九州の味とともに 夏

この料理の"味のキーワード"

下ごしらえ

殻から身を外し、よく洗って身を適当な厚さに切る。食べやすいように、切る前に、身に切れ目を入れることもある

味噌

麦味噌や米味噌に、醤油・砂糖・みりんなどを加えて味付けした、作り手自慢の特製味噌が使われている

焼き方

殻に身と肝をのせて特製味噌を塗って焼く。身の食感や甘みを引き出すため、焼き方にも工夫が施されている

語り 宴彩 黒潮 高田敏治の「ながらめの味噌焼き」

高田敏治さん

親子3人で出迎えてくださったのは、ご主人・高田敏治さんと奥様の、きのさん、2代目・健剛さん。ご主人・高田敏治さんにお話をうかがった。
「うちの魚介は毎朝、南種子の市場に買いに行くので、鮮度抜群です。今日仕入れて残った分は、次の日の、煮物や焼き物にします。お刺身などは、毎日新鮮な魚介を食べていただけるんです」。

『ながらめ』も、その日の朝仕入れたものが料理される。
「近年、あまり大きなものが獲れなくなってきているのですが、今日の『ながらめ』は大きいし、肉質も良いですね。昔は豊富でしたし、誰でも獲っていましたが、今は漁業権のない人は獲ってはいけません。監視員が見回りもしていますよ。それほど貴重なものになってしまったんです。買う時は、1kgがいくらとか、重さで値段が決まるのですが、殻に小さな貝などがくっついていると、その分重くなるから困りますね。私の実家は門倉岬(種子島南部の岬)の近くで、『ながらめ』は本当によく食べていましたよ。ごはんにのせて食べてました。今は値段も高くなってしまいました。高いですから、注文される方は『1枚ください』とか『2枚ください』という頼み方になりますね」。

アワビの仲間の一枚貝である『ながらめ』。殻の裏側にある身の色は、すべて同じ色ではない。
「白っぽいのと茶色っぽいのがありますが、茶色っぽい方が、より元気で新しい『ながらめ』ですね」。

生きている『ながらめ』はウネウネとうごめいている。刺身でも食べられる新鮮な『ながらめ』で味噌焼きを作っていただいた。
「砂などがついていることがあるので、まずは洗います。洗っていると“ツノ”(触手)が端から出てきたりしますが、これはまさに生きている証拠ですね。

洗って水分を拭き取る

よく洗ったら、水分を拭き取ります」。

ここから細かな手が加えられていく。

「身に包丁を、かのこ状に入れます。こうしておくと、味がよく染み込みますし、食べやすくなりますからね。包丁を入れると、活きのいい『ながらめ』は、きゅっと締めてきますよ。

身に、かのこ状の切れ目を入れる

切れ目を入れたら全体に日本酒をふりかけます。独特の磯の香りを取るためと、貝の身をやわらかくするためです」。

酒をふりかける

焼き方も細かい。

「まず、殻を下にして天火で身の部分を焼き、少し焼いたら裏返して殻を焼きます。

天火でまず身を焼く

そして、殻から身と肝を外して、身を切ります。とても熱いですよ(笑)。

殻から身と肝を外し、身を切る

肝と、切った身を殻の上にもどし、特製味噌を塗ってもう一度焼きます。

殻に肝と身をのせて味噌を塗る
味噌に焦げ目がつくまで焼く

味噌に焦げ目がついたらできあがりです。この味噌は米味噌に酒や卵などを入れて火を加えながら4時間ほど練り上げたもの。米味噌は粒々感がないので馴染みやすいですし、味噌自体の香りも、やわらかですからね。味噌だけでも美味しいですよ(笑)。『ながらめ』を焼く時は、弱火で時間をかけるような焼き方だと、身がかたくなってしまいます。独特の食感を残すためには、強火にして短い時間で焼かないといけませんね。それから、長い時間をかけて焼くと身が縮んで小さくなったりもしますね」。

種子島の海辺で採れる『ハマゼリ』も添えられた『ながらめの味噌焼き』。コリコリとした食感のあとに、やわらかさも感じられ、特製味噌との相性が絶妙。肝の部分は口の中でとろけるようだ。
「身の味は、どの部分も変わらないと思うのですが、端っこより真ん中を真っ先に食べられる方が多いですね」。

さらに『ながらめの刺身』も作っていただいた。コリコリしてやわらかい『ながらめ』の食感、かむほどに感じる甘味がダイレクトに伝わってくる一品だ。
「冷凍した『ながらめ』は1年中食べることもできますが、刺身の美味しさが味わえるのは、活き『ながらめ』が手に入る5月から8月までのものです。ご予約いただき、なおかつ質の良い『ながらめ』が揚がった時にしか食べられないものですね」。

『ながらめ』は味噌焼きや刺身以外に、煮て食べたりもするのだそうだ。

高田さんは東京の天ぷらの名店『天いち』などで働かれた後、昭和57年に種子島に戻られ『宴彩 黒潮』をオープンされた。
「種子島は美味しい食材がたくさんありますね。屋久島でも同じ種類の魚はいるけど、味が違うんですよ。苦竹(にがだけ)、ハマゼリ、イソゼリなど野菜類もたくさんあります。苦竹は、タケノコなのですが、アク抜きしなくても、そのまま料理できるんですよ。味噌煮にしても炒めても天ぷらにしても最高ですね。歯応えがいいですよ。安納芋も種子島の特産品で、種子島産でしか、甘さや味わいが出ないんですよ。種子島の土が黒土であることや海風がいいのでしょうね。天ぷらでも、ふかし芋でも美味しいですね」。

奥様・きのさんも種子島の美味しいものを教えてくださった。
「私は種子島で獲れるミズイカの、ミミのところの天ぷらが大好きなんです!(笑)」。

女将・高田きのさんと2代目・高田健剛さん

2代目となる健剛さんは種子島の風土を教えてくださった。
「種子島はのどかで人情味豊かで、ゆっくりとした時間が流れています。みんな世話好きだし、そのせいか、島へ移り住んでくる方も多いですね。人と人とのつながりも温かくて、食べることに困らないんですよ。知らないうちに玄関先に野菜が置かれていることもありますからね。どなたかが置いていってくれるんです(笑)」。

高田さん一家の温かな人柄も『宴彩 黒潮』の魅力に違いない。

この料理人こだわりの「味のキーワード」

下ごしらえ

生きている『ながらめ』をよく洗い、身に、かのこ状に包丁を入れた後、身をやわらかくするため日本酒をふりかける

味噌

米味噌に酒や卵などを入れて火を加えながら4時間ほど練り上げたもの。米味噌は粒々感がないので馴染みやすく、香りもやわらかい

焼き方

まず、殻を下にして天火で身の部分を焼き、裏返して殻を焼く。殻から身と肝を外して身を切り、殻の上に戻して味噌を塗って焼く

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宴彩 黒潮種子島の旬の魚介と野菜を味わえる和食店

魚介は、南種子の市場から毎朝仕入れたもの。種子島ならではの新鮮な魚介を使った刺身などで、その美味しさを味わえる。苦竹、ハマゼリ、安納芋など、種子島ならではの野菜の味わいも格別だ。刺身でも食べられる『ながらめ』に細かな下ごしらえをして焼く『ながらめの味噌焼き』は、特製味噌と、身の旨味がよく合う。身の甘さが際立つ『ながらめの刺身』も美味。

『ながらめの味噌焼き』1コ1,000円前後(時価)
『ながらめの刺身』は1コ1,500円前後(時価)。肝をボイルしたものもついている ※5月〜8月限定
『刺身盛り合せ』(4人前程度)3,500円。写真の盛り合せはクロダイ、ミズイカ、ブダイ、スギ(ミョウギシ)などが使われている
苦竹、安納芋、ハマゼリを使った『天ぶら盛り合せ』一人前800円前後。安納芋は甘く、浜ゼリはほどよい苦みを持っている
※写真は3人前
個室もあるので家族連れも多いとのこと。ロケット打ち上げの“打ち上げ”にもよく利用されているそうで、店内にはロケット関係の写真も飾られている

宴彩 黒潮

住所 熊毛郡南種子町中之上2853-5
電話 0997-26-0847
営業 11:30〜14:30/17:30〜OS22:00
休み 月2回不定(第1・3火曜休みのことが多い)
100席
カード 不可
駐車場 あり
URL http://www3.ocn.ne.jp/~kurosio/
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