アジ、イリコ、カマスがよく使われるが、タイなどを使うことも。焼いてほぐしたあと、味噌と一緒にすり鉢で練る
焼き味噌(冷汁の素)を溶く出汁は昆布、カツオ出汁ベースにする場合が多いが、焼き味噌によっては冷水で溶く場合もある
冷汁に入る具材や薬味としては、キュウリ、豆腐、大葉がよく用いられる。地域ごと、作り手ごとにアレンジが加わることも多い
昭和32年の創業。宮崎県・新富のそば粉をはじめ国産のそば粉を使うそばを出して半世紀以上が過ぎた。
「冷汁は昭和50年くらいからやっています。はじめは夏限定のメニューだったのですが、今は冬でもやってて一年中ですね。私も小さい頃朝ごはんでよく食べていましたが、家庭で全部味が違いますね」とは女将・清山しげよさん。家庭にも根ざしている冷汁だが、『東京庵』では家庭で作られるものとはひと味違う、より上品な味をつくっている。冷汁には欠かせない魚に鯛を使っているのだ。
「イリコやカマスではなくて、鯛を使っています。鯛を焼き、皮、骨、身をばらばらにほぐします。身だけをすり鉢に入れ、ごまを入れてすります。そこに味噌を合わせてすり鉢でよくすりあわせます。味噌は麦と米の合わせみそで、オリジナルで調合してもらっていますね。まとまったら、まるくまるめた味噌玉をつくって冷蔵庫でねかせます。鯛は上品で甘さが出るのがいいとこですね。鯛を焼いた時に少し焦げ目がつくのでそれで香ばしさも出ます。鯛によって脂ののりが違ったりするのでそれに合わせて調節が必要ですね。いい鯛が入った時にはうれしくなりますね(笑)」。
そして、その味噌玉を溶く出汁もこちらの店ならではのもの。
「宮崎のうどん・そばの出汁によく使われるイリコは使わず、昆布、サバ、カツオの一番出汁を使いさっぱりした味の出汁にしているのが特徴ですね。そばツユにも使う出汁を冷汁にも使っているんです。味をまろやかにするため、出汁に味噌玉を入れて一度沸騰させて、それから冷やすようにしています」。
たっぷりのきゅうりと大葉は別添え。米と麦の割合は7対3ぐらいの熱々麦ごはんに冷たい汁をかけて食べる。冷たくもなく熱くもない人肌の温かさもやさしい。汁っぽくなくて山かけごはんのようにとろとろで、鯛の甘味、旨味がとけこんでいるようだ。
「みなさんのおかげで50年やってこれました。地元に愛される大衆食堂みたいな店でありたいと思っています」。そばをはじめ、どのメニューもお手頃な価格。多くの人から愛され、毎日訪れる人もいるのだそう。
「休みの日があると困る」と言われて休みなしになりました(笑)。何日か顔が見えない人がいると心配になったりする方がたくさんいるんです。毎日冷汁を食べにくる方もいるんですよ」。
毎日食べてもまた食べたくなるやさしい味…それが冷汁の味わい。東京庵も冷汁の素朴な魅力をしっかりと守っているのだ。
鯛を焼いてほぐした身だけを使う。米と麦の合わせ味噌は、特注のオリジナルブレンドだ。すり鉢とすりこぎでしっかりとすり混ぜていく
鯛と味噌でできた味噌玉をねかせたものを溶くのは、昆布、サバ、カツオの一番出汁。溶いたものを一度沸騰させて冷やしてから使う
具材はきゅうり、大葉、豆腐。別の皿に盛りつけて出されるので、好きな食べ方でいただくことができる
宮崎市の繁華街・中央通りにある昭和32年創業の老舗そば屋。国産のそば粉を使うなど本格的なそばを出すが、「地元に愛される大衆食堂のような店でありたい」と、『ざるそば』500円、『かけそば』400円他、どのメニューも気軽に楽しめる価格だ。そば屋ならではの出汁をつかった冷汁や、チキン南蛮といった宮崎の郷土料理をいただくこともできる。