家庭ではブリ、マグロ、アジなど季節の魚を一口大に切ったものを使うことが多いが、飲食店ではマグロの赤身を使うことが多い
おからと一緒にまぜられるのは、刻んだネギやすりおろしたショウガ。カイワレ大根を入れる店もある。カボスの絞り汁も欠かせない
きらすまめしに使われる唯一の調味料で、この中に魚を入れてヅケにする。醤油のみ、三杯酢など、各店・各家庭ならではの味だ
『きらすまめし』は江戸時代の天保年間(てんぽうねんかん1830年〜1843年)に臼杵で生まれたと言われている。臼杵の文化や郷土史に詳しい『居食屋 もんく』の店主・吉田稔さんが『きらすまめし』の歴史的背景などをお話してくださった。
「天保年間には『天保の大飢饉』がありました。倹約令も出され、日本中が大変だったなか、伊達藩と臼杵藩だけはうまく乗り切っています。伊達藩は元々裕福な藩だったようなのですが、では裕福ではない臼杵藩は一体どうしたか? 徹底した倹約をやったのです。その時、この地方をおさめていた殿様ではなく、側近の村瀬庄兵衛(むらせしょうべえ)が殿様に変わって行政改革を行ない、貧しい藩を立て直したのです。武士の給料を減らし、衣類も質素なものにし、下駄もかかとがない半分の大きさのものに、女性のかんざしにいたるまで倹約させたのです」。
そんな中で生まれた料理が『きらすまめし』だったのだ。
「その時代、侍よりも町人のほうが裕福だったようで、侍たちは刺身も食べられなかったようです。町人たちが食べた後の中落ちの部分におからをまぶして食べていたようです。おからも質素倹約そのものという食材ですしね。“きらす”は、“切らず”という意味で切ることのないおからを表します。“まめし“は“まぶす”という意味です。私の親や祖父は“まめし”という言葉を使っていて「ごはんに漬け物まめして食え」みたいな言い方をしていましたね」。
では、吉田さんのつくる『きらすまめし』は…。
「家庭では季節の魚を使いますが、うちはマグロを使っています。マグロを醤油などを使ったタレで軽くヅケにして、すり鉢ですったおからとまぶします。おからは臼杵の豆腐屋のいいものを使っていますよ。素材がいいから、とりたてて味はつけていません。食材を生かすために、私は無理な味付けはしませんね。ですが、『きらすまめし』は江戸時代から家庭でも食べられている郷土料理だし、食文化は家々で違うわけで、何が正しいとか正しくないとかはありません。甘口が好きな人は砂糖入れたり、辛いのが好きな人は唐辛子入れたりもしています。醤油をかけて食べたっていいですしね。自分が美味しいと思うようにアレンジする、それが郷土料理であり家庭料理だと思います」。
ネギがまぶされ、カイワレ、カボスが添えられた『きらすまめし』は、マグロにからまるおからが、きめ細かくてとても滑らかな口あたりだった。
臼杵出身で元ジャズミュージシャンの吉田さんは一度臼杵の街を離れたが、昭和50年に臼杵に帰り店を始めた。
「帰ってきて、どこに行っても臼杵はすばらしい街だと感じました。そこで街の勉強を始めてだんだん詳しくなりました。趣味ですが(笑)」。
吉田さんの“臼杵熱”は熱く、臼杵出身の賢人たちの生涯を紹介した本を出版されているほどだ。
「大友宗麟時代、臼杵の街はヨーロッパ文化の影響を受けているんです。ヨーロッパの街は碁盤目状ではなく放射状になっていますが、臼杵もそうなんです。臼杵の町は元禄時代の地図とほとんど変わっていないんです…」。
焼酎の肴は、『きらすまめし』と吉田さんの臼杵の話になりそうだ…。
臼杵に揚がる新鮮なマグロを使っている。スリ鉢ですってなめらかにするおからの中で、マグロの弾力と甘味がより際立つ
おからとともにネギがまぶされ、カイワレ大根が上にのる。盛りつけられた小鉢にはカボスが添えられるので、好みでしぼる
マグロを漬けるタレは、醤油などを使ったものだが、素材そのものの味をいかすため、濃い味付けにはしていない
「素材の味を生かすために、無理な味付けはせずにシンプルに料理する」が信条。ふぐ唐揚げや、臼杵の魚屋にもほとんど並ぶことがない黒ハモの唐揚げ、太刀魚の箸巻き唐揚げなどは絶品だ。マグロを使った『きらすまめし』はおからがきめ細かくてなめらか。臼杵の文化や郷土史に詳しい店主・吉田稔さんとの会話も楽しい。
住所 | 臼杵市掛町4組 |
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電話 | 0972-63-5964 |
営業 | 11:30〜14:00/17:00〜22:30 |
休み | 不定 |
席 | 15席 |
カード | 不可 |
駐車場 | なし |
URL | http://www.usuki.info/monk/ |