出汁が出ますね。食べやすいように切った雉子肉を炒め、さらにゴボウを加えて炒めゴボウがしんなりしてきたら、雉子出汁、醤油、酒、みりんを加えて味付けし、濃いめの味になるように煮込んでいきます」。
「肉の脂の具合に合わせて時間など煮込み方を調整しています。そして、米を研いで釜に仕込み、味付けした具材をのせて一緒に炊き上げるのです」。
「米は地元の山香米。冷えても味がいいということでお寿司屋さんに人気の高い米です。それに山香は水もいいですよ」。
米3升が炊ける大きなガス釜のスイッチが押された後、雉子についてのお話をうかがった。
「このあたりにも雉子はいますが、生け捕りにすることは難しくて、鉄砲で撃たないと獲れないんですよ。しかし、禁猟区も広いのでなかなか野生の雉子が手に入ることはなかなかありません。ですから、昔からとても貴重な食材でした。手に入った時はすき焼きにして食べることも多かったようです。私の母親は『雉子めし』を作っていたのですが、とても贅沢なものだったと思いますよ(笑)。その味が、私が作っている『雉子めし』の味の元ですね。今、私たちは養殖の雉子を使っています」。
だんだんといい香りが釜の周辺に漂い始める。約25分で炊き上がり、ふたをあけて全体を混ぜ、さらに10分ほど蒸らしてできあがり。
湯気がたちのぼるアツアツの『雉子めし』を口に運ぶと、鶏めしとは違う香りと旨味が口の中に広がる。
「具材は雉子肉とゴボウだけです。初めはしいたけとかニンジンなども入れていたのですが、肝心の雉子肉の香りや味が弱まってしまうのでゴボウだけにしたのです。肉をたっぷり入れていますので、雉子本来の旨味がよくわかると思いますよ。コクがあるでしょう?ゴボウは大分市戸次(へつぎ)産で、強い香りがなく『雉子めし』の味わいを損ねないのです。歯応えもいいですね」。
雉子肉も濃厚な味わいでやわらかい。釜の底にできたおこげもごちそうだ。
「たっぷり肉を入れていますが、雉子は今でもとても貴重な食材なんですよ。雉子は鶏よりも小さく、一羽でガラまでいれて1kgぐらい、肉は700gくらいしか取れません。高級牛肉と変わらないくらいの値段がしますよ(笑)。けれど、肉がたくさん入っていないと、味がわからないですからね。イベント時はパックに詰めて販売しますが、その時も沢庵などは入れません。雉子ならではの香りと味が大切ですから(笑)」。
岩尾さんが『雉子めし』を作るようになって30年近く。1パック400円という値段を変えず、毎回、1000食以上が完売しているとのことだ。
「1人で5パック買っていかれる方もいるんですよ。知らない方の中には『ひじきごはん?』という方もいらっしゃいますが一口味見していただくと大抵買ってくださいますね。『雉子めし』は高級品で採算度外視ですが(笑)、“地域に伝わり食べられている美味しいもの”ということで多くの方に届けたいし、食べていただきたいと思っています」。
岩尾さんたちは、簡単には食べられない『雉子めし』を守り、多くの方に伝えているのだ。
雉子のガラを3時間ほどかけてアクをとりながら炊いて出汁をとる。鶏ガラよりも濃厚な出汁味わいだ
雉子の旨味を引き立てるため、雉子肉と、強い香りがなく『雉子めし』の味わいを損ねない大分市戸次(へつぎ)産のゴボウのみ
雉子肉とゴボウを炒め雉子出汁、醤油、酒、みりんで濃いめの味に煮込む。米を仕込み、煮込んだ具材をのせて一緒に炊き上げる