ゆでる、あるいは蒸す、という料理法で提供された旭蟹がその旨味が一番わかる。各店が料理法に工夫を凝らしている
酢と醤油を使ったさっぱりしたカニ酢をつけていただくのも美味しい。二杯酢、三杯酢など、酸味や甘味のバランスが重要
シンプルな食べ方だけではなく、旭蟹を使った様々な料理もある。そのどれもが、旭蟹の旨味を別な角度から引き出している
宮崎の郷土料理に詳しい森松平さん。旭蟹についても、生息地域の話から始めていただいた。
「旭蟹は、宮崎、鹿児島、屋久島、種子島あたり、南の海でよく獲れる蟹ですね。この近くでは、大分の蒲江でもよく獲れるようです。私は、枕崎出身なのですが、小学生の頃から触っていましたよ。私はこの蟹が好きなので、調べたり見に行ったりしているのですが、紀伊半島の串本でも見たし、香港の料理屋さんでも見ましたよ。うちにムツゴロウ先生が来てくださったことがあるのですが、『八丈島にもいるよ』と言われてました。沖縄にもいましたね。沖縄で食べるとお店の方は『沖縄にしかいない』と言われるし、高知で食べると『高知にしかいない』と、お国自慢になります(笑)。これは漁獲が少ないからなのでしょうね。オーストラリアにもいて、最近は輸入もされていますよ」。
続いて漁のお話も…。
「旭蟹は深さ50mくらいの砂地にいます。天気が悪い日が続くと土中に潜っているのですが、晴れの日が続くと上に出てくるんです。丸いわっかに網を張ったものの中央にエサをつけておくと旭蟹がそれを食べに来ます。網に手足がからまってそれを捕まえるというわけです。かかった旭蟹はすぐに取らないと、アカウミガメに食べられてしまうんですよ」。
森さんは現在、旭蟹をシンプルにゆでて提供されている。
「2%の塩水を火にかけ、沸騰手前の80度〜90度くらいで旭蟹を入れます。水の状態から蟹を入れておくと、出汁が全部水に出てしまうんですよ。また、ぐらぐらと沸騰しているところに入れると足がもげてしまうんですよ。人間の身体は0.9%が塩分。吸い物は1%くらい。海水は3.5%くらい。なので中間の2%くらいにしているんです。真水に入れると旨味がすべて逃げてしまいます。だから、塩水で旨味をとじこめている感じですね。身は10分で固まりますが、それでは蟹みその部分はま固まりません。蟹みそが固まるように40分ほどゆでるんです。昔は1時間ほどゆでていたのですが、試してみて40分くらいがいいことがわかってきたんです。生の旭蟹は朱色ですが、ゆでると鮮やかな赤色になりますね」。
ゆであがった旭蟹を食べやすいように手を加える。
「甲羅をはずし、余分な部分を取り除きます。しっぽみたいなところはハカマと言いますが、メスが大きいですね。食べやすいように4つに切っておきます」。
ザクザクと音がした後、そのうちの一つを手にとって見せてくださった。
「ほら、うまい具合に蟹みそが固まっているでしょう。これはゆで方にもよるんですが、鮮度が悪いとかたまらずに流れてしまうんですよ」。
美しく盛りつけられた旭蟹。上手な食べ方はあるのだろうか?
「蟹はきれいな食べ方はないですよ。手を汚して食べるのがいい食べ方、かぶりつくのが一番です。小さな部屋のようなものがたくさんあり、蟹の身はその中に入っているので、口に入れると自然に身がはがれてくるんですよ。まずは何もつけずにそのまま食べてください」。
蟹独特の旨味の中に、ほのかな甘味も感じられる。次に、二杯酢で食べることをすすめていただいた。
「旭蟹は特製二杯酢で食べるのがいいですね。蟹には、通常、三杯酢を出す店も多いです。三杯酢は酢3、薄口醤油1、砂糖1の割合です。旭蟹の旨味を味わうには、砂糖はないほうがいいと思います。普通の二杯酢は、酢と薄口醤油だけですが、私はそこにカツオコンブ出汁も加えています。私が出している二杯酢は酢2、薄口醤油1、出汁3の割合ですね。これは旭蟹を食べるためだけに作るものです。やわらかい味になりますね」。
この特製二杯酢をつけていただくと、旭蟹の甘味がさらに引き立ってくるようだ。
年に8回コースメニューが変わる『杉の子』の料理。その中で旭蟹が食べられるのは例年4〜9月だ。
「特に夏前の卵をもっている時期のメスは美味しいですね。産卵の後はオスが美味しくなります。私は青島の港から取り寄せていますが、やはり宮崎の旭蟹は旨いと思います。オーストラリア産のものとは違うようですね。魚介はなんでもそうだと思うのですが、食べているエサによって味が変わります。例えばアジなどは、近海のものは身が白くて大きく、黄金色に輝いていますが、遠洋のものは、身が黒っぽかったりします。宮崎の旭蟹はイワシとかアジとかいいものを食ってるから旨いんだと思いますよ」。
今はゆでた旭蟹を提供している森さんだが、蒸していた時もあったのだそう。
「当初はゆでていましたが、ある時、上海で蒸したものを食べたら美味しかったんです。その後からは蒸していました。しかし、またとある店でゆでた旭蟹を食べたらとても美味しかったんです。そこで、私がどちらも作って改めて比べてみた結果、ゆでることにしたんですよ。私は、『これがいい』と思ったらなんでもやってみます。今も進化中ですよ(笑)」。
長い料理歴を持つ森さんだが、柔軟な発想に驚かされる。
「美味しい料理を作りたいだけです。私は旭蟹が好きなんですよ」
2%の塩水を火にかけ、沸騰手前の80度〜90度くらい旭蟹を入れ40分ほどゆでる。塩水を使うのは、旨味をとじこめるためとのこと
酢2、薄口醤油1、カツオコンブ出汁3の割合で合わせる特製二杯酢。さっぱりした風味が、旭蟹の旨味を引き出す
ゆでて提供される以外で、旭蟹の身を薄焼き卵で巻いた『旭蟹錦糸巻』などが、コース料理の前菜として出されることもある
昭和45年創業。宮崎の食材を「愛しとります」と言う店主・森松平さんが作る料理は、宮崎の旬の素材を使ったものが中心。『旭蟹』や『冷汁』など、その季節に美味しい郷土料理をいただくこともできる。コース料理(4200円〜)は年に8回大きく変化させているが、夏が長い宮崎だけに、夏は3回変わるとのこと。季節毎の旬の魚介、旬の野菜の味を楽しみたい。
住所 | 宮崎市橘通西2-1-4 |
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電話 | 0985-22-5798 |
営業 | 11:30〜14:00/16:00〜OS22:30 ※昼間は予約制 |
休み | 不定 |
席 | 120席 |
カード | 可 |
駐車場 | あり |
URL | http://www.miyazaki-suginoko.net/ |