水芋(蓮芋が使われることもある)の芋茎の皮をはぎ、水や酢水でアク抜きして適当な大きさに切る。最近はアク抜きして切られた芋茎も売られているようだ
甘酸っぱくさっぱりした味わいに仕上げるための煮汁に使うのは砂糖、酢、醤油など。アクセントに唐辛子も使われる
煮汁に芋茎を加えて煮るが、シャキシャキした食感を残すために煮過ぎないことが重要。冷やせばより爽やかな味わいになる
1984年にオープンした割烹。凛とした雰囲気の店内はカウンター10席のみ。カウンターの中で美しい手さばきを見せてくれるのは店主・光野勉(みつのつとむ)さんだ。
「私の作る料理は野菜が中心です。まず野菜を仕入れ、どう使うかを決めてから、それに合う魚介を考えて料理を組み立てています。佐賀は市場に買いに行った時に、同じ野菜でも生産者が違うものが置かれていて選べるのがいいですね。野菜は生産者さんの人柄が出ますから。買う人もみんなわかっているようで、人気の生産者の野菜はすぐになくなってしまいます(笑)。それから有明海と玄界灘というまったく違う海に面していて、魚介の種類が豊富なのも佐賀の魅力ですね」。細かなメニューはなく、光野さんが吟味した旬の素材で作るおまかせコースのみ。佐賀の旬を感じる美しく、食べやすく、上品な味わいの和食を楽しめる。
『にいもじ』は夏の時期、小鉢や焼き物のあしらいとして提供される一品だ。
「佐賀では7月から8月にかけてのもので、お盆の頃によく食べられる料理ですね。家庭料理ですし、みなさん家で作って食べることが多いでしょうから、あまりお店で食べることはないのではないでしょうか。芋茎を酢と砂糖で煮て盛り付けるだけですよ」。そう笑う光野さんだが、割烹ならではの『にいもじ』作りを教えていただいた。
『にいもじ』には水芋がよく使われるが、光野さんは蓮芋を使う。「蓮芋は水芋よりも芋茎の中にある気泡が多いので食感がよりサクっとしているんです。それから、煮た時に水芋は少しピンク色になりますが、蓮芋はきれいな緑色のままで見た目がきれいなんです」。
芋茎の皮をむいて切った後、すぐに煮る。「アク抜きする料理法もありますが、私はアク抜きせずにそのまま煮ています。煮汁に酢が入っているので大丈夫ですし、きれいな色を出すためにもアク抜きしないほうがいいんですよ。煮汁は、酢と砂糖を合わせて水で割ったものに唐辛子をいれます」。
煮汁が沸騰した瞬間に芋茎を入れ、煮るのは1分かからないぐらいで、すぐにザルに取り出して冷まします。煮すぎると食感がなくなってしまいますからね。うちは割烹ですから(笑)、品良く盛り付けてできあがりです」。
口にするとサクっとした食感の中に爽やかな酸味と甘みを感じ、唐辛子の辛味が後を追う味わいだ。
「シャキシャキとした食感も大事にしている料理ですね。少し甘みがあったほうが美味しいし、なつかしい味ですよね。食感が全く変わってしまいますが、おひたしにしても美味しいですよ。芋茎を味噌汁に入れる食べ方もありますね。『にいもじ』は佐賀に昔から伝わる料理ですが、若い方のなかには知らない方もいるかもしれないですね」。
お店での仕事の他、茶席で茶懐石を料理したり、高校で料理の先生も務めている光野さん。どんな時も大事にされていることがある。「季節感と食べる方に対する思いやりが大事だと思っています。たとえば切り方ひとつでも食べやすくすることができるのですから。高校でも厳しく言ってますよ(笑)」。
佐賀の夏の風物詩である『にいもじ』にも、光野さんのそんな想いが込められている。
こちらでは水芋の代わりに食感が少し異なる蓮芋が使われることが多い。皮をむいて適当な大きさに切る
煮汁に使う調味料は砂糖と酢のみ。鍋に砂糖、酢、水を合わせ、さらに唐辛子を加えて沸騰させる
煮汁に切った芋茎を入れて1分弱ほど煮る。シャキシャキとした食感を残すため、火が通ったらすぐにザルにあけて冷ます
料理は地元産の旬の野菜とそれに合う魚介で組み立てられたおまかせコースのみ。美しく、食べやすく、上品な味わいの料理を楽しめる。『にいもじ』は小鉢や焼き物のあしらいとして提供される一品で、割烹料理として色味のことまで考え作られている。爽やかな酸味と甘みに続き、唐辛子の辛味が後を追う。